極めてリハビリ的な【短編集】

伊井塚ショウ

私とサボテン

 サボテンのIQは三だという。

 昔ある植物学者がサボテンは環境に対して知覚的な反応を示すとして算出した数値が三らしい。

 

 何でもサボテンの周囲で音楽を流すと刺の角度がわずかに変わったり、日光の方向を変えるとその方向に自らの向きを変えたりすることがその理由だとか。

 

 私は窓際にポツンと置かれたサボテンを右手の人差し指で突っつきながら、植物の知能についてぼんやりと考えていた。

 

 毎日の労働の疲れが癒えるかなと思って、何となく買った小さなサボテン。衣服、生活用品、コンビニで買った弁当の残骸、それらがごっちゃに置かれた小汚い室内の中でサボテンは一際目立っている。紅一点ならぬ緑一点なそいつは、いつしか私の心のオアシスになっていた。

 

 IQと言えば、こんな話もある。

 知能指数が二十違うと、会話が成立しないというもの。これは別にそんな論文があるという訳ではなく、単なる俗説みたいだけどみんなが口々に言う話ではある。

 

 もし知能に差がある者同士では会話が成り立たないのだとすると、IQが三のサボテンと私の間にも当然会話は成り立たない。サボテンは喋らないからそもそも会話なんて起こりようがないって野暮なツッコミはなし。これは机上での話なのだ。

 

 私がサボテンに話しかけても、緑のこいつはうんともすんとも言わない。分かっているのか、それとも分かっていて返事をしないのか。それすら分からない飄々とした態度のまま窓際でどっしりと構えている。

 

 私は会社でよく怒られる。お前は話をちゃんと聞いているのか、理解できているのかと何度も何度も。会社の同僚や上司からは、私はサボテンのように見えているのかもしれない。でも言われている本人だって、その人なりに何かを分かっているものだ。ただそれを言葉にする力が弱いだけ。

 

 植物は優しい言葉をかけて育てると元気に、攻撃的な言葉をかけて育てると枯れる。今、私から会社での愚痴やら何やらを聞かされているサボテンだって、言葉にできないだけで何かを分かっているかもしれないのだ。人の内面なんてうわべからでは何一つ分からない。

 

 「ちゃんと聞いてる?」

 無口な感じがちょっと鬱陶しくなって、シュッと人差し指をサボテンのほうへ突き出したら、刺が思いっきり指先に突き刺さった。赤い雫がみるみる大きくなって傷口を真っ赤に染めていく。

 

 思わぬサボテンの逆襲に顔を少し歪めた時、はたと気付く。そっか、こいつも生きているんだなと。植物だからではなく、一つの命ある存在としてサボテンは生きている。IQが三だと言われようと何であろうとこいつは生きている。サボテンはサボテンとして生きている。

 

 私はこれからもポンコツのまま生きていくだろう。他の人から疎まれながら、蔑まれながらそれでも生きていくだろう。サボテンがサボテンであるように、私も私なのだ。

 傷口を消毒して止血しながら、私はサボテンに水をやるべく立ち上がった。さっきよりも少しだけ明るい表情で。 

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