ロリサキュバスとサキュバスシーシャバーに行きたかった話

えちの瀬亜

 築年数ざっと20数年。

 のどかな地方都市の一角に据えられた、

六畳一間の借住まいにて繰り広げられるはずだった、

青年の悠々自適な無責任ライフ

もとい独り暮らしは、ある一人の闖入者の存在によって

あっけなく瓦解するのであった。


 ひとまず青年の名について紹介しておこう。

彼は名を長谷川鳴海はせがわなるみという。

もともとの性格とそれに加えて中高を男子校で過ごした経験が故、

多少ひん曲がっていて、

少々異性と接する経験が心もとないが、

それ以外は極めて普通の青年であった。


 他人の干渉によって不利益を被るようないわれはない人間。

本来ならば、大学生なりにおしゃれして、友達も作って、なんやかんやで彼女もできた、みたいな充実した典型的なキャンパスライフを送れるはずだったのだ。

 しかし、


「あいつのせいで台無しだ……」


 後悔先に立たず。

荷解きを完遂させたばかりの、ある程度整理の整った自室の中で頭を抱えて無念がる青年の苦悩について、その闖入者は気にも留めずに今日もやってくる。


 彼の住む部屋は、古臭いアパートの2階。

建物の外に張り出された共用の階段は彼の部屋である201号室の壁伝いに備え付けてある。

 ゆえに、階段を上り下りする人あらば、鳴海は否が応でもその足音を聞かなければいけなかった。

 だが、ひと月ほども住んでいると、それにも慣れた。

加えてある程度ならその足跡を聞き分けられるようになった。


ゆっくりとした足取りでコツコツ上っているのは大家さん。

一秒でも帰りたいのかせわしなく上る足音は隣人の立てるものである。


 そして、やって来た。

 いつ底が抜けるかもわからない赤さびまみれの階段を力いっぱい踏みつけて、

一段飛ばしにガンガンと駆け上がる者一人。


 その音を聞いただけで、鳴海はたちまち驚嘆し、

その足音が部屋の前で立ち止まるとすかさず絶望し、

インターホンが鳴らされたところで半ば狂乱し、

薄っぺらい木材を積層させただけのもろい扉を乱暴にたたかれると、

もはや平伏するほかない。


 「鍵は開いてるから!」

 痰つばもろとも吐き出さんばかりの乱暴口調とともに

そのもろい扉の方に目をやると、あろうことか扉はすでに全開されており、

その向こうから彼奴がその姿をあらわにしていた。


 その少女は、ともかく幼かった。

130センチ少々。BMIも最低レベルだろうし、

ひと目で見ても最低限の肉しかついていないことは容易にうかがえる。


 しかし、顔面周りの筋肉だけはスリムでありながらも一丁前に豊富にみたいで、

そいつが抱いているであろう感情をこれほどかと主張してくるのであった。

その顔が言うには、彼女は面白いことをひらめいてしまってそれを何とか鳴海に

伝えようと必死になってやって来たようだ。


 彼にとってはいい迷惑である。

しかし彼女にとっては鳴海が何を考えているかは埒外なのだろう。

その遠慮のなさは筋金入りであり、

自分本位な性格は、彼女を幼齢たらしめる要素としてのミニマムな体型に対する二大巨頭の一方となっていた。


 たとえ彼女がつややかなブロンドヘアーを短く携えていようと、

きりりと整った目鼻立ちが大人っぽさを演出していようと関係ない。

見たところの幼さが抜けず、少々成長の早い西洋のお子様ぐらいに収まってしまう

ぐらいには彼女は子ども然としてしまっているのだった。


 すなわち幼い少女であったのだ。鳴海を困らせているのは。


 そして、彼女の口からいよいよ本題が飛び出しかかっていた。

これまで彼女の誘いを断れた試しなど、鳴海にはない。

今回もおとなしく聞き入れるのしかないのであろう。


 覚悟を決めた。

 しかし、先に行ってしまえば、

結局、要件をおとなしく聞いたところで、その意味はよく分からないのであった。


「ナル~! 『サキュバスシーシャバー』行こうぜぇ~!!!!!」

「サキュバスシーシャバーぁ!?」


 鳴海にとって初めて耳にする言葉だったからである。

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