第23話:原作主人公の任務報告3

 ジグルドが古城でマフィアの一団を倒し、セオフィルの別荘にて皆から感謝されている頃、クラウスは緊急でオズワルドに個人通信を繋いでいた。


「……というわけで、ジグルドは潜入した闇オークションでマフィアの一団を破壊。"狼人族"の他、奴隷として捕まっていた多数の亜人を解放。一つの街に至らず、国家の治安に寄与いたしました」

「ふむ……」


 クラウスの報告を受け、オズワルドは神妙な顔で腕を組んだ。

 大臣たちはここにいない。

 体裁上、前回の会議では同席させたが、大した意見も出さずオズワルドとクラウスの案に賛成するだけなので呼ばれなかった。

 事後報告で良いという、オズワルドの判断だ。

 当のオズワルドはしばし目を閉じて考え込んでいたが、やがて一つの結論を出した。


「……ジグルドは……本当に改心したのかもしれないな……」


 呟くような言葉は宙に舞い、やがて煙のように消える。

 しばしの沈黙が横たわった後も、やはりクラウスは"とある懸念"を払拭できないでいた。


「……お言葉ですが、オズワルド様。ジグルドのことは、私が一番よく知っていると自負しております。数多の善行を目の当たりにしても…………どうしても真に改心したとは思えないのです」

「うぅむ……そうだ、な……」


 オズワルドは唸る。

 改心したかもしれないと言いつつ、やはり心の底では断定できないでいた。


「これはきっと、監視しているだけでは判断できないでしょう。ですので、私は以前から考えていた計画を実行しようと思います」

「計画だと? なんだ、それは」


 クラウスは一呼吸置くと、かつてないほど真剣な表情で切り出した。


「本人に実際に会って、直接話します。出所後から、今まで密かに監視していたことも全て。いつまでも監視し続けるわけにもいきますまい」

「な、なにっ!? やめろ、クラウス卿! 危険だ! 下手に刺激しない方がいい! 監視されていたと知ったら、何をしてくるかわからないぞ! 改心したらしたで、そのままでいいんだ! 放っておけ!」


 オズワルドは慌てて拒絶する。

 考え得る限り、一番危険な選択だった。

 危険性を説いて説明するがクラウスは発言を撤回せず、その瞳には一段と強い意思が宿る。


「私もこの目で確かめたいのです。"人は本当に変われるのかどうか"……を。オズワルド様、どうかご許可をくださいませ」

「…………」

 

 重い沈黙が両者の間に横たわる。

 やがて、ため息交じりではあるが、オズワルドは接触の許可を出した。


「……とはいえ、気をつけろよ、クラウス卿。ジグルドは50年前でさえ、あれほどの驚異だったのだ。もし、服役している間に鍛錬を積んでいたら、今はどれほど成長しているかわからない。一般的な老化の範疇にあると思うな」

「心得ております、オズワルド様。十分に気をつけ、必要とあらば…………始末します。私自身の手で」


 そう答えるクラウスの手に、何もない空中から蒼い長剣が出現する。

 

 ――<蒼影の大聖剣>


 クラウスの代名詞たる、正義の剣だ。

 その蒼い刀身は陽光の反射だけで悪の心を滅するほど清く、魔物の硬い鱗を幾度切り裂いてもまったく切れ味が落ちない。

 彼はこの剣を片手にあらゆる悪を裁き、魔を葬り、世の中に平和をもたらした。

 今度は……いや、"また"ジグルドを斬ることになるかもしれない。

 クラウスは深く一礼をし、通信を切る。

 森の中からそっとセオフィルの別荘を窺うと、宴の喧噪が聞こえるようだった。


(私は知りたい……。あれほどの犯罪を犯した悪人の心も、正義に変わるのかどうかを……。人は変われるのかどうかを……)


 実際に会って確かめる。

 今一度、クラウスは決心を固くした。

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