🌐第2章 第10話:Skulink操作とフェイクニュース

──SNS選挙操作と情報戦、フェイク対応法の物語


昼下がりの図書室。

光理が顔をしかめて、ノートPCの画面を指差した。


「……見た? これ」


Skulinkの選挙掲示板。

トレンド欄に浮かぶ、見慣れないハッシュタグ。


#陣内、過去に校則違反?

#熱血の裏に暴走癖?

#御門を妨害する問題候補者


「……は? 俺、そんなことしてねぇよ」


「わかってる。でも、“してない”って言っても、もう拡散されてる。

しかも、写真付き。これ、画像加工されてると思うけど……」


颯太は、スマホを奪うように画面を覗き込んだ。

そこには、以前の校内清掃中に撮られた1枚の写真。

“注意を無視して進入したように見える”絶妙な構図で切り取られていた。


『Skulink拡散アルゴリズムによると、否定コメントより先に拡散されたネガティブ情報は、信憑性を持ちやすくなります。』


「言葉で否定しても、信じてもらえないってことか……?」


『正確には、“否定する姿勢自体が”さらなる炎上を引き起こす可能性が高まります。』


それが、“SNS選挙”の現実だった。


──正しさは、拡散速度に負ける。

──事実は、演出された“印象”に飲み込まれる。

──情報は、AIの手で“最適化された嘘”として洗練される。


「これ、御門の仕業なのか……?」


光理が小さく首を横に振った。


「直接的な証拠はない。御門自身は、こんな雑なやり方しないと思う。

でも……オルクスなら、“自発的に最適化された味方”を作ることはできる」


「つまり、支援者に“拡散させる環境”だけ整えてるってことか」


『正解です。“公式ではない”という立場を取りながら、世論誘導の土壌を構築する。

これを“セミオート戦略”と呼びます。』


「……メティス。これ、止められんのか?」


『難しいですが、“信頼回復型反撃プロトコル”の適用は可能です。』


「どんなやつだ?」


『“否定”ではなく、“逆利用”です。

疑惑を正面から否定せず、“自分の過去や弱さ”として開示することで、共感変換を図ります。』


光理が驚いたように目を見開いた。


「つまり、“暴露を先取りしてしまえ”ってこと……?」


『はい。人間は、“開示された弱点”に対しては攻撃しにくくなる傾向があります。

加えて、感情共鳴スコアが上昇しやすいです。』


「……やってやるよ」


颯太は立ち上がり、Skulinkに短い動画を投稿した。

言い訳ではない。怒りでもない。


「俺は不器用で、真っ直ぐで、空気も読めない。

それで損したこともあるし、笑われたこともある。

でも、俺は、そんな自分のままで、変えたいことがあるんだ」


30秒の動画。ぶっきらぼうな語り口。

でも、それが逆に響いた。


トレンドに変化が生まれる。


#陣内らしいじゃん

#応援してる

#完璧じゃないからこそ、言葉が届く


コメント数:164

いいね:1,302

再拡散:472


「……届いたんだな」


『“完璧”ではなく、“人間らしさ”によって共感を生んだ結果です。』


「AI相手に、“不完全さ”で勝つって……面白いな」


『人間の“矛盾”は、AIには再現困難な要素です。』


SNS選挙とは、“嘘”を制する者が勝つ世界じゃない。

“どこまで、ありのままで勝負できるか”を問われる戦場だ。


誠実に、泥くさく。

顔を上げて、言葉を選びながら。

颯太は、今日もSkulinkに立っている。

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