第11話 再び潜る夜
夜。
町の明かりが届かない暗がりを、3つの影がそっと歩く。
「20時、ちょうど。みんな、道具は問題ない?」
秋人がリュックを確認しながら問うと、リクが小さくうなずいた。
「うん。杭とスリングショット、ちゃんとある。……弾も詰めてきた」
「俺もバットとライト。バッテリーも予備入ってる」
蓮は相変わらず堂々とした態度で答える。
その背中に秋人は少し安心しつつ、口元を引き締めた。
3人はいつものようにホームセンターの裏手、従業員搬入口へと回り込み、物音を立てずに中へ入る。
「まだ……扉、あるかな」
リクが不安そうに呟く。
「大丈夫だ。こんな現象、一晩で終わるとは思えない」
秋人がそう答えると、レジ横の金属扉は──やはり、静かにそこにあった。
無機質な光沢を放つそれに、秋人がそっと手を伸ばす。
──ギィィ……。
金属のスライド音。何度聞いても現実感がない。
だが、その向こうに広がるのは間違いなく“非現実”だった。
「……よし、行こう」
秋人がナタを腰に下げ、バールを手にした。
リクはスリングショットを構え、杭を腰袋に差し、蓮はバットを肩に担いで一歩を踏み出す。
ダンジョンの空気は、やはり変わらず冷たかった。
たいまつの光が揺れ、苔むした石の床が足元に広がる。
「マップ通りなら、こっちの通路を抜けた先に、赤い印の部屋があるはず」
秋人が地図を確認しながら進む。
リクはその後ろをピタリとついていき、蓮は常に最後尾から後方を警戒していた。
「罠……前回のとこ以外にもありそうだな。気をつけろ」
「了解」
秋人はバールで床の段差やタイルの浮き沈みを確かめながら、ゆっくり進んだ。
「……っ、待って。今、何か……音、しなかった?」
リクが立ち止まり、小さな声で言った。
「後ろの通路、石がカツンって……」
蓮がバットを構え、くるりと後ろを振り返る。
「……いや、いねぇ。けど気配は……するな」
「まだ戦うのは早い。まずは目的の部屋へ」
秋人は慎重に進み続ける。
そして──
「……あった。印の場所だ」
石造りの通路の先に、ひときわ大きなアーチの入口が見えた。
中はまだ真っ暗で、たいまつの火もない。秋人がライトを向けると、奥に大きな石の台が見えた。
「……入るよ」
秋人が先に一歩踏み出す。リクがライトを構え、蓮はバットを両手で構え直す。
──中には、何も動くものはいなかった。
ただ、石の台の上に置かれていたのは──
「……また、ポーション?」
蓮が声を漏らす。
台座の上には3本の瓶が置かれていた。
中には真紅の液体。
「色が……赤だ。前回は青だったよな?」
秋人が慎重に近づき、瓶を拾い上げる。
ガラス瓶に入った赤い液体。まるで血のように濃く、粘度があるように見える。
「……回復じゃなくて、攻撃系とか……? いや、逆に毒の可能性も……」
リクが後ろから覗き込みながら、緊張で声を震わせる。
「試すのはあとだ。とにかく、持ち帰る」
秋人が瓶を布で包んでリュックにしまった、そのとき──
──ギャアアアアアアッ!!!
後ろの通路から、あの聞き慣れた奇声が響いた。
「来た!」
リクが叫ぶ。
秋人がバールを構え、蓮が即座に走り出る。
石の通路にまた、戦いの音が響こうとしていた。
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