第8話 策士な少女?

 ともあれ、眼前の少女へと向き合う僕。愛嬌に溢れるつぶらな瞳に、雪のように白い肌を備える楚々とした魅力の女の子。歳は、恐らく10代半ば――月夜つくよさまと同じくらいかと思うけど……ただ、それはともあれ――


「……黒髪では、ないのですね……あっ、すみません余計なことを!」


 自分で言って、慌てて謝る馬鹿な僕。……うん、何をしてるんだろうね、僕は。我ながら、ほんと余計なことでしかない。

 ともあれ、なぜこんな愚かなことを口にしたのかというと――平安この時代の高貴な女性は基本、皆さん黒髪だと思っていたから。そして、実際ここまで目にした方々は皆さん黒髪で。なので、彼女の鮮やかな黄色の髪には相当に衝撃で――


「……ふふっ」

「……へっ?」

「……あっ、ごめんね? でも、何も言ってないのに謝るから可笑しくてつい。ううん、気にしないで。女房さんの疑問は尤もだし」

「……あ、その、ありがとうございます……」


 すると、お言葉の通り可笑しそうに微笑み告げる可憐な少女。その様子から、どうやら不快に感じてはいないみたいで……ふぅ、良かった。



「さて、ちょっと遅くなっちゃったけど自己紹介を。私は梨壺なしつぼ。これでも一応、后の一人だよ。貴方は?」

「あっ、はい! ぼ……いえ、私は伊織いおりと申します。宜しくお願い致します、梨壺さま」

「伊織さん、だね。うん、宜しくね伊織さん」


 その後、ほどなく朗らかな笑顔で告げる美少女。……梨壺さま、か。まあ、さっき月夜さまが呼んでいたので知ってはいたけど……それでも、こうして自己紹介をしていただけるのはやっぱり嬉しい。


「――それで、さっきの疑問だけど……まあ、ちょっとした戦略ってところかな?」

「……戦略、ですか?」

「うん。ほら、帝さまにはそれはもう沢山のお后さんがいて、その中でも呼ばれるのはだいたい決まってる。例えば、藤壺ふじつぼさん。……まあ、あの人は皇后だし。好む好まないに関わらず、ある程度は優先しなきゃ駄目なんだろうね。あとは、時々だけど梅壺うめつぼさん。そして――帝さま一番のお気に入りが、そこにいる月夜さん。それはもう、断トツのね」

「……なるほど」

「そういうわけで、他のお后さん達が呼ばれることなんてほぼないの。もちろん、あたしも含めて。そんな不遇な中で、少しでも帝さまに見てもらうためにはどうするか――それは、他の人達と何かしら違いをつけるしかない。……まあ、帝さまは黒髪が好みだし、その点ではどう考えても不利なんだろうけど……でも、そもそもほぼ見てもらえてないのに、みんなと同じなんてそれこそ何の有利にも働かないし」

「……なるほど」


 そう、愛らしく微笑み告げる梨壺さま。そんな彼女の戦略は、驚愕ながらも納得――そして、思わず感心させられるもので。……うん、すごいなぁ梨壺さん。僕が彼女の立場なら……うん、出来ないかな。



「……ところで、さっきから思ってたんだけど……背ぇ高いよね、伊織さん。うん、梅壺さんと同じくらいじゃない?」

「あっ、その、えっと……すみません」

「ふふっ、なんで謝るの? さっきから面白いね、伊織さん」


 すると、ほどなく僕をじっと見つめそう口にする梨壺さま。……うん、確かに謝ることじゃない。ないんだけども……うん、つい。


 ……バレては、ないよね? ……うん、大丈夫……だよね? 背が高いといっても、きっと女性としてはという話――実際、同世代の男性に比べれば低い方だし……それに、後宮こちらにも僕と同じくらいの女性もいらっしゃるみたいだし。



「……ところで、そろそろお暇しても宜しいでしょうか梨壺さま。実は急ぎの用がありますので、私達」

「へっ? あの、そんなのありまし――」

「おや、伊織。先ほど申したばかりというのに、もうお忘れになってしまったのですか? これは主として調教が必要なようですね」

「調教!?」


 その後、ほどなくニコッと微笑みそう口にする月夜さま。いや仰ってなかったですよね!? 庭園でのんびりするご予定だったはずでは!? 


 ともあれ、梨壺さまへと優雅に一礼し通り過ぎていく月夜さま。些か困惑しつつも、僕も頭を下げ彼女の横を通り過ぎ――


(……それじゃ、またね伊織さん)

「……へっ?」


 通り過ぎようとした刹那、そっと鼓膜を揺らす微かな声。そして、ニコッと微笑みゆっくり去っていく梨壺さま。……さっきの言葉……それは、ごく自然な別れの挨拶。……なのに、どうしてか不意に背筋が――



「――ところで、伊織。先ほども随分と見蕩れていたように見えたのは、果たして私の気のせいでしょうか?」


 すると、ふとすぐそばから届く声。振り向くと、そこには何とも可憐な笑顔を見せる清麗な少女。だけど、どうしてかちょっと怖……いや、見蕩れてはいませんよ? ただ、すっごく可愛いなと思ってたくらいで。





 


 






 




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