死因変換屋

鳩太

【プロローグ】

【プロローグ】

「いらっしゃいませ」


 ちりん、と鈴の音が響き、少女は入り口に立つ誰かへ向けて声をかけた。

 その声には幼さが混じっていたが、抑揚はなく、感情の色も浮かんでいない。
あたたかくも冷たくもない。決められたとおりに口にした、それだけのこと。

 扉が閉じると、外の光はすぐに途絶えた。
奥行きのない店内を、ほのかなランプの灯りがゆっくりと照らしている。
棚に並ぶ古書や骨董品が長い影を落とし、動かずにじっとそこにあった。
香の名残が空気に混ざっていて、時間が薄く引き伸ばされたように感じられた。

 少女はカウンターの奥で、静かに座っていた。
黒い服を身につけ、肩でそろえた髪が頬に沿って落ちている。
整った顔立ちには温度がなく、目の奥もずっと静かなままだった。

 ただ、そこにいることに意味があると感じていた。
それ以外のことは、どうでもいいように思えた。
誰かからどう見えるかを気にすることもなく、表情を変える理由も思いつかなかった。
たとえば、人形のように。

 少女のいる店の入り口には、一枚の札が掛けられていた。


『死因変換屋』


 この扉を見つけられる人は多くない。
大切な人の死を受け入れられず、悲しみと迷いを抱えたまま、それでも何かを変えたいと願う者だけが、この場所にたどり着く。

 少女は、扉をくぐった者に目を向けた。
視線をそらすことなく、じっと相手の目を見つめる。
迷いのない声で問いかけた。


「どなたの死因を変えたいですか?」

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