第9話 空襲

5月になった。この生活を続けて1か月経った。

保乃は勤労学生の生活にすっかり馴染んでいた。いつもさくらと一緒に働いて、帰る前に淳介と話をして帰宅する。厳しい時代であっても幸せに過ごしていた。

今日もそんな一日になる。誰もがそれを疑っていなかった。


お昼前、さくらと保乃は宿舎の掃除をしていた。

「ひいい、部屋の数が多いよー!」

保乃が弱音を上げる。さくらがそんな保乃を見て言った。

「もう、やらないといけないから頑張るよ!」

部屋を掃除し終え、2人は昼ごはんの用意をするため基地の食堂に向かおうとした。

その時、ウーーー、ウーーー!!

サイレンが鳴り響く。保乃も聞いたことがあった。空襲警報のサイレン。

「え、空襲!?」

保乃は慌てふためく。さくらは保乃の手を取る。

「早く逃げるよ!」

2人は逃げ出した。基地の中は大パニックだった。

「早く逃げろ!」

「総員戦闘体制!」

怒号がそこら中に飛び交っていた。

保乃とさくらは基地から出ようとしたその瞬間、正面からアメリカの爆撃機B29、そして戦闘機がこちらに向かっていた。

爆弾を落とし、機銃掃射をしている様子が見える。

「保乃ちゃん、そっちはだめ!こっちに逃げよう!」

さくらが手を引っ張ろうとしたその瞬間、2人の間を機銃掃射が横切る。

「きゃあ!!」

保乃とさくらは離れ離れになってしまった。その2人を分断するように焼夷弾が落ちる。

「きゃあ!あつい!」

保乃は叫んだ。火の向こう側からさくらが声を上げる。

「保乃ちゃん、逃げて!後で絶対に合流するから。とにかく逃げて!」

さくらの声を聞いて我にかえり、立ち上がり必死に走り出す。

どこが安全なのか分からない。でも生きるために必死に走った。

周りは地獄だった。

「あつい!あつい!」

体を焼かれ悶える人。

「母ちゃん!母ちゃん!」

目の前で母を撃ち殺された子供もいた。

「ひ、ひどい。」

保乃は子供だけでも助けようとかけだした。

「君、お姉ちゃんと逃げるよ!」

その瞬間、目の前が爆発し強烈な爆風が保乃に襲いかかった。

保乃は吹き飛ばされる。

「きゃあ!!」

保乃は朦朧とする意識の中で前を見ると、吹き飛ばされた体の一部があたりに散乱していた。

「う、おええ。」

保乃は吐き出してしまった。目の前の死に保乃は怯えて動けなくなってしまった。

「お父さん、お母さん、なおき。怖いよ。」

保乃は必死で叫ぶ。

「誰か、誰か助けて!」

その声に気づいたのかアメリカの戦闘機が保乃に向かってきた。

「あ...」

保乃が動けないでいると、突如横からものすごい衝撃がきた。

保乃は訳も分からないまま転がる。

「保乃、もう大丈夫だ。」

保乃は見上げると、そこには淳介がいた。淳介が身を挺して守って、保乃に抱きついて射線上から外したのだ。

「淳介さん!」

保乃は涙を流しながら淳介を見上げる。

しかし間を置かず再度、アメリカの戦闘機が向かってくる。

淳介は目の前に立ち塞がり拳銃を構える。

「保乃に手を出すんじゃねえ!この野郎が!」

優しい淳介からは想像ができない恐ろしい声をあげ、戦闘機に向かって発砲した。

何発撃っただろうか、1発が戦闘機の操縦席のガラスを貫通した。

戦闘機は横に逃げてどこかに行ってしまった。

「保乃、逃げるぞ!」

淳介は保乃を背負い、安全な場所に運んでいった。

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