第10話 穏やかな時間
穏やかな時間
下水にいたラットフィンクの退治を終え、オレも初めて冒険者として報酬を得た。悪いことをしている連中からかすめとるより、良い額であり、本気で冒険者になろうか……とも考える。
「冒険者なんて、所詮は雇われで、危険なことをさせられるだけですよ」
「ダリはあまり冒険者に肯定的じゃないんだ?」
「リスクとの兼ね合いで、どう考えても割に合わない仕事ですよ。ファンタジーの世界では、結構な余裕ぶっていますけど、ダンジョンに行ったときのおトイレとか、地獄ですからね」
「分かるよ。現実を考えると、ダンジョンなんて小便くさくなるのが必然だからね。でも、そういうのはお約束で言わない……だろ?」
「現実を知ると、ファンがたじろぐ……だからファンタジーなんですよ」
「ちがうからね。そんなファンタジー、もう崩壊しているから。作画崩壊より深刻なレベルだよ、それ」
「作画崩壊なら、製作者さんの苦労が偲ばれますが、ファンタジーを実写にした途端に、面白くなくなりますよね。シモのこととか、どうしているんだろう……? とか気になって」
「実写になると、つまらなくなるのはその通りだけど、シモのことを気にしているんじゃないよ。最近の特撮技術とかすごいけど、やっぱり何かちがうっていうか、違和感があるんだよ」
「大きな怪獣が、小さなトカゲみたいな動きをしたり、巨大アリが小さいころのままの動きをしたり……。体重によって体感速度が変わるし、巨大になるとかかる物理法則も変わるのに、それを無視していると、作品としておかしくなるんですよね。設定崩壊です」
巨大アリが、細い足で歩いているのは、確かに違和感がある。何しろ負荷は体重の二乗でかかるのだ。恐竜の足が太いのは、それを支えるために必要だからで、巨大アリになるとその分、足も太くならないといけない。
ファンタジーを実写にすると、そういうことがより気になるから。マーベル作品が今一つに感じるのは、結局アベンジャーズとかいって、超能力者を大量に集めると、その分違和感が増してしまうから。あれができたのに、これができないの……などがあると、もう没入もできない。ご都合主義に思えてしまうからだ。
ダリとは、ボクの記憶を共有するので、こうしたバカ話ができるのは有り難いけれど、どうもボクのシニカルな視点を受け継いでいる気がして、ひねくれている点は少し気になった。
クンがボクの上に乗って、べろちゅ~しながら、そのまま眠ってしまう。
彼女にとってべろちゅ~は、母親としていた……というように、心が落ち着くことのようで、疲れていたこともあり、寝落ちしたのだ。
まるで小さい子供のようだけれど、彼女は実際、まだ三歳でもある。
獣人族は成人が早いとはいえ、三歳の女の子が社会に出て、働いているのだ。
「頑張っていますからね。寝かせてあげましょう」
ダリはそういうと、ボクの左手から離れて、元の姿にもどる。元はネコが丸まったぐらいの大きさで、半透明だ。
「いつまでクンの家にいるのですか?」
そう、彼女とはエッチができても、子供はできない。彼女が子供が欲しい……と思えば、ボクとは別れる道をえらぶだろう。
「今は、いい関係だから……。でも、不満そうだね?」
「彼女とばかりエッチしても、私は面白くありませんからね。童貞を卒業すればすぐに色々な子と……と思っていましたが、こじらせ童貞には高いハードルだったようです」
「こじらせてないから! 亜人族はハードルが高いんだよ。シャスタさんたちのパーティーは特に、冒険者として実力もあるんだよ。そういう冒険者が、ボクとエッチをすると思うかい?」
「それをオトスのが、ジゴロとしての腕の見せどころでしょう?」
「ジゴロ……古ッ! ボクはジゴロでもないし、女性との関係があまり上手でなかったことは認めるけれど、女性をモノのように扱うのが嫌いってだけだよ。自分の感情を優先して、他人にそれを巻きこもうとするタイプじゃないんだよ。相手の気持ちを考えちゃうから、どうしても一歩、踏み込めないんだ」
「それがこじらせ……といっているのですよ。シャスタさんなんて、最初に声をかけてくれた時点で、脈ありじゃないですか」
「そうなの? どっちかというと、ボクよりクンの方が気になって、声をかけてきたんだろ?」
「人族と一緒にいる獣人族……。でも、シャスタさんはあなたのことを、獣人族を虐げて喜ぶ、クソ野郎だとは認識していませんでしたよ」
「それはきっと、クンが幸せそうだったからだよ。ボクに無理やり従わせられていたら、それが雰囲気でも伝わるからね」
今も、幸せそうにボクの上で眠っている。彼女にとって、獣人族は処女があまりモテないことから、ボクとのエッチでそういうことに慣れて……ということはあるだろう。人族の庇護下にあるのも大きいし、家賃を払ってくれるのも、彼女にとってうれしいはずだ。
でも、いずれボクらも別れるときがくる。ボクは彼女の身体を優しく抱きしめながら、今はこのいとおしい時間を大切にしよう……と思った。
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