第9話 盗まれた聖剣と追跡劇
「あああぁーーーーー!!」
脱衣所の壁越しに響き渡るカルマナの声。
とりあえず何事もなかったように他人のフリをして外へ出る。
出口で待っていると、青ざめたカルマナが涙ながらに走ってきた。
「どどどどうしましょうカインさん!! 私の剣が盗まれてしまいました!!」
まさか本当に無くなるとは。
「ちゃんと確認したのか?」
「宿のマスターに預けていたのですが、目を離した時には無くなっていたって」
ガックリと肩を落とし、ぺたんとその場に座り込むカルマナ。
相当ショックのようだな。いつの間にか涙で地面が水浸しになっている。
昨日の話を聞いた後では余計に不憫に思えるな。
これはおそらく・・・。
「マスターと話してくる。ちょっと待ってろ」
「はぃぃぃ〜・・・」
木戸を開けるなりマスターの元へ直行する。
「おい。剣は本当に無くなったのか?」
「え、ええ。ほんの一瞬でした。後ろ棚にある荷物を取ろうと手を伸ばしたはいいのですが、届かなかったので脚立を持ってこようと振り返った時には既に剣が無くなっていたのです。確かにここに立てかけておいたのですが・・・」
困惑しながら話すマスターの額にインビシブルを突きつける。
「本当だろうな? もし嘘をついていたらその頭が消し飛ぶことになるぞ」
「ほほほ本当ですっ!! 本当に気付いたら無くなっていたんですっ! 僕自身何が起こったのかさっぱりでっ・・・!」
「・・・・・・」
まあそうだろうな。
こいつが盗んだとするなら、いつまでもここにいるのはただの阿呆だ。
それに、こいつからスキルを使用した形跡も見つからない。
剣が勝手に移動するわけがないんだ。
誰かが持ち出したのは間違いない。
となると、犯人は
店を出ると、カルマナは地面に座り込んだままだった。
「あの様子じゃ本当に知らないようだな」
「そうですか・・・」
「とりあえず立ったらどうだ。せっかく温泉に入ったのに汚れるぞ」
「うぇ〜ん! だってぇ〜!!」
涙でぐしゃぐしゃにした瞳で俺に訴えかける。
やれやれ。
このまま連れていくわけにもいかないか。
「もう泣くな。剣の行方ならすぐに分かる」
盗まれたのなら追うのは簡単だ。
ひとまずヴァルムレイク全域からだな。
神経を研ぎ澄ましリブラを使う。
ーーーが、特に変わった気配は察知できない。
この町には既にいないか。
さらに広範囲に魔法を広げると、魔力の端で西側に移動する人影らしき小さな気配を捉えた。
剣もそこにある。どうやら当たりのようだ。
しかし妙だな。
この気配、どこかで感じたことがある。
「なんだか難しい顔をされてますね。見つからないですか?」
「いや、見知った気配のような気がしてな」
「はっ?! まさか王都の密偵が私たちを捕らえようと?!」
いや、それならわざわざ剣を盗むなんて回りくどいことはしないだろ。
ロザリアと関わりがあったような気もするが・・・思い出せない。
まあいい。どうせすぐに分かる。
「目標は見つけた。ここから西に行ったところに人影を見つけた」
「さっすがカインさん! それじゃあ早速向かいましょう!」
今まで泣き散らかしていた醜態が嘘のように明るい笑顔だ。
夜の草原は魔物に遭遇する危険性があるし、カルマナは宿に残して俺一人で行ったほうが無難だな。
「お前は宿で寝ていろ」
「そんな! 私の剣ですよ?! 私も一緒に行きます!!」
「お前のペースに合わせていたら朝になってしまう。一人の方が断然早いし、相手は相当の手練だ」
「そ、そんなに強いのですか?」
「俺に匹敵する可能性がある」
「カインさんに・・・」
ごくりと唾を飲み込むカルマナの姿に少しだけ心が痛むが、これくらい言わないと聞きそうにないからな。
「心配しなくていい。お前が起きる頃には終わっている」
「で、でも・・・」
「一刻も早く剣を取り戻したいんだろ。なら、ここで話している時間はない」
「わ、分かりました。気を付けてくださいね」
何度もこちらを振り返り、渋々宿に向かうカルマナの背中を見送る。
さて。
俺としても早いとこ終わらせて休みたいところだ。
少々強度を上げるか。
左腕の関節部の可動を確認し、義足のつまみを回す。
脚に力を込め、人影のいる方向へ向かい地を蹴る。
ものの数秒にしてヴァルムレイクを遥か後方に眺め、月明かりの照らす草原を颯爽と駆け抜ける。
それにしても、この短時間でここまで移動するとはなかなかだ。
やはりカルマナを置いてきたのは正解だったかもしれない。
しばらくすると、黒マントをはためかせる人影の背中を捉えた。
さらに加速し人影を追い抜き、その前に立った。
「鬼ごっこは終わりだ。その剣を返してもらおう」
咄嗟に切り返し、俺の脇を抜けようと飛び出す黒マントを掴み、その身を剥いだ。
一瞬、頭が真っ白になった。
黒いドレスに身を包んだ女児。
黒く長い髪に、それを纏める真っ白のリボン。
黒髪を際立たせる金色の瞳は、まるでこの星空を照らす月明かりのようだ。
少女は潤んだ大きな瞳で睨みつけてきた。
小さな後ろ姿から若いだろうとは思ったが、まさか女だったとは。
「その剣は連れの物だ。痛い目を見ないうちに返しておいた方が身のためだぞ」
「くっ・・・!!」
少女は言葉を遮るように、鞘に収められた聖剣で斬りかかって来た。
聞く耳持たずか。
盗んだものを惜しげもなく利用するとは品位に欠けるな。
盗人相手に品位もクソもないが。
「先に仕掛けてきたんだ。覚悟はできているんだろうな?」
「死ねっ!!」
大きく弧を描く剣筋をするりと躱す。
この様子では、どうやらこいつでも聖剣の鞘は抜けないようだ。
軽々と振り回すあたりはカルマナよりは全然マシだが。
このまま倒してしまっても構わないが、理由も知らないままというのも納得できない。
迫り来る少女に向かい空弾のインビシブルを発砲した。
「あうっ?!」
空砲が作り出した凄まじい風により、少女は後方へ吹き飛ばされた。
「これで懲りただろ。さあ、剣を返すんだ」
「いやだっ!!」
往生際の悪い。
「いい加減にしろ」
「お前の言うことなんか絶対聞かないわ!」
「なんだその目は。そんな目で見られる筋合いはない」
反抗的な。
まったく。どういう育て方をされたんだ。
このままヴァルムレイクの警護団にでも引き渡すか?
「お前はきらいだ!」
なぜ見知らぬ相手に嫌われなきゃならない。
「・・・何の話だ?」
「大食堂でロザリア様とお前が喧嘩しているのを見た! お前が出て行った後、すごく悲しそうな顔をしてた! お前がロザリア様を悲しませたんだ!!」
ロザリアロザリアうるさいな。
・・・あいつ、あんなことを言った俺に悲しんでくれたのか。
はっ・・・?!
子供の言ったことにいちいち乱されるな。
大体、何故こいつの口からロザリアの名前が出てくる。
勇者パーティにいた時にもこんな奴に出会った覚えは・・・。
いや、一つだけ思い当たる節があった。
確か前回のループだったか。
『祖光継諾の儀』の後、王都ドルガリスでロザリアの剣技に憧れて追ってきたと言う少女に出会った。
ロザリアは快く少女の話を聞いた。しばらく楽しそうに会話をしていたのを覚えている。
ロザリアのことが相当好きみたいだったが、あの時の子供か。
なるほど。リブラを使った時に感じた気配の正体はこれだったのか。
だがおかしい。
俺自身はこいつと一度も会話していない。
そんな俺がどうしてこいつと接点を?
俺がパーティを抜けたことで少しずつ事象が変化している?
・・・いや、単純に初めから狙いをつけられていたということか。
やれやれ。
「お前、名は何という?」
「ジュリエット」
名前だけは高貴さを感じさせるな。
そんな美しい名前からは想像もできない悪行を働いたわけだが。
そんなことを考えていると、ジュリエットは俺に対し聖剣を突きつけた。
「私と勝負しろ! このろくでなし!」
「笑わせるな。子供の言うことをまともに聞き入れるわけがないだろ」
「子供扱いするな! 私は本気だ! ロザリア様に代わってお前を倒す!」
騒ぎ立てるわりに滑らかで研ぎ澄まされた闘気。
この年齢で到達するには少々早い領域だ。
身のこなしもどこか優雅でありながらキレもある。
子供にしては良いものを持っているな。
何より、本気で俺を殺そうという強い意志を感じる。
満点の星空の下で光る金色の瞳がそれを物語っていた。
ただの子供とあしらう訳にはいかない、か。
「いいだろう。そこまで言うなら相手になってやる」
ゆっくりとインビシブルを構え、こちらを睨みつける少女に狙いを定めた。
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