せっかくの異世界生活はステータスが何も変わっていないので面白くありません

ちょこサイダー

第1話 ゼロからスタート

 薄暗い部屋に一人男がうなされていた。物音しない静寂の中、彼の悶え苦しむ声だけが鳴り響く。


 アラームが鳴ったのでいつもと変わらない時間に起きる。

「またあの夢か...」

 ここ最近同じような夢を見るのは偶然かなんらかの意味が...考えたってしょうがないか。


 俺の名前は火野焔(ひの ほむら)、17歳の普通の高校生だ。え?今熱い男っぽいって思った?熱血漢っぽいって思った?逆逆、何事も中途半端な人間だし熱い人間とは正反対に位置してるような人間だ。


 成績も5があるかないかくらいの生徒だし、帰宅部。おまけに趣味は漫画とゲーム...あまりにも''普通''すぎる人間だ。

 歯を磨き、寝癖を整え、朝食を取るといつものように学校に向けて登校した。


「お!焔!今日は遅刻せずにちゃんと来れたんだな(笑)」

 そう俺を小馬鹿にしてきた奴の名前は剣崎透。

「ったく、当たり前だろ、第一俺が遅刻するようになったのは...」


「はいはい、あの『夢』のせいですか。いい加減素直に寝起きが悪いって認めろよー」

 親友のこいつには何度か夢のことを話している。今日は慣れのせいなのか遅刻せずに済んだ。まあ、信じろと言われて素直に信じてくれるとは思っちゃいないがな。


「そういえばお前さ!今日発売のガンプ買ってきたか!?」

「あー、忘れてた。ごめんごめん」

「も〜!今月はお前が買いに行く約束だろ」

 いやー、完全に忘れてた。ガンプとは毎月発売される月刊少年雑誌だ。頭の中が夢でいっぱいでついすっぽ抜けていた。

「今日放課後買いに行くからさ。明日まで待ってくれよ」

 透は渋々納得した様子を見せながらもどこか不安げな表情だ。まあ、透の今月1の楽しみと言っても過言では無いからな。


 ─────放課後になったので、忘れないうちに足早に近くの書店にガンプを買いに足を運ぶ。

「ガンプコーナーはここだったかな?」

 と、ガンプを手にしようとした矢先に何やら奇妙な本がある。清潔な店内には見合わないホコリ被った古書?のようなもの。誘惑され目当てのガンプより先に手に取り確認した。


「『神話遺文録』...?なんだこれ」

 新手のファンタジー作品だとは思うが見たことも聞いたこともないな。一応俺よりその手に詳しい透にでも聞いてみるか?

 そう思い携帯を取り出し連絡をしようとしたその瞬間───ページが勝手に捲られた。

「うわっ!!」

 ...ってしまった。ここ書店な。何騒いでんだ俺。


 周りからの冷たい視線に身をすくめながらも自分が悪かったと反省する。

 ...多分クーラーかどっかから風でも吹いて勝手に捲られただけだろ。

 と、すぐに切り替え本の中身を恐る恐る覗き込んだ。


「むかしむかし、この世界では神様が王国を支配していました。 人々は神を崇め畏怖していました。」


 なんだこれ?ギリシャ神話か?北欧?エジプト?漫画は趣味だが神話に関してはこれっぽっちも知識は持ち合わせていない。が、試しに読み続けてみるか。


「今日も人々は平和に生活していました。ですがどうやら神様たちは仲があまり良くないようです。創造神・ゼルト、破壊神・ヴァルキレスの二神を筆頭に戦いが繰り広げられました。


 しかし、その身勝手な神様たちの行動に人々の安全は保証されていません。沢山の人命が失われようとお構い無しに戦争を繰り返す神様たちに人々は我慢できず、ついには一人の男が神を殺してしまいました。」


 ちょっと待て、人間が神に怒るのは分かるが、神を殺すだと。有り得ねーだろ普通に考えて。人間なんかが神を殺せるってかよ...ってフィクション相手に何本気になってんだ。

 戸惑いながらも結末は気になるので一応読んでおく。


「破壊神・ヴァルキレスは彼の行動に怒りをあらわにし、自分たちの敵となりうる人間を全て虐殺しようと企みました。ですが、この世界、人間を創造し、愛している創造神・ゼルトは ヴァルキレスの企みを阻止しようとより一層戦いが激化してしいました。

 ───結果、神様たちは滅びました。」


 えええ!これ神話だろ確か!なんで神が滅亡しちゃってんだよ。神話ならフィクションなんだからもう少し神様視点とか書いてみたりさー…


「争いの火種となった人間はいつしか神殺しの英雄となりました。めでたしめでたし」


 なんだよこれ...内容薄すぎないか。期待して損した気分だ。まあ無名の時点で分かりきってたことなのかもな。兎にも角にも目的のガンプを買うため目の前のガンプを手に取るその時だった。


 俺の頭の中を例の夢が走馬灯のように駆け巡る。まるでとても現実とは思えなかった夢が今、なぜか明確に鮮明にはっきりと脳の中で再構築される。


 すると、なぜか文字が光だし宙に浮かびだした。ありえない光景だ。だが、妙な好奇心が俺の頭をくすぐる。俺はその場から離れず摩訶不思議な現象を目の当たりにしていた。


「なんだろうな...これ。神秘的な感じがしなくも無いけど...ってあれ?文字が喋りだした?」


 バラバラに散っていたはずの文字が羅列を作り一つの文章が完成される。


〈名はホムラか。地味で退屈な17歳の高校生。これといった特技もなく、漫画、ゲームが趣味。・・・はぁ。〉


 おいこいつ今ため息ついたか?文字がひとりでに動く状況もツッコミどころ満載だが、何より俺が侮辱された気分なんだが。


〈またもや失敗か。失礼。貴様をこの世界に呼び出す予定だったんだが完全に人違いだったようだ。この出来事は誰にも決して言わないと約束出来るか?...いや、やはり今記憶を消させてもらおう〉


 俺まだ何も言ってないんだけど勝手に消さないでくれる?

 状況が状況に少々頭の整理が追いつかないまま勝手に話が進んでいく状況に頭の混乱は止まる気配がない。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!多分おま...貴方が探していた人は俺かも知れないです!ので、記憶を消すと言った行為はやめて頂きないでしょうか?...」


〈ふむ。聞こう。お前が我々が探し続けていた人間だと言う根拠を〉


 ふぅ...。ひとまずはなんとかなった・・・か?俺は今まで見てきた夢のことを1門1句きれいに説明した。


〈...なるほどな。貴様が体験したのは''リンクドリーム''と呼ばれる現象だ。〉


「リンクドリーム?」


〈ああ、我々もまだ調査段階にあるためまだ詳しくは説明することはできない。が、一つ確実に言えることは異邦人が我々の世界の景色を夢で見れてしまうという事だ。〉


 こいつの言っていることが事実なら俺もその現象の被害者っぽいな。理解しているつもりでもあまりの非現実的すぎる話に素直に頭に入ってこない。


〈そして、貴様が見ていた夢も正に我々が今見ている景色とさほど変わらない。だが、残念だが貴様のような人間がもう既に五万といる。長々と説明をありがとう。我々もあまり時間が無いのでな。〉


 ああ、間違いない。これは確実にそうだ。異世界転生とか転移とかそのパターンだ。現実にこんなのが本当にあるなんて夢にも思わなかった。この世界に未練が無いと言えば嘘になるが、それでももう一度新しくスタート出来るなら願ったり叶ったりだ。


「お、俺にも何か手伝えることがあるなら───」


 あれ?消えてる。浮いた文字が一つもない...!

 周りからの冷たい視線がさっきより強烈な気がする。そういや書店だここ。流石にうるさすぎたと猛省する。


 人生に1回あるかないかのチャンスを逃してしまったか...。まあ、1回来ることすら有り得ないんだが。


 本を背に振り返りガンプをレジに運ぼうとしたその時だった。文字が光り始めたのか、今まで以上に強く発光し、俺の体を包み込む。


〈来い、ホムラ。少々事情が変わった。ようこそ我々の世界へ。貴様と会うのは少し先になるが貴様が我々が求めていた人間だったと言うことを願おう。さらばだ〉


 ...しばらく意識を失っていたようだ。朦朧とする中、何とか立ち上がる。澄み渡った青い空、広大な草原。視界が未だぼやけているせいでそう見えるのか、頭を強く打ったのか定かでは無い。


 一つ言えるのは俺は今書店のような小さな場所ではなく、言葉に言い表すことが出来ないほど壮大な───「異世界転移来たああああ!!」


 ああ、初めは人生楽勝な気分でこの世界に来たことを覚えている。現実でも凡人だった俺がいきなり異世界で非凡になるなど都合の良い話はそうそうないって何でこの時気づけなかったのか。まあ、召喚されて来たんで無理もないか。









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