第5話:勇者様の秘密?(裏)
(さて、さすがにこの名前を知っているかどうかは怪しいけど、眼前の姫が、本当に彼ならば、ひょっとしたらこの名前に食いつくかもしれない。
っていうか、僕の正体に先に勘づくか、あるいは姫に苗字をバラすか、どっちにせよ、あのときの泣き崩れが嘘じゃ無いなら、気づいて欲しいな)
「……うーん、さすがに無いかー。……じゃあ、質問を変えようか。……君にとって、最も大切なもの、って、何だい?」
「!」
(まあ、さすがに「なずな」だけじゃヒントにすらならないか。じゃあ、これで君が気づいたら、褒めてあげようか。……っていうか、君だったら、多分言ってくれるだろ?)
「そ、そーですねー……。や、やはり自分の存在でしょーかー……」
「ふぅん……。まあいいか。まあ、そういうわけで、踊ろうか」
(うーむ。もう僕からしたらぼろが出始めてるんだけど、眼前のお姫様は恐らくまだ僕の正体に気づいていないか、あるいは、姫の立場を、立場上崩せないのか……。
まあいいか。じゃあ、スペシャル大ヒント、行ってみようかな)
「は、はい!」
「わたしの故郷の踊りなんだけどね……」
「は、はい。どうぞお教え下さいな」
「うん、こう、腰をひねって……」
「は、はい!」
「手をカマキリのようにとがらせて……」
「こ、こうですか?」
「うん、それで手を上下左右に動かしながら、腰で円を描くように……」
「は、はい……!?」
「うん、君筋がいいね。どこかでこの踊りを見聞したことがあるのかい?」
(さて、スペシャル大ヒントだ。この踊り、『君』なら知ってるだろう?)
「ゆ、勇者様の教え方がいいからじゃないでしょうか?」
(あー、そう来たかー。……とはいえ、明らかに動揺しているってことは、絶対に『知っている』ね? 君)
「おやおや、勇者様と姫が踊っておいでだ」
「見たことの無い踊りじゃのう、どこの踊りだ」
「なんでも、勇者様の故郷の踊りだとか」
「ほっほう、それにしても優雅じゃのう」
……元来、その踊りは「女人が踊る踊り」であった。どこかの中年男性がある程度改変したりしてしまったという経緯があるが、そもそも伝統では女人が踊る、見世物にしたらたちまち町が大繁盛した程度には、優雅で美麗な踊りである、はずであった。……当然ながら、その踊りを中年男性が踊ってしまったから、失笑を買うような扱いであっただけで、それを正しく、そして本来の見目麗しく若い女性が踊ったならば、当然ながら美しく耳目には映るものである。
「どうかな、何か、思い出しそうかな」
(っていうか、もう僕にはばれてるんだよね。……さて、どうかな?)
「…………勇者様」
「ん? どうした?」
(さあ、答えてごらん!)
「苗字って、何でしょうか?」
(……さすがに、察したみたいだね。でもダメ。答えは教えてあげないよ)
「苗字? ……うーん、わたしの家名のことかな?」
「は、はい!」
「……それを言ってしまうと、君との楽しみが一つ減るから、内緒にさせて貰ってもいいかな」
(っていうか、この世界では家名とか、多分ないだろうけどね。でも、『君』なら、いや、君だからこそ、自力で答えにたどり着いて欲しい)
「ど、どういう意味でしょうか?」
「……まあ、そういうことで。ちょっと、疲れさせちゃったかな。随分、息が荒いよ?」
「え、ええ、その、あまり、体とか丈夫じゃなくて……」
「うーん、なら、少し座ろうか」
「……はい」
(うーん、《(彼女》》の、いや、『彼』の、天岩戸を開けるには、どうしたらいいかな?)
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