第34話 甘い甘いケーキはあなたと共に
※本話は【三人称】視点で進みます ─────────────────────
「ではジャスミンさんのところに行ってきます」
「うん。じゃあ夕刻頃にまた来るから」
「はい」
アリウムと別れた後、ベルギアは門番に話を通しアマラの邸宅へと足を入れる。
「失礼します」
「ようこそベルギアちゃん」
「むぇ」
入るやいなや、ベルギアの頬はやわらかくジャスミンの手に触れて変形する。
「あぁ〜いつ見ても愛らしい〜」
「
「こちらにどうぞ」
ベルギアはジャスミンに手を引かれ邸宅の奥へと進んでいく。
「……いい匂いがしますね。お菓子でも焼いているのですか?」
進む先からは甘く何かが焼ける匂い。
「ご明察ですよベルギアちゃん。今作っているのはなんと……」
ジャスミンは勢いよく到着した調理場のドアを開ける。
それと同時に先程まで香っていた甘い焼き菓子の匂いが爆発的に突き抜けていく。
「ケーキです!」
「ケーキ……!? ケーキと言うとお店で売っているあの……?」
「そのケーキですよ」
「ジャスミンさんは作れるのですか……?」
「メイドですので」
「メイド凄い……」
タルト生地の焼けた匂いがベルギアの鼻腔をくすぐる。
腹の虫を抑えることができずにくぅ〜と可愛らしい音が我慢できずに漏れ出てしまう。
「……!」
「おやおやベルギアちゃん……お腹が空いたのですかぁ?」
「し、仕方ないじゃないですか……こんな美味しそうな匂いをさせられたら……」
「ふふふ、そのためにお呼びしたのですからたんと食べてくださいね」
席につくと目の前には数々のフルーツやナッツが乗せられたタルトケーキが置かれ、ジャスミンはそれを切り分ける。
「時に……アマラ様はいらっしゃらないのですか?」
「アマラ様は甘いものがお好きじゃないので……ですのでこうして私が作ったケーキをベルギアちゃんに振舞っているという訳です」
「なるほど…………なるほど?」
理由にはなっていないような気がするもベルギアの思考はすぐさま切り分けられた目の前のケーキに移行してしまう。
「わぁ……」
「どーぞ召し上がれ」
「いただきます」
サクッという音と共にタルトを分け、口へと運ぶ。
サクサクの生地と酸味と甘さが混じりあった味がベルギアの口を幸せに導いていく。
「ん〜〜〜! 美味しいです……!」
「それは良かった」
「ジャスミンさんは凄いですね……ベルギアはお菓子は作ったことは一度もありません」
「なるほど……だったら作ってみますか?」
「作ってみるって……」
「ケーキをです」
轟々と燃え盛る石窯の前。
タルトケーキを食べ終えた2人はそこに立っていた。
「さてベルギアちゃん。ここに予めこねておいた生地があります」
「はい」
「これを形取り……石窯に入れる。あとは火加減を見て取り出すのが大事です」
「なるほど……」
見様見真似でベルギアはジャスミンの真似をしてケーキを焼いていく。
しかし……
「……すいません……また焦げてしまいました。ジャスミンさんのようにはどうしても……」
「初めは仕方ないですよ。私だってそうでした。メイドも成功ばかりではないのです。まだ生地はありますから頑張って」
「はい…………!」
汗を垂らし、ベルギアは石窯へと向かい続ける。
そんな姿を見てジャスミンは疑問を投げかけた。
「それにしても凄い一生懸命ですねベルギアちゃん。そんなに美味しかったですか?」
「それもありますけど……旦那様に食べて欲しいと思ったので。旦那様に……旦那様と一緒に食べたいって」
「ふぅ〜ん……」
「そして、できれば……ベルギアが作ったものを美味しいって言って欲しいなと思ったので……我儘ですけど」
汗を拭いながらベルギアは恥ずかしそうに微笑む。
石窯から漏れ出る光によってかその顔は赤らめながらも輝くような表情で。
「健気ですねぇ〜。ギュってしても?」
「汗をかいてるからダメです」
「残念……作り終えるのを待つこととしますね」
「約束はしませんよ……?」
日が沈みかけ、夕焼けが差し込み始めた頃。
「出来た……!」
「お疲れ様ですベルギアちゃん」
「むぐっ。暑いです……離れてください……」
「あぁん」
抱きついてきたジャスミンを剥がして汗を拭いていく。
目の前にはジャスミンには及ばないもののベルギアの中では最も出来が良いケーキがそこにはあった。
「ベルギアー? 帰るよー?」
門の方から
「あっはーい旦那様! もう少々お待ちを〜」
作ったケーキを包みに入れる。
隣ではジャスミンが微笑んでいた。
「アリウム様、喜んでくれるといいですね」
「旦那様のことだからきっと喜んでくれます……でもベルギアはそれ以上に喜ばせたいです」
「ファイトですベルギアちゃん。片付けはしておきますから」
「はい。ジャスミンさん、今日はありがとうございました」
「ええ。また遊びましょう」
包みを後ろ手に持ち、ペタペタと廊下を歩く。
喜ぶかな。喜んでくれるかな。美味しいって言ってくれるかな。一緒に食べたいな。
そんな事を思う度、頬が緩みそうになっていくのを抑えるかのようにベルギアはアリウムへ駆け寄っていく。
「すいません旦那様。お待たせしました」
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