--GAME PLAYER--(このゲームは寿命を消費します ゲームを開始しますか?YES/NO)

セイシュウ

第一章 選択

第1話 静かな始まり

 世界が滅びることを、誰も知らない。

 ……俺だけが、それを覚えている。


 空間が裂け、異形の者の巨大な手が見えた。

 世界は終わる。


「後悔なんてない」と言えば――それは、嘘になる。


 正しいのかどうかなんてわからない、

 それでも俺は、選んだ。決断したんだ。


 変わらない日々。

 変わるはずがないと思っていた。

 ……変えてしまうほどの“何か”に出会うまでは。


 これから語るのは、

 誰も知らず、誰も覚えていない、俺の物語だ。


 あの日、俺は“それ”を拾った。

 すべての始まりは、あまりにも――静かだった。


 ♦


 俺の名前は、吉野よしの英斗えいと。29歳だ


 バイトの時間ギリギリまで寝るか

 悩んでいたが起きることにした。


 支度を整えると、手持ち無沙汰になった。

 このままダラダラ時間を潰すか、早めに出るか──

 そんなことを考えていたとき、ふとカレンダーが目に入る。


 水曜日。

 そうだ、ゴミの日だった。


 この地域では、水曜の朝が可燃ゴミの回収日。


 先週ゴミを出しそびれたのを思い出し、慌てて袋をまとめる。


 以前、回収後にゴミを出してしまい、大屋にこっぴどく叱られたことがある。

 あの怒鳴り声は、いまだに耳に残っている。


 出かけるには少し早いが、ゴミ出しのついでにバイトへ向かうことにした。


 ゴミ捨て場に向かうと、地面に何かが落ちているのに気づいた。

 黒くて平べったい。スマホか?

https://kakuyomu.jp/users/363_6678/news/16818622176497971887

 手に取った瞬間、掌に微かな熱を感じた。

 重さでも形でもない、もっと感覚的な“ざらつき”のようなものが、皮膚の奥に染み込んでくる。


 なぜだか心のどこかに引っかかる“違和感”だった。


「……なんだ、これ」


 只の気のせいだろうか?不思議な感覚だった。


 捨てられたスマホ? それとも誰かの忘れ物?

 とにかく、他人のゴミをいちいち分別してやる義理もない。

 元の位置に戻そうとした──そのとき。


「ちょっと吉野さん!」


 後ろから鋭い声が飛んできた。

 思わず肩がビクッと跳ねる。振り返ると、大屋が仁王立ちしていた。


 七十を越えても声の張りは健在。顔に刻まれた深い皺が、長年の厳しさを物語っている。


「それ、どうするつもり?」


 詰め寄ってくる大屋。俺は口を開きかけるが、彼女の言葉が先だった。


「今日は燃えるゴミの日、燃・え・る・ゴ・ミ!!」


 完全に誤解されていた。

 彼女は、俺がこのゴミを“捨てた”と思っているらしい。


「いや、これ……」

 説明しようとするが、言葉が詰まった。


「言い訳はいいから、とっとと持って帰りなさい!」

 怒鳴り声を残し、大屋はくるりと背を向けて去っていく。


 ──うおぉい!


 地面に叩きつけてやろうかとも思ったが、

 大屋が、遠くからまだこちらを睨んでいた。


 仕方なく、苛立ちを飲み込み、それを尻のポケットにねじ込む。

 ゴミなんか出さずに、ギリギリまで寝ていればよかった。

 そんな気分で、俺はバイト先へと向かった。


 バイト先のコンビニは、歩いて10分ほど。

 住宅街の脇道を抜け、大通りに出たとき――


 横を通り過ぎた子どもが、リュックにぶら下げたぬいぐるみを揺らしている。

 骨っこボディに丸い目が愛嬌を放つ、パステルカラーの“スケルン”。

 最近、世界中で人気になっている複数いるキャラクターの一つだ。

(あれが……“スケルトン”をモデルにしたキャラ? 嘘みたいだな)


 可愛らしくデフォルメされたそれは、子どもたちの間でマスコット的存在らしい。

 人気の魔物の森のキャラだ。


 ◆


 店に着くと、レジには行列ができていた。


「あ! 吉野君! 助かった〜! 悪いけどすぐ入って!」


 向井店長が手を振って呼ぶ。

 四十代にしては動きが軽やかで、声も若々しい。


 急いで制服に着替え、レジに入る。


「何かキャンペーンやってましたっけ?」


「ないない。あったらシフト調整してたもん」


“もん”って。四十超えて、その語尾はどうなんだ。


 心の中でツッコミを入れながらも、顔には出さない。


「そういえば吉野君」


「なんです?」


 俺は唐揚げを揚げながら、振り向くことなく返事をする。


「最近流行りの噂、知ってる?」


 振り返ると、店長の目が爛々と輝いていた。


 ──ああ、思い出した。

 この人、オカルトとか都市伝説とか、そういうのが大好物なんだった。


「狼男の話でしょ? 昭和じゃあるまいし」


 最近ネットで妙に話題になっている、狼男の目撃談だ。


「違うよ……情報が古いよ……」

 ニヤニヤと笑いながら、妙に落ち着いた声で続ける。


「カマキリだよ。人くらいあるって噂」


「……は?」


 思わず間抜けな声が出た。


「……人間くらいあるんだって」


 俺は思わずフリーズした。


「本気にしてるんですか?」


 そう答えると、向井さんの長い噂話が始まった。


 ◆


「吉野君、先にお昼どうぞ」

 店長の声に頷き、「お先いただきます」と言って更衣室へ向かう。


 バックヤードは狭く、更衣室と休憩室が兼用になっている。

 カップ麺にお湯を注ぎ、近くの椅子に腰を下ろす。


 座った瞬間、尻のあたりに違和感を感じた。


 ──ああ、そういえば。


 ポケットには拾った“スマホらしきもの”が入ったままだった。

 取り出してみる。


 「なんだこれ?」


 思わず呟いた。一見、スマホに見えなくもないが、

 どちらかというと小型のゲーム機に見える

 表面にはいくつかのボタンが並んでおり、直感的に“電源っぽい”ものを押してみた。

 すると、意外にも起動する。


「お、動いた」


 ゴミ拾いから始まった朝のむしゃくしゃが、わずかに晴れる。

 意外な反応に胸の奥がくすぐられるようなワクワクを覚えた。


 だが、次の瞬間。画面に浮かんだ文字に、眉をひそめる。


『このゲームは寿命を消費します』


 寿命? なんだそりゃ。

 思わず笑いそうになる。


 表示は続く。


『ゲームを開始しますか? YES / NO』


(ちょうど暇つぶしにはいいかもな……)


 手にした時の不思議な感覚を思い出すが、

 気になりつつも俺はYESを選んだ。


 するとまるでRPGのステータス画面のようなものが表示された。


 レベル:1

 名前:吉野英斗


 攻撃力:7 

 守備力:5


 年齢:29

 体力:28/28

 ちから:7 

 まもり:5 

 すばやさ:8


 俺の名前……?


 ”入力なんかした覚えがないのに”


 さらに気になるのは

 ステータス画面の下部に、【寿命】という項目があり【10年】と表示されていた。


 後は「持ち物画面」「装備画面」が表示されるのみだ。


 ──そして、何も起こらない。


(……は?)


 拍子抜けした。 壊れているのだろうか?まあ、ゴミ捨て場にあったんだ、当然か。

 内心がっかりしつつ、ポケットに突っ込む。帰ったら捨てればいい。


 多少、気味悪く感じたが気にしないことにした。


 ──バイトが終わった後。


 家に帰る前に、駅前の牛丼屋に立ち寄ることにした。

 バイト先から5分ほどで着く、家からは遠くなるが、少しなので遠回りでも気にならない。

 もうすぐ到着するというところで、後ろから声が飛んできた。


「おい……おい!! テメェに言ってんだよ!」


 無視すればよかったのに、反射的に振り向いてしまう。

 そこには、痩せた体格の若い男が立っていた。20代前半。刺すような目つきが覗く。


「わりぃ、おっさんよぉ……ちょっと金貸してくんね?」


 口調は静かだが、妙に圧がある。


(……これ、拒否権ないやつだな)


 喧嘩は苦手だ。かといって金を渡すわけにもいかない。

 あと10日、財布の中身だけで生活しなきゃならないのに。

 逃げるか?


 そう考えた瞬間、男の手が俺の腕をがっちりと掴んできた。

 見た目によらず、力がある。


「おっとぉ? どこ行くの? まだお金もらってなーい」


“さっきは“貸して”だったのに、もう“もらう”ことになっている。

 さらに肩に手を回され、人気のない路地へ引きずり込まれそうになる。


「渡す金はない」


 きっぱり言い切った。本気で、マジで、一円も出せない。


「おとなしく渡しときゃ、怪我しなくて済んだのによ!」


 漫画みたいなセリフと共に、拳が飛んできた。

 頬をかすめるものの、幸いにも避けることができた。。


(こんな恥ずかしいセリフ、実際に言うやついるんだ……)


 そんなことを考えている間に、今度は蹴りが飛んでくる。

 腹にモロに入った。


「ぐっ……!」


 痛みと衝撃で後ろに倒れる。

 だが、すぐに起き上がり、思い切って相手の下半身にタックルを仕掛けた。

 予想外だったのか、相手はバランスを崩して倒れ込むと、勢いのままマウントを取った。


 ──こっちの番だ。


 拳を振りかぶった、その瞬間。


「悪かった! 冗談……冗談だって、な?」


 両手を合わせ、ごめんなさいのポーズ。情けない顔で見上げてくる。

“な?”ってなんだよ。


 俺は関わりたくなくて、解放することにした。

 そそくさと立ち去るその背に


(そこは『覚えてろよ!』とか言って去るんじゃねーのかよ……)


 心の中で突っ込みを入れると、

 何処からか電子音が聞こえる。どこかで聞いたことがあるメロディだ


「レベルが上がりました」


 無機質な機械音。だが、その声は確かに、すぐ傍で囁かれたようなリアルさだった。


 反射的に周囲を見渡すが、誰もいない。


 まさかと思いながら、あの機械を取り出す。


 レベル:2

 名前:吉野英斗


 攻撃力:7 

 守備力:5


 年齢:29

 体力:28/28

 ちから:7 

 まもり:5 

 すばやさ:8


 残りポイント:7


「……え?」


 壊れてなかったのか?


 そして――

 画面を見ると「残りポイント:7」という表記がある。

 ためしに”ちから”に触れてみると、数値が7→8に増え、残りポイントが6に減る。


「……振り分けできるってことか?」


 試しに全部「ちから」に振ってみる。すると、14に増えた。


 他に何かないか弄っていると


「あ! いた!! あいつですよ!!」


 聞き覚えのある声に、心の底からため息が漏れた。

 ウンザリしながら振り返ると、案の定――


 がっくりと肩を落とし、俺は静かに呟いた。


「またおまえか……」


 さっきのチンピラが、こちらへ向かってくる。

 しかも今度は、一人じゃない。後ろにはどう見ても“その筋”の男がいた。


 さっきは運よく撃退できた。だが、二人相手は無理だ。

 詰んだな――と、心のどこかで観念する。


「兄ぃ、こいつですよ」


 チンピラの声に応じて現れたのは、30代後半か40代くらいの男。

 角刈りにサングラス、そして左頬に一筋の傷。

 見るからに“ヤバい”雰囲気をまとっている。

 体格もしっかりしていて、拳一発で沈められそうな迫力だ。


(殴られたら痛いだろうな……)


 俺はその場を離れようとした——その瞬間。


 がしっ、と肩を掴まれ、全身がビクリと強ばった。


 がっちりとした指が、まるで鉤爪のように皮膚に食い込み、じわりと痛みが走る。


「自分でやらかしたケジメは、つけねぇとな」


 低く、押し殺したような声。

 その響きの奥に、容赦のない殺気がはっきりと滲んでいた。


「兄ぃ、頼んます」


 後ろでチンピラがニヤけながら調子に乗っているのが見える。


(あいつ……マジで💢)


 このままボコられるのを待つくらいなら、少しでもやり返してやる。

 せめて一発だけでも——!


 決意と共に、掴まれた肩を勢いよく振り払い、そのまま拳を振り抜いた。


 ドスッ——。


 偶然にも拳が男の顎にヒットした。

 骨を殴った鈍い衝撃が、指先から腕全体へと響く。


 巨体がぐらりと揺れ、まるでスローモーションのようにゆっくりと後ろへ倒れていく。


「兄ぃ、油断しすぎっ……!」


 チンピラが慌てて駆け寄った。


「兄ぃ!? 兄ぃ、立ってくださ……って、冗談、兄ぃ……?」


 その声には、明らかな焦りが混じっていた。


(打ち所が悪かったのか……?)


 思わず、倒れた男の様子を覗き込んだ——その瞬間。


「よくも兄ぃを!」


 怒声と共に、チンピラが拳を振りかざして飛びかかってきた。


 攻撃に備えて身構えた、その時——


 チンピラの足元がぐらつく。

 倒れた“兄ぃ”の足に引っかかり、前のめりに体勢を崩した。


(今だ!)


 反射的に身体が動く。


 迷わず足を繰り出し、腹を蹴り上げる。


「ぐふっ!」


 チンピラの身体がくの字に折れ、背後の壁に叩きつけられ崩れ落ちた。


(……俺、こんなに力あったか?)


 脳裏をかすめる“ゲーム機”の存在。


 まさか、とは思う。

 けれど心のどこかが、その可能性を否定しきれない。


 小さく首を振り、思考を振り払おうとしたとき。


 呻き声。


 サングラスの男が、ふらふらと身を起こす。

 慌ててチンピラを担ぎ上げると、肩に担いでふらつきながら言った。


「覚えてやがれ!」


 雑魚キャラのテンプレのような捨て台詞を残して、ヨロヨロと逃げていった。


(……チンピラAとBってことでいいか)


 それにしても疲れた。

 全身から気力が抜け落ちていくような感覚。


 家に着くなり、玄関をくぐってベッドへ倒れ込んだ。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 最後まで読んでいただきありがとうございます。


 第1話では、ごく普通の男・英斗の日常に、“異物”がひとつ混ざる瞬間を描いています。

 ゲーム機、寿命、そしてレベルアップ。

 ほんの些細な選択が、後戻りできない現実の扉を開く鍵だったのだと、彼はまだ知らない。


 今はまだ、世界の異変の影も見えない。

 それでも、静かに、確実に“死”が近づいてくる。


 日常が不穏に歪みはじめる第2話へ、どうぞ。


 よろしければ、英斗のこれからを見守ってください。

 評価・感想・ブックマークなど、応援いただけると励みになります。

 今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

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