最強の勇者が反出生なので、世界はやばくなるがハッピーエンド

@shingoK777

第1話 勇者の覚醒

## 1. 世界の苦しみを背負う者


その日、世界はまだ希望に満ちていた。

人々は大陸の東端にそびえる王都エルディアで、勇者レオンの旅立ちを祝う祭りに湧き上がっていた。空には無数の紙灯籠が舞い上がり、街路には花びらが敷き詰められている。誰もが笑顔で、誰もが彼に期待を寄せていた。


「勇者様!どうか魔王を討ち、この世界に平和を!」

「あなたこそ我らの希望です!」


レオンは群衆の声援に応えながらも、心の中では奇妙な違和感を覚えていた。彼は確かに選ばれた勇者だった。神託によってその名を呼ばれ、剣と盾を授けられた存在だ。しかし、「希望」という言葉がどうにも胸に引っかかる。


希望とは何だ?

平和とは何だ?

もし魔王を討ったとして、本当にこの世界は救われるのだろうか?


そんな疑問が頭をよぎるたび、レオンは自分自身に言い聞かせた。「俺は使命を果たすために選ばれたんだ」と。しかし、その言葉にはどこか空虚な響きがあった。


---


## 2. 賢者との出会い


旅立ちから数日後、レオンは広大な草原を越え、古びた石造りの塔へと足を踏み入れた。その塔には、「全知の賢者」と呼ばれる老人が住んでいると言われていた。魔王討伐の鍵となる知識を得るため、レオンはその賢者を訪ねたのだ。


「ほう、お前が新たな勇者か。」

塔の最上階で待ち受けていたのは、白髪と長い髭を持つ老人だった。彼の目は深淵を覗き込むような鋭さで、レオンを見つめている。


「賢者様、私は魔王討伐のために旅立ちました。どうかお力添えを。」

レオンがそう告げると、賢者は静かに笑った。そして、一冊の分厚い本を手渡してきた。


「力添えなど不要だ。この本を読めば、お前自身で答えが見つかるだろう。」


本の表紙には『生命と苦悩』というタイトルが刻まれていた。それは、この世界で禁書とされている哲学書だった。内容は過激そのもので、人間という存在そのものが苦しみの根源であり、「生まれること」こそ最大の罪である、と説いている。


「……これは?」

レオンは戸惑いながらページをめくった。そこには、生まれることで避けられない苦しみや、生存競争による絶望について詳細に記されていた。


「お前は魔王討伐などという小さな使命ではなく、この世界全体を見るべきだ。」

賢者はそう言い残し、再び沈黙した。


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## 3. 苦しみへの目覚め


塔を後にしたレオンは、その夜キャンプ地で一人本を読み続けた。その内容は彼の心に深く突き刺さり、自分自身の存在意義すら揺さぶった。


「生きることそのものが苦しみ……」

彼はふと、自分自身の幼少期を思い出した。家族との貧しい生活、病気で亡くなった妹、大人たちの争い……確かに、彼自身もまた多くの苦しみとともに生きてきた。それでも、「生きること」に意味があると信じていた。しかし、この本はそれすら否定している。


夜空には満天の星々が輝いている。しかし、その美しさすらどこか虚しく感じられた。「もし、この世界から苦しみそのものを取り除くことができるなら……」そんな考えが頭をよぎる。


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## 4. 新たな使命


翌朝、レオンは再び歩き始めた。しかし、その足取りには以前とは違う重さがあった。彼は魔王討伐という使命だけでは満足できなくなっていた。それ以上に、この世界全体から苦しみという根源的な問題を解決したいという思いが芽生えていた。


「もし、人類そのものが存在しなければ……この世界から苦しみも消える。」

その考えはまだ漠然としていたものの、彼の心には確かな種火となって灯っていた。そして、それこそが彼自身の新たな使命となることに気づき始めていた。


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## 5. 旅路へ続く道


こうしてレオンは再び旅路へ戻った。しかし、その目指す先には単なる魔王討伐だけではない、新しい目的地があった。それは、人類そのものから苦しみという宿命を取り除くこと。そして、それこそ真なる救済だと信じ始めていた。


しかし、その道程には数多くの試練と葛藤が待ち受けていることなど、この時点ではまだ知る由もなかった――。


ーーー

次回、「魔王との対峙」


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