NECRO-MAN-SEE

椎葉伊作

【1】

 俺の人生は暴力に支配されてきた。

 最古の記憶は母親――血が繋がっているか確証は無いが——に引っ叩かれ、ゴミだらけの粘ついた床に倒れ込むというものだ。まだ三つか四つのガキだったが、泣きはしなかった。視線の先にチーズの破片を見つけたからだ。埃にまみれていてタイヤのゴム並みに硬かったが、その後数十年、あれより美味いものには出会わなかった。後から、客の相手を終えて苛ついていた母親から腹に蹴りを入れられて吐き戻す羽目になったが、あの味は今も忘れない。

 母親は俺の物心がつくかつかないかの頃にヤクで死んだが、引き取られた先でも暴力が待ち構えていた。風船みたいに腹の出た孤児院の院長と、同じくらい腹の出たその息子。

 やられたことのすべては虐待の二文字で言い表せるが、それを何年間も毎日のように繰り返される苦痛は二文字じゃ言い表せない。強いて言うなら、絶望か、惨劇だ。一丁前に色気づいた息子から夜な夜なやられたことは、特に。

 結局、その惨劇は俺が十三の時に、院長の息子の脳天を灰皿で叩き割り、悲鳴を聞きつけてきた院長の顔面を満遍なく食いちぎって赤いトウモロコシの食いカスみたいにしたことで終わった。俺はみんなの為を思ってやったが、みんなは俺を院長たちを見る時みたいな目で見つめてきた。

 その夜、俺は一人で孤児院を出た。それから、いわゆる裏の社会に裸足で逃げ込んだ。出会う奴は全員、俺を使い捨ての人斬り包丁として扱ってきたが、苦にはならなかった。暴力には慣れていたし、暴力しか知らなかったからだ。

 そして気が付くと、俺は裏の社会でその筋の人間として名を上げていた。といっても、別にやることは変わらない。依頼を受けて、標的を殺すだけだ。

 そう。数年前に心臓を蜂の巣にされて命を落とし、亡霊になった今も———。

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