守銭奴な俺が学園一の美少女に目をつけられて国家を揺るがす大事件の調査をする羽目になりました………誰か助けて!?

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プロローグ

第1話 似非優等生 アレクサンダー・ウォーカー

ーーー14964 王都カルネアスーーー


 ヴィーテ=ガスク連合王国の首都カルネアスは、初代国王がこの地を首都と定めてからおよそ300年に渡り連合王国の成長と共にその規模を拡大してきた。

 連合王国の政治経済の中心であり、王宮と連合王国の行政を司る各省庁、王家を支える藩屏たる貴族達の邸宅、さらに大商人達の本店及び重要な支店がこの城壁無き都へ集い100万を越える人口を有する大都市を形成している。


 そんな王都カルネアスにおいて、王宮に次いで重要と評される施設がある。

 

 およそ150年前、内乱で半壊した王都の再建時に拡張された新街区の中心部に位置するその施設こそは王立カルネア学園。連合王国において単に”学園“と呼ぶ場合はこの学園を指すほどに名のしれた連合王国において最も古くに設立された”学校“である。


 かつて王家が服属させた貴族の子弟たちを教導し、現在では受け入れる裾野を平民にまで拡大した連合王国の基幹を担う軍人や官僚を育成する国家の屋台骨とも呼ばれている。


 

 この学園、元々は貴族子弟の教育を担っていただけあって貴族文化がかなり幅を利かせている。

 建国以来、指導者たちの頭痛の種である決闘の流行もここから始まっているし、毎年新入生(15歳、一応成人扱い)が入学する4月には俄に決闘用の試合場が賑わい出す。

 理由は家同士の対立や身分差別、果ては恋人の取り合いに金の貸し借りに純粋な腕試しまで、近年は死者が出てはいないが教員達もピリピリする季節である。



「どうぞゾラ教官、頼まれていた書類と明日決闘予定のショーン・ジルベルトとエリカ・リガール嬢のです」

「おうご苦労さん、


 くすんだ赤髪の女性教官に、眼鏡をかけた胡散臭い笑顔の生徒が書類の束を手渡す。

 

 学園の教員や心ある上級生達が神経を尖らせる中、逆にそこに商機を見出す連中もいる。学園の草創期から連綿と続く決闘賭博は、何度も摘発されながらも陰で受け継がれ、つい数年前にとある学生が複数存在した決闘賭博グループを統廃合しそのルートを教員に献上した。そうして決闘賭博を仕切る胴元黒幕となった不良教官ゾラ(32歳女性、バツイチ)は、半ば私物化した生徒指導室で優等生然とした生徒から翌日の授業で使う資料と、その生徒が陰で集めた賭率集計を受け取る。


「へぇ〜、ジルベルトの奴に集中して賭けにならないかと思ったのにリガール家のお姫様にもそれなりに賭けてる奴がいるじゃないか」


 ゾラが化粧っ気の無い顔をニヤリと歪める。




『私は自分より弱い男と結婚する気は無い』



 入学式当日、新入生代表であるとある大貴族のお嬢様が傲慢とも呼べる宣言と共に自身の婚約者候補に決闘状を叩きつけた騒動は瞬く間に学園全体に広がった。

 流石にその場でいきなり斬り合うのは問題しか無いので(来賓に国王までいた)、諸々の準備があると教員達が説き伏せ4月半ばに決闘を行う運びとなったのだ。

 

 そうしないと闇賭博を運営できないというゾラや彼女の手足となる上級生達の意向と暗躍もあったが。


「賭けにならないと儲からないから上手いこと噂流せと言ったの教官じゃないですか」

「だからってお前、”望まない婚約を解消するために血の滲む努力をした熱血令嬢“とかよくあることないこと盛り上がる噂流せたな」

「新聞部の副部長には貸しがあるので」


 人当たりの良い笑顔のまま、学園の3年生であり他の教官や一部の悪友以外からは真面目で教官達の手伝いも積極的にこなす模範生と見做されているは肩を竦める。



「座学は兎も角、剣技に関しちゃ学年最強のショーン相手にオッズで6対1まで持ち込める辺り、うちの新聞部は相変わらず優秀だな」

「あそこ陸軍情報部宣伝課の卵達ですからね」

「それを顎で使えるお前はどんな弱み握ったんだよ」

「いや単に定期考査のヤマを教えてるだけですよ? 格安で」

「おいまさか他の教官の弱み握って情報を横流しされてねえよな?」

「あんなの過去問と教官達の授業内容から類推出来るでしょう? 危ない橋をわざわざ渡るまでもない」

「できてたまるかこの守銭奴!!」


 アレクサンダーの裏の顔を知るゾラ教官がたまりかねて叫ぶ。


 このアレクサンダー、親しい友人からはアレクと呼ばれる似非優等生は、高位貴族や裕福な商家出身の生徒に定期試験の予想(的中率8割、ある程度狙った順位に落ち着くよう調整可能)を売り捌き阿漕に儲けていたりする。

 また、現在は男爵家を継いだ彼の兄こそが在学時代、ゾラに協力して闇社会と繋がりのあった決闘賭博グループを叩き潰し、決闘賭博のシステムを集約した立役者であった事から、こうして決闘賭博の黒幕ゾラ教官に協力しその利益を供述していたりする。


「お前の兄貴もなもなかなか厄介な奴だったが、お前も大概だな…」

「俺は兄と違って凡人なので、こうして将来のためにコツコツと金を貯めないといけないんですよ」

「そもそも裏賭博で儲けんなよ!?」


 まだ教官になりたてのころ、裏社会と繋がり学生達を食い物にしていた決闘賭博撲滅を目指すゾラに働きかけ、いつの間にか決闘賭博の胴元として裏から状況をコントロールさせる手筈を整えたアレクの兄、イースレイ・ウォーカーの存在を思い出しゾラは舌打ち混じりに冷めた紅茶で喉を潤す。

 


「決闘賭博潰そうとしてたのに懐に入ってくるお金の大きさに目が眩んだ人に言われましても」

「私はちゃんと裏で不良生徒や教官と繋がってたマフィア共を追い出したっての! 今も続けてんのは成り行きだよ!」

「成る程…ではこの高級茶葉は?」

「………さあ?」


 本棚の裏の隠し金庫にしまってあった教官の給金ではなかなか買えない高級品を探し当てられ、ゾラは知らぬ存ぜぬで目を逸らす。

 

「とーもーかーく、他の連中にも伝えとけ。明日はかなりデカいヤマだ、ヘマ打って教頭や生徒会にバレるなよ」

「あれ言ってませんでしか? 今年の生徒会会計は決闘博集団ウチの幹部ですよ?」

「待ってそれ初耳なんだけど!?」


 本日結成される生徒会にしれっと仲間を送り込む決闘賭博集団参謀アレクにゾラが焦る。

 

「報告書渡したじゃないですか。引き継ぎ終われば来年には彼にこの儲け仕事を引き継ぐって」

「3年になったばっかりでもう後継者探し出したのかよ…」

「課外実習が増えて学園にいない期間が増えますからね…早めに後継を鍛えてツテを作っておかないと教官も来年から不便ですよ?」


 如才ない部下アレクに呆れと賛辞の混じった溜息をつきつつ、ゾラは茶葉の入った包を回収しアレクを送り出した。





───翌日



「いやぁ…まさかの結果だな」

「お、俺…ショーンに賭けてたのに」


 友人であり寮のルームメイトでもある(ついでに裏賭博会のメンバー)ウーサーと共に決闘を観戦していたアレクは、自分達が裏で賭けの興行を行っていた決闘の結果に目を見張っていた。


 決闘場の中央で3年生最強の剣士ショーン・ジルベルトが呆然と膝をついている。名門貴族の分家筋である子爵家嫡男であり、本家である辺境伯令嬢の婚約者として学園内でも傲慢に振る舞っていた彼にとって、衆目の前でそんな姿を晒すのは屈辱以外の何物でも無いだろう。


 それに対して、彼の剣を一撃で弾き飛ばし勝利した銀髪金瞳の美少女は練習用のサーベルを鞘に納め、型通り一礼すると婚約者候補へ何の声もかける事なく踵を返す。


「ま、待てエリカ! 今のは何かの…そう何かの間違いだ!! 俺は本気を出していない!! だからもう一度…っ!!」


 帰ろうとするエリカに取り縋ろうとしたショーンは、振り向いて己を見たエリカの瞳の冷たさに凍りつく。


 その黄金の瞳には、己への親しみや敬意は無い。

 そして侮蔑や失望も。


 腰まで伸びた輝くような銀色の髪と宝石の様に輝く金色の瞳。雪のように白く、だが弱々しさとは無縁の瑞々しい肌。スッと通った鼻梁と瑞々しく赤い唇。学園指定の装飾の無いシンプルな運動着と防具の上からでもくっきりと分かる豊満な胸と括れた腰、そしてスラリと長い手足。15歳でありながら既に完成された絶世の美貌には、仮にも婚約者候補であり兄弟子でもある己に何の興味関心も浮かんでいない。

 路傍の石、あるいは既に終わった存在に寸毫の時間すら割くことはない怜悧過ぎる貴族の生態を体現したその姿に、ショーンは絶望と共に力なく項垂れた。


「嘘だろ…今回の儲け全部注ぎ込んだのに!?」

「ウーサー…胴元が賭けてどうすんだよ」

「タネ金が手に入ったら増やすのが商人だろうが!」

「賭けで金を増やそうとするのは商売と言わねえよ」


 ざわめく観客達の喧騒に紛れてウーサーが頭を抱え、アレクは呆れ顔で肩を竦める。


「そらとっとと行くぞ、これから掛け金の支払いだ」

「うーあー」

「人の言葉話せ」


 そうしてアレクはウーサーを引き摺り決闘場を後にした。


 彼にとっては大貴族と縁戚になるバラ色の未来が潰えた同級生の慟哭や新入生の美少女剣士の活躍よりも、これから手に入る金の方が遥かに大事だったからだ。そしてそもそも、地方の木っ端貴族の次男坊とは住む世界の全く違う連中の空騒ぎなど、金儲けの種程度としか認識してはいなかったら。



 

 だから───────




「どうしてこんな事に…」

「どうしたのよ? 早く次の屋台に行きたいんだけど?」


 まさか決闘騒ぎの終わった翌月の連休に、下町で件の美少女を連れて屋台巡りをする羽目になるなど全く想像していなかった。 



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