第10話:ふつかめ(後)

「さて、姫。どうだった?」

 そして、勇者なりの「料理」を姫に振る舞った彼女は、内心結構ドキドキしていた。と、いうのも、相手はやんごとなき身分である。対して自分は、勇者ともてはやされているが、貴種ではない。住む世界が偶然一致しただけで、本来ならば交わることのない線だ。それは、食事内容もそうであった。勇者の料理を受け入れることはないだろう、そう思いながら料理を行っていたが、意外にも姫はその料理を受け入れていた。

「……干した魚って、こんなに美味しくなるんですね……」

「ははは、そりゃ良かった。刺身には敵わないけど、干した魚も調理に工夫さえすればそれなりに美味しくなるものなんだよ。干した魚には骨もないしね」

 味醂干しのような味重視の干物ではないものの、眼前の干物はそこらで売っている庶民の味にしては、非常によくできたものであった。彼女は、調理次第で庶民の食べ物も上流階級に匹敵する味を出せることを、旅でよく認識していた。そして、彼女も本朝者である、味へのこだわりは、民族意識的に高いこともあって、妥協はしなかった。

「へぇ……、そしてこれは?」

「ん? ……ああ、それ? 干し飯。見たことないかな?」

 干し飯。糒とも書くそれは、言うまでも無く干した米であった。正確には、姫飯といって普通に炊いた米を、更に干して水分を抜いた、保存食用の米なのだが(と、いうより、米という植物は生のまま食べると腹を下す)、当然ながら水分を抜いて保存している関係上、湯なりで戻したらそのまま食える存在であった。

「ああ、はい。存在は知っていましたが、このようなものなのですね……」

「まあ、それは食べられるように戻してあるから厳密には違うんだけどね」

「それは、確かに」

 姫は気づいていなかったが、勇者が「厳密には違う」と言ったのは、そのまま食べられることもあったからなのだが、そこまでの「教養」を箱入りの姫に求めるのは酷というものだろう。

 そして、勇者と姫は、勇者ならではの食事を採った後に、昨日の続きを始めた。と、いっても、別に性交渉とかではない。

「さて、腹ごしらえも終わったし、続き、しよっか」

「続き?」

「うん、昨日はこっちの昔話をしたじゃない。今度は姫の番だよ?」

 ……昨日は、勇者が如何にして魔王を倒したかの舞勇伝を聞いていた姫であったが、今度は姫が勇者に今までの半生を語る番であった。

「……ああ、はい。そういうことでございますれば……」

 そして、姫の昔話が始まった。とはいえ、眼前の姫はまだ幼いといっても良い年齢である、その昔話は、まだまだ最近のものである、少なくとも周囲からはそう見えるはずであった。だが……。

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