第3話 市販牛乳に異能牛乳をブレンドしてみた
「あ……おはよ」
「お、おう」
挨拶すらぎこちない俺たち兄妹。
いつもだったらそのまま互いに無言で朝食を食べて終わりとなるのだが。
俺は誓ったんだ。小鳥と再び仲良くなると。
「こ、小鳥。牛乳でも飲むか?」
俺が生み出した異能の牛乳ではなく、冷蔵庫にあったパック牛乳を取り出し牛さんのパッケージを小鳥に見せる。
小鳥は無言のまましばしこちらをじーっと見つめていた。
うっ、沈黙がキツイ。急に話しかけてしまったものだから驚かせたのかもしれないな。
「……飲む」
「……! そ、そうか! 今コップ持ってくる」
「……ん」
コップにパック牛乳を注ぐ。
その際に少しだけ俺の異能牛乳を混ぜてブレンドした。
「……! お、おいしいっ!」
「だろう!」
「……どうして兄さんが得意げなの?」
「あ、いや、その、あはははは」
「……変なの」
口元で小さく微笑みながら少しだけ優しい視線を向けてくれた。
小鳥は昔から表情変化が乏しかったけど、今みたいにちょっとした笑顔を向けてくれることは度々あったっけ。
久しく見られていなかった妹の表情変化になんだかこちらまで優しい気分になることができた。
『もしかして夢で舞奈に会わなかった?』とか『舞奈から異能を授からなかった?』とか聞きたいことはいっぱいある。
でも、今は美味しそうに牛乳を飲んでくれている妹の姿を見られただけで十分だと思った。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
深夜20時。
俺は近所の河川敷をダッシュで駆け抜けていた。
別に何かに追われているわけではない。
自主練だ。
「はぁ……はぁ……よしっ!」
思いっきり疲労したところで固形球体牛乳を生み出し、それを食べるように飲み干す。
「よっしゃああああ! 回っ復!」
俺の疲労は瞬時に霧散。牛乳の力ってすげー。
体力が全回復したところで俺は更にスピードを上げて河川敷を駆け抜ける。
そして疲れたタイミングでまた球体牛乳を食べる。
スピードを落とさないままひたすらそれを繰り返す。
「(た、たのっしぃぃぃぃぃぃぃっ!!)」
疲労が瞬時に霧散することに快感を覚えた俺は永遠にそんなことを繰り返していた。
牛乳を生み出し続けられる限り、俺は無限のスタミナを手に入れたことになる。
「(これだよ、これ!)」
異能の効果を実感できる特別感。自分にしかできないことをやっているという優越感。
俺は今初めて異能の力に酔いしれていた。
永続全力ダッシュを1時間くらいは続けただろうか。
まだまだ快感に酔いしれたいところだが、さすがに遅くなってきたのでそろそろ帰ろうかとした時――
「あれ? あそこにいるのって小鳥か?」
薄暗くて見えずらいが土手下の河原付近に妹の影が見える。
その傍らにはもう一人知らない女子がいる。
「(小鳥のやつ、こんな遅い時間にまで出歩いているのかよ……)」
まぁ、俺も人のこと言えないけど。
どうしよう、声をかけるか?
でも友達も一緒みたいだし、小鳥だって友達と一緒の時に兄と出くわしたくはないだろう。
「(声をかけるのはやめておこう)」
心配ではあるけれど、気軽に外で声をかけられるほど俺たちはまだ打ち解けていない。
家の中でもまだぎこちないくらいだ。
俺と小鳥の心の距離に寂寥感を覚えながら、俺は二人に気づかれないように静かに走り去っていった。
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