ウサデンの魔女
MTS
宇サ電担当の魔女(仮称)
人類はこれまで数えきれない程戦争を繰り返してきた。
単なる生物の殺し合い(?)自体は15億年前位からあったらしいが、178万年前くらいに「ホモ・エレクトス」とかいうサル野郎が斧の出来損ないみたいなツールを開発して以降、道具を集団学習してアップグレードすることで一気に人類の勢力範囲は拡大したらしい。
その後、超長い期間を経て船で大砲を撃ち合う様になり、気球から敵の動きを観測するようになり、やがて「飛行機で敵の中枢、大都市を燃やしまくれば一気に戦争は終わるんじゃないかな?」とか「宇宙から敵を偵察出来ないかな…?」といった形で人類の戦域は地上から海上、空中そして宇宙へと拡大していった。
この過程で人類は目に見えない「波」を利用することを思いついた。
当初は声(空気の振動)を針金や金属の管を使って離れたところに伝達する程度の話だったのだが、ある日頭のいい奴が音声を電気信号に変換することを思い付いたのである。そして、それは符号化の果てにIP信号となり、伝えたい情報も、そうでない情報も殆ど全て電波を介して伝達される様になった。
こうして人類の戦域はサイバー空間及び電磁波領域へ拡大した。
つまり戦争の歴史は「戦域の拡大の歴史」と言い換えことができる。
個体同士のタイマンが、集団の押し合いになり、やがて空中、宇宙、そして目に見えない電磁波やサイバー空間へと拡がっていったということである。
私は「ウサデンの魔女」である。ウサデンとは「宇サ電」と書き、
「宇宙」「サイバー」「電磁波」の略である。人間ではない。
私には電磁波を魔力で操る能力がある。
その能力を防衛省に買われ、日々、感情のないドローンとして
近年の戦場領域拡大に伴い、自衛隊も否応なしに対応を迫られることとなった。
平時から絶え間なく行われるサイバー攻撃、周辺国からの巧妙な情報収集、
(※:思考や感情などの認知領域に働きかけ、行動変化を企図する戦術)
ちなみに先ほど私は人間ではないと申し上げたが、じゃあ何なのかというと、それは自分でもわからない。いつ誕生したのかについても今となっては不明である。
国から(具体的には防衛省から)「宇サ電担当の魔女(仮称)」というペルソナを与えられているに過ぎない。
防衛省は「宇宙」「サイバー」「電磁波」を安全保障上、特に重視すべき新領域と定め、特定の魔女に対してその任務を付与している。
なお、防衛省内では当該新領域の3つは当初からセット扱いで、便宜上「ウサデン」とまとめられているものの、正直その3領域全てを私が担当できるわけではない。
私の主担当は『電磁波』である。
まあ、電磁波を操るタイプの魔女は珍しくない。飛べる奴もそうだ。
だが大抵は地磁気の反発を利用して尊師の様に宙に浮き、イオン推進でくるくると、不安定かつ低速度で風に舞うビニール袋の様にどこかに飛んで行く程度である。
私は「ウサデンの魔女」だ。あいつらとは違う。
まず、魔力でその辺の空気を体内で電離し、プラズマ化させるとともに魔法の電磁場で体内に発生させたプラズマを封じ込め、核融合反応を発生させる。これにより至短時間で10kVを上回る高電圧を発生させ、同時に交流磁場膜を展開、ローレンツ力で推進することができる。
これにより直線的かつ音速を上回る速度で飛行することが可能なのである。
毎秒数千kℓの空気をイオン化することは
「あー
と、説明している。
その様な都合上、箒なり、デッキブラシなりの棒状のものにまたがって飛んでいる。
でも、本当はドラゴンボールみたいに飛べる。
私って、ゴクウなんかなぁ…。
なお、私の外見はシンプルに黒髪で眼鏡をかけたぼっちのダサい女子中学生である。
本当にそうとしか形容することができない見た目をしている。
ふとカーディガンを脱いで姿見の前に立ってみる。
物凄く好意的な解釈をすれば「無駄がない」、にわかに肋骨が浮きでた細身は取っ手を背中にでも取り付ければ成人男性が片手で容易に搬送することが出来ると思われた。風速30m/s前後の風が吹けば魔法を使わなくても『発進』出来そうな気さえしてくるというのである。
これはマラソン選手が痩せているのと同じで能力の発動に膨大なエネルギーを要するからであり、しばらく仕事が無ければ食った分自然と膨らんでゆくこととなる。
ここ最近も出動が続き、スペが危険値に近づきつつあることは明白だった。
こんな時は健康的な食事に限る。厚生労働省の通達に沿った『三角食べ』である。
即ち、ファミチキ、ななチキ、からあげクンをバランスよく摂取し、速やかに見た目上心配されない程度の体型に戻すということである。
こんなギャグみたいな糞ふざけた生活習慣でありながら、引きこもりがちで病的に肌が青白いことを除けば未だに健康そのものである。
いつから、いや、いつまでこの姿のまま生き続けることになるのか、それは自分でもわからない。
自分のエンドステート、
死ぬパターンを色々と考えてみたが、おそらく、ごくごく小さい体内のプラズマ嚢をピンポイントで破壊されない限り直ちに絶命することは無い。でも、飛行するためには電磁場の位相をサブミリ秒オーダーで制御する必要があるため、活動性の大量出血や中枢神経への壊滅的なダメージはそういった機能の中断に直結する。
一応、突然死の様な状況を想定し、予備魔力で自動的に体内のプラズマや副産物の熱などを封じ込め、安全に処理する機構を備えているが、非常用の予備魔力まで喪失した場合、保持しているプラズマを魔法の電磁場で抑え込むことができなくなるので一瞬で蒸発して跡形もなく消えることになるだろう。
私に限らず、魔女や妖怪は人類にその存在を察知されるまで、自由気ままに生活し、基本的に刹那的快楽を追い求めて生きて(?)いた。
私の場合、ただカミナリを木にヒットさせて喜んでいた記憶がある。
(存在意義を問うのはやめてもらいたい)
当時は感覚でこれをやっていたが、今考えるとこれも飛行と同様、雷雲を見つけた時に周囲の空気を電離すると共に位相を制御して雲から任意の場所までの導電パスを生成していたのだと思う。
今はもうできない。
はっきりとしたメカニズムはわかっていないが、知能が高まれば高まる程魔力のキレは落ちるとされている。知能が高まると人間に近似するためだという者もいるが、私に言わせれば走ったりボールを投げたりする際にいちいち『身体を何度傾けて…』などと考えたりしないのと同じで魔力は本来感覚で発動するものだからであると思う。
魔力を使うときに、ふと『…なにこれ?』と思い始めたら弱まった証拠である。
魔力はね、『気持ち』(笑)
自我が芽生え、言葉を覚えて日本各地の民俗資料を確認した限り、概ね私は人間から「人格を持った超絶迷惑な自然現象」との認識をされていた様である。
やがて私のような「訳の分からない連中」は一部の人間に認知されて以降、
大きく2つの集団に分かれることとなった。
一つは私の様に人類に帰順したもの、もう一つは「人類の敵」として認定されたものである。
基本的に魔女や妖怪は人間の法治とは無関係に太古から自分のテリトリー、縄張りを有しており、それとの距離に反比例して魔力が失われていく傾向にある。
また、テリトリーの環境保全は魔女や妖怪としての存在維持に直結するため、大抵の魔女や妖怪は強烈な縄張り意識を有している。
帰順者は人間と一定の条件(テリトリーの保全、例えば特定の礼拝所の保護等)のもと契約し、必要な範囲内で持てる能力を発揮するという協力関係にある。
敵認定されるものの例としては『契約』の概念が理解できない者や、性質上、すべての依頼に対してNOを突き付けてしまう者、人間と関わるのが『ヤ!』な者、無政府主義者、反社会的なアイデンティティを持っていたり、あるいは時の権力者へ強烈な恨みを抱いている者などが挙げられる。
帰順者は概ねどの国においても一般国民に知られることなく当該国政府の指揮下において社会の為に活動し(殆ど政治、軍事的活動)、自分の利用価値をアピールすることでなんとか今でも人類と共存している。
後者は外はカリッと中はジューシーな「テリヤキ」にされていった。
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