第21話

 大北門の応援に駆け付けたスレイトの部隊。

 激しい戦闘を予想していたがその考えは誤りであったと気付かされてしまう。これは戦闘とは呼べない一方的な虐殺であった。


「あり得ない。たった十人で……帝国本軍の部隊を壊滅させたのか?」


「……ん? 何だねチミは。今は実験結果の解析に忙しいのだよ」


「実験……結果、だと?」


 整えられた顎鬚を触りながら得意げに話す共和国の軍人。着用している軍服からみて上位の立場であることが窺える。


「見て分からんかね若造君。どれだけ効率的にチミらを殺せたかを確認しているのだよ」


 地面に倒れ伏した帝国兵。その数は共和国軍兵士の五倍はいる。彼ら全員が夥しい程の血を流していた。兵士によっては手足が吹き飛び、原型を留めていない者もいる。――全員が死んでいた。


「魔法科学は素晴らしいな。チミらには理解出来んだろう。まさに人類の叡智である」


「その叡智を振りかざして、やりたかったことがそれなのか?」


 四角い板状の機械を手に持つ指揮官。それを動かぬ亡骸となった帝国兵達に向けている。何か映っているのか時折指で操作しながら確認しているように見える。


「うん? 今更何だね? 戦いや人殺しは駄目だと道徳を説くのかね。戦争で成り上がってきた帝国が」


「……否定はしない。だが死者を弄ぶその行いは看過出来ない」


「はぁ? 死体は情報の宝庫である。どの国もやっているではないか。チミらご自慢のシード屍狂はまさにそうではないか」


「全く持ってその通りだ。理論的な反論材料を私は持ち合わせていない」


 急な襲撃で混乱していただろう。未知の兵機で襲ってきた共和国はさぞ恐ろしかっただろう。……それでも迅速に行動し、この大北門に集まった兵士達を見てスレイトの胸は熱くなる。――命を賭して最期まで戦った彼等に最大の敬意を。


「だから、戦う。仲間の想いに応えるために」


「死よりも野蛮な心が前へ出るのか。やはり帝国人はイカれているな。大陸のゴミは全て粛清しなければならないようだ」


「民間人も殺めるつもりか? これではどちらが野蛮で卑劣か分からないな」


「ゴミを掃除してチミは心が痛むのかね? あぁ、同じゴミだから理解出来るのか。私にはさっぱりだがね」


 板状の機械を懐にしまう指揮官。そのまま右手を上げると共和国兵は散開する。戦闘開始の合図だと分かるが――先に動いたのはスレイトと帝国兵であった。


「聖剣! 私に力を、帝国に祝福を!」


 掛け声と同時にスレイトの前に現れた大剣。

 煌びやかな意匠に白く輝く宝飾剣は聖剣の名に相応しい見た目をしている。普段と変わらぬ神聖な気配を感じ安堵するスレイトはその聖剣を掴み大地へと突き刺す。同時に顕現する白き結界はスレイトを中心に帝国兵を守るように展開される。


「魔法剣? 魔法科学……ではないな。旧時代の魔道具か」


 興味深そうに視線を向けたのは最初だけ。直ぐに関心を無くしたのか指揮官はつまらなそうに吐き捨てる。


「消してしまいなさい。もうデータは不要だ」


「怯むな! 魔法部隊。攻撃開始だ!」


 指示と同時に魔法を放つ帝国兵達。行動の開始と同時に個々が魔法の準備をしていたのだ。

 スレイト率いる部隊ではセオリー中のセオリー。聖剣による強固な守りの内側から妨害されることなく魔法で焼き払う。各々の得意な魔法で敵を穿つ。――先制はこちら側だと誰もが思った。


「なっ⁉︎ そんな馬鹿なことが」


「もうそのリアクションは見飽きている。何度も同じ反応でつまらんね」


 魔法は確かに着弾していた。未知の力を持つ共和国兵に対しても少なからずダメージは与えられると考えていた。――だが結果は真逆。無傷の共和国兵が悠然と佇んでいた。


「魔法が掻き消された……だと?」


「ほう? よく気が付いたな若造。先程の連中は馬鹿の一つ覚えの如く、何度も魔法を撃ち続けたがな」


 共和国兵一人一人の周囲に展開された半透明の何か。用紙サイズのガラスのような見た目をした物体が重なり合うように兵士を囲っている。見方によってはスレイトが聖剣で顕現させた結界のようにも映る。


「チミら帝国人は魔法第一主義のような古い考えに執着している。その意味が分かるかね? ……単純明快だからだよ。目で見て分かる強さにしか興味を持たない蛮族故に」


「魔法が通じぬなら……」


「次は力業かね? 剣や槍で突撃かしか出来んのか? させると思うか戯け」


 共和国軍が肩に掛けた武器を手に持つ。短機関銃のような見た目をした火器に見えるが。


「銃だと……? それこそ旧時代の兵器ではないか」


「クハハハハ。鉛玉を撃ち出すだけで天下の帝国様に勝てるとは思わんさ」


 引き金引く共和国兵の一人。弾丸はスレイトが張る結界に着弾すると同時に。殺傷性のある風は刃となりダメージを与えてくる。


「⁉︎ 何だこれは……魔弾か?」


「魔法銃と一緒にしないでもらおうか。これは魔法科学から生まれた新兵器だよ」


 通常の銃火器のように金属製の弾を撃ち出すのではなく、魔力を弾丸として放つ魔法銃とも異なる。指揮官は自慢話をするかのように解説を始める。


「銃も魔法銃も欠点がある。これはその両方のメリットだけを抽出して開発されたのだよ」


 魔力を糧に人体を強化する人間に対して銃火器では威力が不十分になる場合が多い。魔法銃だと殺傷能力は上がるが使用者の魔力が無くなればただのガラクタになってしまう。それを踏まえて研究されたのがこの魔法科学兵器だと言う指揮官。弾丸に魔法が組み込まれた魔法弾がこの先の主流になると息巻いている。


「おっと、一発だけだと思うな。本来のマシンガン同様に連射可能だよ」


 共和国兵全員が一斉に魔法弾を放つ。風に炎に雷にと多彩な属性魔法が着弾と同時に爆ぜる。結界は何とか持ち堪えるが魔力はガリガリと削られてゆく。結界の中から動けない帝国兵は反撃に魔法を放つが、敵はタイミングよく攻撃を止め、件の防御壁で完全にシャットアウトする。

 結界の維持に魔力が必要なスレイト。魔法の為に詠唱と集中力に魔力、そして時間を求められる帝国兵。それに引きかえ無詠唱で連撃可能な新型銃火器に魔法を防ぐ謎の魔法科学兵器。どちらが優位なのかは言うまでもない状況であった。

 スレイト側は魔力を切らしてしまえば、地面に倒れた帝国兵と同じ末路を辿ることになるだろう。


「何処まで持ち堪えるか興味はあるが……他の部隊に遅れを取るのも癪だ」


「他の、部隊だと……」


「そうだ。我々と同じ兵器を装備した先遣隊が各大門から一斉に攻めている。目的地はもちろん皇城だよ」


 意識が朦朧とする。魔力欠乏の症状が現れていた。

 聖剣の結界は強力であり、本来なら要求魔力量も少ないのだ。それがここまで魔力が吸われているということはそれだけ共和国の攻撃が強力なのだと分かる。――嫌な汗が流れ落ちる。


「異能者集団は姿を消した。頼みのシードは不在。チェックメイトだよチミ」


「⁉︎ シードが不在だと何故知っている貴様!」


 陛下勅命の特別作戦でシードが帝都を離れていることはスレイトの耳にも入っていた。直近の軍事会議で顔を合わせた鬼神と屍狂も後から作戦に加わったとの話である。帝国本軍の関係者しか知らない情報を何故他国軍の指揮官が把握しているのか。


「帝国は国内にも敵を作りすぎたということだよ。共和国軍ではあり得んがな。……さぁ余興はお終いだ。やってしまいなさい」


 更に激しくなる攻撃を前に防戦一方となる。帝都の至る所から戦闘音が聞こえ、黒い煙が空へ伸びている。どこの戦場も同じような戦況だろう。増援は見込めない。それどころか下手に加勢すれば新たな死者が増えるだけである。


「ぐぅ……、何とか、本部に伝えなければ」


 口から血を流すスレイト。限界は近付きつつあった。




memo――新型魔法科学兵器

共和国軍が帝国との戦いに持ち出した最新鋭の兵器。連合国のテクノス主導で開発された代物である。宿敵である帝国を倒すために何年も前から研究が進められていた。魔法職からすれば初見殺しの兵器で帝国兵は甚大な被害を受けてしまう。

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