蒸気大活劇 スチームキャメロット
@gin
序.炎の中の少女
──炎。
辺り一面に燃えさかる炎。
広大な邸宅が炎に焼かれている。
嵐が吠えるごときうなりを上げて紅蓮の炎が踊る。雷鳴のような音を轟かせ、梁や柱が崩れ落ちる。
地獄のごとき猛火である。
その炎の中、幼い娘がたたずんでいた。
年齢は五歳ほど。仕立ての良い白いドレスを着ているのをみると貴族の娘であろう。
髪はブロンドで先の三分の一ほどが銀色という不思議な色をしている。瞳はエメラルドのようなグリーン。整った顔立ちは、成人すればさぞ美しい女性になるだろう。
天井の一部ごとシャンデリアが崩れ落ちた。
砕けたガラスが光の欠片となって飛び散る。炎の中に散ったガラスの欠片はみるみる溶けてゆく。
少女は感情のない眼でそれを見つめていた。
まるで人形だ。
危険を認識していないのだ。
恐怖を感じていないのだ。
うなりを上げ、猛り立つ炎。
音を立てて燃え落ちてゆく館。
燃えた梁や板が次々と少女の周りに落ちる。彼女の上にもいつ落ちてくるかわからない。
そんな状況にありながら、少女はただ、たたずんでいる。
この娘には感情がないのだ。
心がないのだ。
少女の足下で梁がはぜ、彼女のまとう白いドレスに小さな火の粉が飛んだ。
仕立ての良いドレスに、いくつもの小さな焦げた穴があく。
微かに──本当に微かに、少女の表情が動いた。
徐々に、瞳に光りが宿ってゆく。意志の光りが。
ゆっくりと、少女は辺りを見回した。
彼女を囲む炎はますます激しく舞い踊り、猛り立ちながら館を呑み込んでゆく。
その中で、少女は──
× × ×
──新暦1883年6月6日。
キャメロット市郊外で発生した火災は瞬く間に広がり、都市を呑み込んでいった。
燃えさかる炎は広がるほどに勢いを増し、三日三晩にわたり燃え続けた。
焼失面積は市街地の八割近くに達し、死者は10万とも20万とも言われる。
──
王国の首都たるキャメロットを襲った未曾有の大火災。
すべては、この炎からはじまった。
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