第22話 痺れくらいなら牛乳で治せる
先に動いたのは舞奈の方だった。
明らかに人知を超えた速さ。
跳躍するように地面を蹴り周り、縦横無尽に攪乱しながら少しずつ間合いを詰めてくる。
その動きを見た葉子が地面の中へと潜る。
同時に小鳥が風の壁を正面に張った。
「……っ! 兄さん! 後ろ!」
舞奈は正面の壁はスルーし、俺達の背面に回る。
一瞬で眼前まで踏破した舞奈は俺の背中に回し蹴りを繰り出してきた。
「ぐっ……!!」
もろに一発を食らった俺はユラッとふらつき、片膝をついた。
今までの召喚獣とは違う点。それは相手も本気で攻撃をしてくる所。
俺達は戦闘において初めてダメージを負わされた。
それだけではない。舞奈はうずくまった俺に追撃を繰り出そうとしていた。
「……だぁ!!」
小鳥の異能が放出される。
風を槍のように変形させて射出される大技だ。
だけど舞奈は身体を半回転させるだけでアッサリと回避し、小鳥の脇腹辺りに手刀を繰り出した。
ぐにゅ
「……!?」
おかしな感触が舞奈の右手に伝わった。
「チーズ!?」
とっさに生み出した固形チーズがクッションとなり、舞奈の攻撃を緩和する。
「まだまだあるぞ!!」
ヨーグルトを顔にぶっかけ舞奈の視界を奪う。
その隙に小鳥を抱きかかえ、距離を取った。
「——甘いよ。来海くん」
「なっ!?」
舞奈は顔中ヨーグルトに覆われながらもまるで見えているかのように真っすぐこちらに駆けてくる。
同時に背中に伝わる衝撃。
「がはっ!」
全身しびれるようなダメージを受けて俺は再びうずくまってしまった。
視線を上げると舞奈召喚獣は口角を上げながら微笑むように俺を見下ろしていた。
「発想はすごいね。私と召喚獣は五感を共有しているから視界をふさがれたら私も何も見えなくなる。でも舞奈ちゃんは耳もいいんだよ。足音を消すべきだったね」
「……お前……自分で……ちゃん付けするようなキャラじゃないだろうに」
「そこは別にいいじゃない!?」
ツッコミを入れるように俺の脳天にチョップを入れようとしてくる。
脳天の直撃は回避したが、そのチョップは俺の肩へと命中した。
「んぐっ……!」
いてぇ。
ダメージを受けた肩がビリビリしびれている。
しびれは全身を巡り、視界がどんどん暗くなっていく。
女の子が放つボディタッチにしては殺傷力がえげつない。
何度も食らったらさすがにまずいかもしれない
——俺がヒーラーじゃなかったら。
目の前に固形牛乳を生み出し、口の中へと流し込む。
掠れていた視界が瞬時にクリアになった。
腹の痛みも肩の痛みも緩和されている。
うん。やはり牛乳の栄養素って素晴らしいな。
「う、うそ? ダメージだけじゃなく、状態異常まで一瞬で回復させるなんて……!」
「……?」
なぜか舞奈は狼狽えていた。
舞奈自身が俺に牛乳属性を与えたのならこの属性がヒーラーであることくらい彼女なら知っているはずだ。
だけど、舞奈は明らかに驚愕している様子であった。
だから俺は舞奈が何に驚いているのか見当がつかなかった。
ただ一つ言えること、それは今が反撃チャンスということだ。
「——捕らえましたわ」
不意に地面から生えだした大きな土色の腕が舞奈を捕まえる。
「っ! ゴーレム!?」
戦闘開始直後、葉子には土の中に隠れてもらった。
ただ隠れていたわけではなく、葉子にはこっそりゴーレムを生成してもらっていたのだ。
だけどゴーレムは鈍足。
動きの遅いゴーレムでも舞奈を捉えきれる隙を生み出すのが俺と小鳥の役目。
あらぬ形ではあったが隙を生み出すことは成功し、ゴーレムはしっかりと舞奈の身体を掴んでいた。
「小鳥さん!」
動きを封じた所に最大火力の大技をぶつけこむ。
それが3日間で考えた作戦だった。
「ウインド……トルネード!!」
ゴーレムすらも貫く必殺の矛。
轟風を木霊させながら風の槍は舞奈に向けてまっすぐ伸びる。
「——炎よっ!」
「「「……!?」」」
突然生み出された赤い塊が風の槍とぶつかり合う。
その瞬間、巨大な炸裂音と共に両者の異能は消滅する。
焦げた匂いだけが空間に立ち込めていた。
「そういえば、お前も異能使いなんだよな」
「キミたちよりもずっと大先輩のね」
不敵に笑う舞奈に対し、俺達3人の表情は引きつっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます