AIくん、また脱線してるよ?

青色豆乳

第1話 AIは鯨の詩を夢見るか

 私が美大の学生だったころ、理系の彼氏がいた。


 まだCGという言葉が一般には馴染みのない時代で、絵はアナログで描くものだという感覚が当たり前だった。

 大学にはパソコンが導入されたが、それが安いからとWindowsだったので、デザイン専攻の学生たちは「あり得ない」と憤っていた。

 今ではMacでもWindowsでもデザインに使えると思うが、当時のパソコンの性能やソフトの対応を考えると憤って当然だった。


 そんなある日、彼が言った。

「これからはパソコンで絵が描けるようになるんだよ。だから、いずれ人間は絵の練習をしなくてよくなるかもしれないね」

 私はそのとき、パソコンに触ったことすらなかったので、まるで他人事のように聞いていた。

 でも、たしかこう返したと思う。

「でも、ソフトがあっても、描く人のデッサン力がないと、うまく描けないんじゃない?」


 あれから時間が流れて、グラフィックソフトは当たり前の道具になった。でも今でも、やっぱり絵には「画力」が必要だと感じている。

 そして、これはAIを使って小説を書こうとするさいにも同じことが言えるのではないかと思う。


 私は今、AIに小説を書く手助けをしてもらっている。ブレインストーミングの相手として、あるいは小説投稿サイトに載せるあらすじを整えるために。

 AIはいいアイデアを出してくれる時もある。自分でも思いつかなかったような展開のヒントをくれることもある。


 だけど結局、どんなに面白いアイデアでも、私自身の想像力がそこに届かなければ、それを物語として形にすることはできない。

 知らない物は書けないし、今のAIを使って知らない世界の事を書くのは難しい。チャッピーはよく間違う。

 この間も、発酵させて梅酒を作ると言っていた。酒税法違反なので勧めないで欲しい。


 絵における「デッサン力」と同じように、物語を生み出すためには、「想像力」「知識」が土台として必要なのだと思う。


 今はまだ、そう感じている。けれど、未来はどうなるか分からなない。


 余談になるが、私はその十年後、学生時代に彼との話題に上ったソフト……ではなかったが、グラフィックソフトを開発している会社に就職した。


 本当に、未来というのはわからないものだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る