第7話 ダリとの関係

     ダリとの関係


「また来たんだね」

 シャスタがそういって近づいてきた。「冒険者でもない人族が、ギルドに度々顔を出すなんて珍しいよ」

 そういって笑うが、それは昨日もそうだったように、トラブルになることも多くて人族の方が忌避するからだ。

「シャスタさんは、パーティーを組んでいるんですか?」

「あぁ、ほら」

 そういうと、筋肉質のごつい女性が近づいてきた。

「ロネだ。ドワーフ族だよ」

 重戦士か? 盾使いか? いずれにしろ前衛で活躍しそうな女戦士だ。

 ダリが「エッチしろ!」と言ってきそうで怖いけれど、この怖いはもう一つ、ロネに抱かれたら、ボクなんて簡単に背骨をボキッと折られそう……という意味でもそうである。

「二人?」

「いや、後二人いるけれど、今日はこっちじゃなく、後の二人は南のギルドに行って依頼をさがしている」

 この外道は中道、天道の周りをとりかこむ輪になっているので、ギルドは支部もふくめると四ヶ所あるそうだ。

 ここは北側にある本部で、南側に大きな支部が、東と西にも小さな支部があるらしい。ギルドは依頼を一括管理しており、本部の方が先に話が入ってくるので、ここでシャスタたちは依頼をさがしている、ということだ。


 クンは日雇いの仕事がみつかった。ギルドを通した依頼なら、きちんとギルドが管理しているので安心でき、ボクも別れた。

「花街に行ってみませんか?」

 ダリにそう言われるが、ボクも首を傾げる。

「でも、そういうところで働く女性って、スキルをもっているのかな?」

「もしかしたら、大魔導士に匹敵するほどのスキルをもつ女性が、罪に落とされてここに来ているかもしれないじゃないですか?」

「薄い期待だと思うよ。しかも、お金がいくらかかるやら……」

 暴漢たちからパクったお金とて、そう多くはない。

「じゃあ、まずはお金を稼ぐところから、ですね」

「よいアテはあるの?」

「この前と同じですよ。ここの住民、亜人族は人族の圧政、理不尽な扱いに苦しんでいます。そういう人族、退治したくないですか?」

「殺さないんだよね?」

「殺して欲しくないのでしょう?」

「それはね……。同じ人間として、他人を殺すのはちょっと……」

「覗きをする奴らには目を、悪い噂を流す奴らには耳と口を、そして強姦する奴らは股間を……」

「懲らしめのため、喰らうんだね?」

「私は身体のどこか一部でも『貪食』できれば、相手の能力、スキルを得ることができますから、そうやって犯罪者が二度とそれをしないよう、できないようにするだけです」

「正義の味方……じゃない。悪事の敵、になろうじゃないか」

 ボクとダリは、そのためにここに来た。魔獣であるダリにとって、別に人殺しなどどうでもいい話だ。殺して喰らう、それが魔獣なのだから……。

 でもボクと知り合って、犯罪者の一部のみを喰う、という形で決着した。それで彼女にとっては十分なのだし、命をとる必要まではない……と理解し、悪事を働こうとする者の、その一部を喰うと約束してくれた。

 そしてボクらは世の不正、不誠実を糺し、そのときちょろっと自分たちのつかう分のお金をくすねる……そのために、人族が唯一暮らす街、アダーベルトまでやってきたのだ。


 その日以来、外道に謎の事件が起きるようになった。ヒーローではない。ただ、何らか悪事を働こうとする者が、その身体の一部を溶かされる……という事象であり、悪いことを考えている人間にとって、恐怖を与えはじめていた。

 ボクは基本、何もしない。ダリがスキルで何とかするだけだ。ほとんどのスキルをダリがもち、それは魔獣から色々と得たものである。

 俊足もそうだし、怪力も、遠視もそう。しかも、それをボクの左手として行使するのだ。

 例えば俊足だと、ボクの足が速くなって、百メートルなら1秒とかからず走り抜けることができる。

 怪力だとダリがいる左手ばかりでなく、右手のパワーも増す。遠視になるとボクの目を通して、遠くを見ているけれど、その映像はボクに伝わってこない。

 俊足をつかえば、ボクの筋肉が断裂しそうになるし、怪力をつかうとつかった後に腕が筋肉痛だし、遠視をつかうとしばらく目がくらくらする。

 つまり、ダリはボクと一体化することによって、ボクのそれをつかって能力を発揮するのだけれど、つかわれるボクには多少のダメージがのこり、必ずしもボクは嬉しくない。

 でも、ダリは悪党がもつスキルや知識などもそれで吸収し、ますます強力な魔獣となっていく。

 ちなみにボクもダリに貪食されている。ボクが左腕の、肘から先を失っているのがそれだ。

 そのことによって、ボクの知識もダリに移った。そのことでボクと会話できるようになり、そしてボクの左手になることで、ボクもダリの知識の一部をつかえるようになって、この世界の言語や知識も得ることができたのだ。

 ボクらは二人で一つの魔物だけれど、その関係は必ずしも対等ではない。でも、ダリはボクがいないとスキルを効果的に発動するのが難しいし、そういう意味では互いの存在が大切。そんな関係だった。









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