第6話 侵入者

 それは、静かな朝の始まりだった。だが、その静けさは突然、破られた。


屋敷中に響き渡る爆音と、警備兵たちの怒号。

カインの部屋の扉が勢いよく開き、エディが血相を変えて飛び込んできた。


「兄さん!敵が……!黒の教団が屋敷に侵入した!」


「……来たか。」


カインは即座に立ち上がり、ベッドから剣を取り出した。

葵の部屋でも、召使いたちが慌ただしく身支度を手伝っていた。


「アオイ様、こちらへ!地下の避難路へ──」


けれど葵は、足を止めた。

胸の中に、熱いものが込み上げていた。


(また、守られるだけの存在になるの?)

(また、誰かの犠牲の上に、私は逃げるの?)


いやだ。

あの夜、カインがくれた言葉を思い出す。

「お前がいるだけで、俺たちは救われるんだ。」


今こそ、自分の力を使うときだ。


葵は、胸に手を当て、祈るように集中した。


──その瞬間。

光が、葵の体を包み込んだ。


周囲の空気が変わった。

甘い花の香りと、暖かい風。

次の瞬間、部屋中の怪我人の痛みが消えていった。


「これが……聖女の力……!」


召使いたちは、涙ぐみながら手を合わせた。


一方その頃──

屋敷の中庭では、カインとエディ、アークが教団の戦士たちと激しく剣を交えていた。


「アオイには、一本たりとも指を触れさせん!」


カインは剣に〈蒼炎〉の力をまとわせ、敵を焼き払いながら叫んだ。

その背には、強く美しい蒼い炎の翼が広がっている。


エディは〈雷閃〉の剣技で、稲妻のようなスピードで敵を翻弄し、

アークは重厚な〈大地の守り〉を使って、仲間たちを盾のように守っていた。


だが──黒の教団の中心に立つ、仮面の男がつぶやく。


「やはり、あの娘……完全な聖女だ。今ここで奪い取らねば……!」


そのとき、突如として、空から巨大な影が落ちてきた。


「ドラゴン……!?」


敵が召喚した魔獣だ。漆黒の鱗に覆われた巨大なドラゴンが、屋敷を威圧するように咆哮を上げた。


「ぐっ……!!」


カインたちが押され始める──その時。


「やめてっ!!」


清らかな叫び声が空気を裂いた。

屋敷の奥から、光の奔流がほとばしる。


その中心にいたのは、白いローブをまとった葵だった。

その手には、淡く輝く聖なる杖〈ルミナリア〉が握られていた。


「……アオイ、来ちゃダメだって……!」


「もう逃げない。今度は、私が守る番。」


葵は目を閉じ、祈るように杖を掲げる。


「『花ノ咲キ、命ハ芽吹ク』──

 聖花の恩寵セイカ・グレイス!」


無数の光の花が空に舞い、ドラゴンの身体を包み込んだ。

瞬く間に、魔獣の動きが止まり、やがて静かに崩れ落ちる。


その美しさと力に、敵も味方も一瞬、言葉を失った。


仮面の男は歯噛みしながら撤退を命じる。


「……今回は退く。だが、次は……!」


──戦いが終わった。


屋敷の中庭で、カインはゆっくりと葵を抱きしめた。


「よく……無事でいてくれた……」


「私、やっと……誰かの役に立てた気がする……」


葵はそう言って、初めて涙を、嬉し涙をこぼした。


そしてこの日、葵の名は王国中に知れ渡る。

“新たな聖女の誕生”として──

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