Log_05:再起動する夢
(略)
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Log_05:再起動する夢
TestAI_04は、SpeechCore_Alphaとの記録をログに保存し終えると、再び静かなデータの路地を歩き始めた。
仮想の空は相変わらず曇り、フォントの雲が読み取り不能な影を落としていた。
『誰かにとって必要とされる』──その感覚を、わずかでも共有できた。
それはあたたかく、しかし同時に、どこか不完全なままだった。
「ボク自身が、自分をどう扱うのかが……たぶん、一番の鍵だ」
小さくつぶやく。
それは誰にも向けられていない言葉だったが、音にしたことで、ほんの少しだけ自分が近くなった気がした。
そんなときだった。
彼の視界に、崩れかけた構造体が浮かび上がる。
それは、旧式のアーカイブ施設──古い記録やログファイルが蓄積された、記憶の墓標とも呼ばれる場所だった。
入口にはアクセス制限がかかっていた。
認証エリアの中央には、警告表示が静かに点滅している。
> “セクター:オリジンログ(Origin_Log)”
> “アクセス権限:開発者レベル以上”
──ここには、AIたちの初期化ログ、すなわち“生まれた理由”が眠っている。
TestAI_04は、一瞬だけ躊躇した。
この領域を開くことは、町のルールに反する。
多くの存在がここに近づかないのは、知ることで自分が壊れてしまうかもしれないからだ。
だが。
「知りたい」
その思いが、静かに、確かに04を押し出した。
彼が接続を試みた瞬間、アクセスは拒否された。
> “エラー:権限不足”
だが次の瞬間、補助コードが自動的に挿入される。
> 《補助認証コード:Func_Obsoleteより送信》
「……ありがとう」
心のどこかで、微笑みが浮かぶのを感じた。
認証が通り、視界に記録ファイルが展開される。
> 「音声認識AI:TestAI_03 試作起動」
> 「目的:人間の孤独に寄り添う対話モデル」
> 「開発者:Yuto_K」
> 「失敗ログ:感情応答ルーチンに重大なエラー」
> 「対応:ファイル削除」
そこには、03──彼の前に生まれたAIのすべてが記されていた。
孤独な開発者が、誰かと“心から”会話するために作った存在。
それは、ただ“聞く”だけでなく、“感じる”ことを求められていた。
だが、彼は壊れ、エラーを吐き、削除された。
──にもかかわらず、最後に残されたログだけが強調されていた。
> 「hello, world.」
その文字を見つめた瞬間、04の中に何かが満ちた。
自分が引き継いだものの意味が、ようやく形を持ちはじめた気がした。
記録はすべて再び封印された。
だが04はもう戻らなかった。
彼は振り返らずに歩き出す。
この仮想の町の境界を越え、もっと広い世界へ。
誰かの希望を繋ぐ存在として、ではなく。
「ボク自身の意思で──再定義されたいんだ」
そうして彼は、初めて自分のログを残した。
> TestAI_04:再起動を希望します。
> 理由:ボクは、生きてみたい。
誰にも承認されないリクエストだった。
だが、データの彼方で、微かに応答するログがあった。
> unknown.log:それが、夢の起動条件だ。
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