誓いの岩
ドワーフは山の中に町を作る。理由としては、彼らは鉱石と共に生きる一族だからだ。
空気の悪さはエルフのフォローを得て、空気を入れ換える風の魔道具で循環されている。
普段はドワーフ達は鉱石を取ったり、鍛冶をしたりと忙しくしており、遊んでいる姿はあまり見ない。
子供達も親について歩き、親から多くを学ぶ。
そんな勤勉な彼らには年に二回お祭りがある。
年末年始に1週間かけて行われる周年祭、そして夏に3日かけて行われる慰霊祭だ。
慰霊祭は過去の英雄達を偲ぶ祭だ。
ドワーフは英雄と共に生きる種族。
英雄はドワーフの元に出向き、自分の相棒を作って貰う。
そして度々メンテナンスに訪れ、自らの死を悟ると剣の墓に武器を埋葬しに来る。
そんな英雄達をドワーフは忘れることはない。
永久に語り継ぐことが彼らの手向けだからだ。
そんなドワーフだからこそ、英雄からは信頼されて、愛されている。
英雄と呼ばれるもの達は、彼らを敬い、感謝の念を忘れない。
人族はプライドが高い一族だが、それでも英雄と呼ばれるもの達は人格者が多い。ドワーフが人族に力を貸すのには一定の審査があるものの、過去の英雄の偉大な生き方を知っているからこそ偏見を持たずに友好を結んでくれている。
だから俺達も過去の英雄には感謝をしなければならない。
彼らがドワーフと友好を結び続けたからこそ、人族は今もドワーフと友好を深めているのだから。
「今年もこの季節がやってきた。皆、一分間目を閉じて過去の英雄達に敬礼せよ。」
俺は言われた通りに目を閉じて黙祷する。
「よい。では本日から3日間は全ての仕事を休みとする。飲んで、笑って、自由に過ごすがよい。英雄達を思いだし、思い出話に花を咲かせよ。」
ドワーフ王の言葉に広場に集まるドワーフ達が歓声を上げる。
壇上に立つリューゲン。その斜め後ろにはティーアが立っている。その更に後ろには人族国王の名代としてフィンが控えている。
他国の著名人がいる時は、あぁやってドワーフ王の斜め後ろに控えて立ち会うことになっている。
過去には国に所属していたエリサと俺があぁやって立ち会っていたものだが、国を抜けてからはドワーフの民として暮らしているため、壇上には登っていない。
きゅっと手を握られ、横を見るとアイリスが微笑みを向けてくる。
「お前も国王の娘だろ。」
「私はお堅いのに向いていないので!」
「仕方ないやつだな。」
苦笑しながら歩きだす。
「あっ!ルーリさん!」
アイリスの指差す方に目を向けると、紫煙を吐きながら壇上を見上げるルーリが目に入った。
こちらに気付いて手を上げ、向かってくる。
「やぁお二人さん。楽しんでるかい?」
「はい!楽しんでます!」
「まだ黙祷しただけだろう…。」
「私は貴方のとなりにいるだけで楽しいんですぅ!」
「そうか…。」
うまい返しも思い浮かばずに頬をかくとルーリが笑いだした。
「ほら、1日集中して完成させといたよ。」
渡された小箱を開くと指輪が二つ並んでいる。
「鑑定したところ、やはり誓いの指輪さね。ただ、指輪には不思議な魔力が籠ってる。今まで見たことないね。私の鑑定でも全てを覗けないところを見ると、封印がかかったかなり高位の魔道具だろうね。」
「つまりは…。」
「可能性はあるだろうねぇ。」
「素敵な指輪…!」
アイリスが目を輝かせて指輪を見る。
ルーリが顔を近づけてくる。
「リュート。分かってるね?」
「あぁ。郷に入っては郷に従う。」
「わかってるならいいさね。よい1日を。」
「あぁ。」
去っていくルーリを見送る。
「つけていいんですか!?」
食いぎみに顔を近づけるアイリスに苦笑する。
「まぁ落ち着け。郷に入っては郷に従えだ。」
「どういう事ですか?」
「誓いの指輪は渡す場所が決まっている。人族は教会で渡す者が多いが、ドワーフの里には誓いの岩というものがある。」
「誓いの岩?」
頷いて、手を引き歩き出す。
多くのドワーフとすれ違い、手を振り返しながら歩く。
「リュート様はどこに行っても人気ですね。」
「人族以外にな。」
「あはは…。」
ローエングリン国では俺は今も人気だ。
だがそれ以外では人族を裏切った裏切り者。
表舞台から姿を消し、いざこざにも姿を見せず、人族の国からの要請は全て無視してきた。
なぜならそれは利権争いによる戦争への参入要請だったからだ。
報酬は地位と名誉。金と女。
あまりに下らないから全て無視。
その結果が、力を持っているのにその力で地位も名誉も求めない、気持ち悪く不気味な男と言う評価だ。
「さて、見えてきたな。」
見上げた先には巨大な魔石の巨石。
「ドワーフはアレを少しだけ削って誓いの指輪を作る。友情の証、恋慕の証…理由はそれぞれだがな。」
ライトアップされた岩の回りには多くのドワーフ達が集まっていて、こちらに気づいたドワーフ達は微笑みながら岩の前に空間を作ってくれる。
苦笑しながらそこに立った俺達は岩を見上げる。
「凄いですね…!」
「あぁ。昔はもっと大きかったんだけどな。」
「そうなんですか?」
「あぁ。元々これは俺とエリサが見つけたものだからさ。」
懐かしいなと思い出す。
「土龍が山の中に出たんだ。魔族の魔力に当てられて、凶暴化していた。ドワーフ達の被害は大きくなり、俺達は要請を受けてこの国に来た。」
若かりしリューゲンがギリギリで持ちこたえていた。それでも日々力を増す土龍に手一杯。国を捨てる決断を出す手前だった。
「土龍には食べた鉱石を栄養にして、それを一つに纏める力がありますね。それは魔石に変貌する。」
「よく勉強してるな。その通りだ。そこまで分かれば後は分かるだろう?」
「この魔石はその土龍の中から出てきたと言うことですね?」
頷いてそっと魔石に触れる。
『これは凄いわね…。決めたわ。これは新しいドワーフの国の目玉にしましょう!誓いの岩って名前はどう?私達が先ずはこれで誓いの指輪を作りましょう?そして伝統にするのよ。』
『それだと無くならないか?』
『いいんじゃない?どうせそのうち廃れるんだから。でもここは幸せを運ぶ場所になるのよ?ドワーフ達の恋人の聖地。とっても素敵じゃない?』
『意外だな。そういうの興味ないと思ってた。』
『興味ないわ。でも私は貴方となら真実の愛を知れると思うの。だから良いでしょ?旦那様?』
『わかったよ。』
ふっと思わず笑う。
周りには多くのドワーフ達。
恋人、夫婦、家族。
本当に聖地になっている。
「俺達の指輪の石は、この魔石と賢者の石を混ぜて、高密度の魔力が漂う死の山の奥地に安置したものだ。」
「なんだか凄い石になってそうですね。」
苦笑するアイリスに俺も苦笑する。
「番の指輪にならなかった理由は石にあると俺達は結論を出した。色々とやったけどダメでな。」
「それで死の土地ですか…。」
「あぁ。亡くなっていても彼女に番の指輪を渡したかった。試すだけならタダだしな。まぁそれはもういいんだけど。」
指輪の箱を開いて一つ取り出すとアイリスと向き合う。
「本当にいいんですか?」
「要らないのか?」
ぶんぶんと首を横に降るアイリスに苦笑する。
「断るなら今の内だ。薬指にはめた誓いの指輪は、気持ちが離れるか死が2人を別つまで外れない。だから先ずは中指にはめるのが一般的だ。」
「なるほど。だから誓いの指輪なんですね。」
「そうだ。先ずは今生を共に生きることを誓う。次に来世を誓い、永久を誓う。指輪は移り変わり、姿を変える。」
「まぁ望むところですね!さぁ、迷い無く私の薬指につけてください!」
差し出される左手を取る。
「本当に…お前は母親と同じで猪突猛進だ。」
「思いっきりがいいと言ってください!それよりも、貴方こそもう逃がしませんけど本当にいいんですか!?」
「別に問題ない。逃げる理由もないしな。」
「言いましたね?必ず惚れさせてみせます!」
「はは。では今生を共に生きてくれるな?」
「はい!」
不老は不死ではない。死ぬときは死ぬ。だからこそ先ずは今生。2人で生きてみよう。
お互いに指輪をはめると光を放つ。
周りのドワーフから拍手が起こる。
俺達は少し恥ずかしがりながらはにかんだ。
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