幕間:世界と人々

この世界には、いくつかの王国が存在し、それぞれが領土を広げながら、一定の秩序と文化を育んできた。平和な地域では穏やかな農村風景が広がり、一方で辺境と呼ばれる土地には、魔物の出没する危険な領域が数多く残されている。人々はそれぞれの地で暮らしを営み、やがて“ギルド”という組織が生まれた。


ギルドは、冒険者や傭兵、商人たちが互いの力を持ち寄り、魔物の討伐や物資の輸送、探索任務などを依頼・受注できる場だ。王国の保護を受けながら半ば独立した組織としても機能しており、“ギルド登録”を行うことで、誰でも仕事や活動の幅を大きく広げられる。冒険者たちはギルドを通じて依頼をこなし、実績に応じてランクを上げ、名声を得ていく。


なかでも辺境のギルドには、より実戦的な対応が求められる。

なぜなら今、この世界の一部で――とりわけ、リアーネとカイの住む地域において――かつてないほどの異常事態が起きているからだ。


ゴブリンたちが、急激に繁殖しているのだ。


本来、森や洞窟の奥にひっそりと棲み、まとまった集落を形成してもせいぜい十数匹規模であったはずのゴブリンたちが、近年になって急速にその数を増やしている。

周辺の森ではすでに複数の小村が壊滅したとの報せもあるが、中央の王都まではまだ届いていない。

そのため、正式な討伐軍も派遣されず、現場の住民と、ギルドが持つ情報網のみで対処が続けられていた。


リアーネとカイの村もまた、そうした“無視された地域”のひとつだった。

小さく目立たない村であるがゆえに、いざというときに守る者はほとんどいない。

しかし、リアーネの存在がそれを変えた。


彼女の巨体と知性は、村を防衛する大きな盾であり、皆の希望だった。

だが、ゴブリンの異常繁殖は予想を超えていた。

すでに近隣の村二つが滅ぼされ、リアーネは考えた。――いま自分が旅に出て、より大きな力とつながっておくべきだと。

ギルドに登録し、正式に討伐活動を担える存在になる。

そして必要があれば、この村だけでなく、もっと多くの命を守れるように。

リアーネが旅立ちを決めた理由のひとつは、まさにこの“ゴブリンの脅威”にある。


カイはそんなリアーネの幼なじみだった。

村で最も年齢の近い子ども同士ということもあり、行動を共にすることが多かった。

いつしかカイにとって、リアーネは頼れる“姉”のような存在となっていた。

彼女の言葉にはいつも理屈と裏付けがあり、状況を的確に判断し、必要な行動を即座に選ぶ冷静さがあった。

それはまさに“天才”と呼べる才覚であり、そして時に、彼女自身がそれを当然と思っているようなドライさを感じさせた。


カイはそんな彼女の背中を、ただ見上げるだけの日々から、少しずつ肩を並べようと努力し始めていた。たとえ一生追いつけなくとも、気持ちだけは追いつこうと――それが、彼なりの覚悟だった。

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