託された、最期の設計図

@Torchbearer

序章

第1話 プロローグ 「目指す背中」

慣れ親しんだ工房の中にいる。

空気は乾いていて、鉄と油の匂いがかすかに漂っていた。

遠くで、金属を研ぐ音が響いている。

ギィィ……カン、カン。


視界の奥に、ひとりの老人がいた。

袖が太く、腰に紐を巻いた、見慣れない服を着ている。

この人は、あの服を「サムイ」って呼んでたな。


ごつごつとした手。

黙々と工具を研ぐその姿には、何の無駄もない。


だが――

顔つきも、佇まいも、これまで出会った誰とも違っていた。

呼ばれていた名前も、このあたりの言葉ではなかった。


空気に混じる、説明のできない違和感。

なのに、不思議と落ち着く場所だった。


研ぐ手が止まり、老人はぽつりと呟く。


「……が変わったっていい。遠回りでもいい。

 誰かが笑ってくれるなら、それが正解なんだよ」





ウェイドは、ベッドの上で静かに目を覚ました。

天井を見つめたまま、呼吸を整える。


「……またか」


かつての日々。

あの工房。

“あの背中”。


言葉の意味は、思い出せない。

散々怒られたはずなのに。


でも、確かに――あの人は、“自分とは違う何か”を見ていた。


ただ、その在り方だけが、身体に焼きついていた。

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