第14話 スタンピード・ワイゼ

 紅葉混じりの木々が両脇に規則正しく並んでいる。高さからも人工的に植えた木々も多そうだ。砂利舗装だが、先ほどの細い道は土を固めただけなので、こちらの方が幾分歩きやすい。四人が暫く歩くと、宿舎らしき建物の入口付近まで辿り着いた。そのまま立ち止まり、様子をうかがう。


「誰か居んのかな? あんま人の気配しないな」


「何処かには居るでしょうね。ライフル構えて狙ってるかも知れませんよ」


「怖い事言うなよ」


「あんぎゃー」


「どうした、セラ!」


「溝にカメさん居たんで触ったらビリビリきたー」


「だから不用意に触んな! 毒とか持ってるかも知れないんだぞ!」


 宿舎の門には鍵がかかっていたので、四人はそのまま砂利舗装の道を再び歩く事にした。時より鳥などを見かけるが、聞いていた通りの凶暴さはなく、襲ってきたりはしない。一応ナイフを持ちながら肉食獣には警戒しつつ前に進んだ。

 やがてカーブを曲がると、堅牢そうな門と金属塀が目に入る。塀は高さ三メートルはありそうで、上には有刺鉄線も巻かれていた。


「刑務所より脱走が難しそうだな」


 リョウが小石を拾い、塀に向かって投げてみた。どうやら電気が流れていないか調べたみたいだ。今までの経緯からして登ろうとした者を感電させるぐらいはやりかねない。正面の分厚い扉には大きな錠前がかけてあり、鍵がないと開けられないようだ。


「鍵はかけて有るけど、誰もいないなー。見張りは向こう側に立ってんのかな?」


「どうでしょうねえ。ドローンはこの辺も飛んでますし、逃げ出そうとしたとこを爆撃かも知れませんよ」


「ドローンは俺の能力が上がったら何とかなるかも知んねえけど、敷地内に四十人も銃を持った奴等が居るんなら、孤島だし、絶対逃げ切れねーよな。なーんか方法ねーかな」


 ユズルがふと後ろを振り向くと、フタビが寂しそうに俯いていた。元気ないのが気になり近づくと、フタビはハッとした感じで顔をあげる。


「どうしたのフタビちゃん?」


「あっ、い、いいえ……」


「フタビちゃんって、サードマンが出てる時は元気そうなのに、アイツが消えるとなんか大人しくなるよね?」


「……ごめんなさい。私、普段から人と接するのが苦手で、サードマンしかお喋り相手が居ないんです。あの子いないと緊張するって言うか……そのー……ごめんなさい」


「あー、わかる、わかる。知ってるツレがいない集団に入っても、なんか地が出せないもんな。けど、変な出会いとはいえ俺らクラスメイトだし、もうダチだろ? 俺らの事もサードマンだと思って、気楽に接してくれよ」


「あ、は、はい」


「ユズズ、ナンパすんな。ユズズ、ナンパすんな。ユズズ、ナンパすんな――」


 持っていた推し活団扇で、リズミカルにユズルの頭を後ろからポンポンするセラ。その行為に対してユズルの方はいっこうに気にする様子はない。


「こいつなんか最初からこんな調子だぜ。たぶん初対面の人んちでも、夜通しでパジャマパーティーするぐらいの厚かましさを持ってらっしゃる。ここまで馴れ馴れしいと引かれるから注意な」


 四人がそんな話で談笑してると、宿舎の方角から男が一人歩いてきた。理科教諭の面材だ。面材はドクターコートのポケットに両手を入れたまま、四人が立つ方へとゆっくりと進んでくる。ユズルはポケットに拳銃を忍ばせてないかを警戒した。


「お前ら何してる?」


「何してるって、お前が動物採集して来いって言ったんだろ」


「こんなとこ居ないぞ。あっちの繁みとかを探してみたらどうだ?」


「あーそうか。じゃあ、あっち行ってみよーかなー」


 ユズル達は来た道を引き返そうと、面材の横を通り過ぎようとした。その時、面材がポケットから両手を出す。ユズルは慌てて身構えるが、面材は何も持っていなかった。


「何、ビビってんだ。何も持ってねえよ」


「……何も持ってなくても能力者なんだろ?」


「そんな警戒すんなよ。俺、先生だけど先輩だぜ。かわいい後輩達と仲良く成りたいんだよ。邪険にしたら泣いちゃうぜ」


「……仲良く成りたきゃ教えてくれよ。こんなつまんねー試験させて、その後どうなるんだよ、先輩」


「教えてやりたいのは山々なんだがな。分かってくれよ。俺も見張られてんだ。規則破ったら校長に叱られるだろ。俺も間に挟まれて辛いんだぜ」


 そう言いながら面材はユズルとリョウの肩を順番に軽く叩いた。そしてセラとフタビの方へ進むと、団扇に興味を示したのかマジマジと見だす。


「へえー。こんな派手な団扇初めて見たよ。ちょっと貸してくんない?」


「いいよー」


 面材はセラから団扇を受け取ると、表裏を何度もひっくり返しながら団扇をじっくり熟視した。


「おもしれえなー。俺にも作ってくれないか?」


「おけまるー。推し文字は何がいい?」


「『死ね』が良いな。俺、校長と教頭が嫌いなんだよなー。あいつらに向かって全力で振るわ。あっ! やべっ! 聞かれたらどうしよう」


「駄目ッ。推し文字は相手に『好きだよー』を伝える文字でないと。例えばー、『らぶ』とか『投げキッスして』とか……」


「いー。あのデブとハゲに投げキッスされたら俺が死んじまう。じゃあ、いいや」


 面材は団扇を返した後、セラとフタビの肩もポンポンと叩いて、「じゃあな。気をつけて行けよ」と笑顔で言った。四人が歩き出すと、面材はその場で片手を振って見送っている。


「何だよ。何もなしか? アイツ、結構いいやつなんかな?」


「あれ? ユズル君。鼻水流れてますよ」


「鼻水? あっ、本当だ」


 鼻水を拭いたユズルは、急に倦怠感を覚え、咳をしだす。風邪のような症状と思いきや、お腹や関節も痛みだし、手足もむくんでいた。


「な、何だ? きゅ、急に体が……」


 ユズルは目眩を起こし、その場に崩れ落ちた。助けて貰おうと首を上げたが、リョウも隣で同じように倒れていたのだ。


「リョウ! だ、大丈夫か?」


「すいません。急に体が……」


 女子の二人が慌てて駆け寄ったが、二人も順番に崩れ落ちる。四人とも同じ症状で、貧血も起こしていた。それを見た面材がゆっくり近づき、先ほどの戯けた表情とはまるで別人のような真顔で四人を見下ろす。


「こ、これはお前の能力か? 俺達に何の攻撃をした?」


「何も……」


「何もしてないわけないだろ! 明らかに体調が変だ!」


「俺は何の攻撃もしていない。攻撃をしてるのは、お前達自身だよ」


「何?」


「花粉症って、何で起こるか知ってるか?」


「はあ?」


「人間の細胞って結構バカでな、体内に入っても何の影響もない花粉を勝手に敵だと認識して追い出そうとするんだ。だから、くしゃみや鼻水が出るんだよ。まあ、人間の細胞一つ一つに脳みそが有るわけじゃないからな。『それ敵じゃないよ』って教えても分かんないんだよ」


「な、何が言いたい……」


「俺の能力、暴走する白血球スタンピード・ワイゼは、俺が素手で触れた相手の免疫細胞を全て暴走させる能力だ。お前達の体内を攻撃してるのは誰でもねえ。お前達自身の免疫細胞さ。本来は体を守る為に体内の異物を攻撃してくれる免疫細胞が暴走し、健康な他の細胞を異物だと誤認して攻撃してしまう。いわゆる自己免疫疾患の状態だ。一斉に暴走したから数時間後には心不全でお前らは全員死ぬぜ」


「なっ?」


 面材は空を見上げ、指を指した。そこにはドローンがホバリングしながら浮いている。


「お前達バカだろ。上のドローンでお前達が逃げようとしてたの丸見えだったぜ。校則違反だ。自分自身の細胞に殺されて死ぬ」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。逃げようと企んだのは俺だ。三人は関係ない。見逃してくれ」


「そんなもん連帯責任だ。それに残念ながら俺の能力はもう解除できない。例え俺を殺してもな」


「な、なぜだ? お前の能力なんだろ?」


「自己免疫疾患の殆んどは難病だ。症状を抑えて寛解まではできるが、完全治療まではできない。お前達はその難病を幾つも患ったと思えばいい。免疫細胞の暴走は、現代医学でも完治できないんだ。俺が止め方知ってたら、難病じゃなくなるだろ」


「そ、そんな……」


「あきらめろ。俺の能力にかかって生き残れた者は、過去に一人も居ない……」


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


 殊徒学園 第九期生(現理科教諭)

 スーパーナチュラル科


 名前︰面材厘京


 年齢︰二十九歳


 能力名︰スタンピード・ワイゼ


 体内の免疫細胞を全て暴走させ、内臓や赤血球などあらゆる本人の健康な細胞を攻撃させる能力。免疫細胞は、元々が本人の健康を守る大事な細胞の為、取り除く事はできない。そして一度暴走してしまった免疫細胞は面材本人にも止められず、この能力にかかった者は死を免れる事は不可能である。


 脅威度︰A

 調節力︰C

 希少性︰A


 総合評定【3】

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