--GAME PLAYER--(このゲームは寿命を消費します ゲームを開始しますか?YES/NO)
セイシュウ
第一章 選択
第1話 静かな始まり
世界が滅びることを、誰も知らない。
……俺だけが、それを覚えている。
空間が裂け、異形の者の巨大な手が見えた。
世界は終わる。
「後悔なんてない」と言えば――それは、嘘になる。
正しいのかどうかなんてわからない、
それでも俺は、選んだ。決断したんだ。
変わらない日々。
変わるはずがないと思っていた。
……変えてしまうほどの“何か”に出会うまでは。
これから語るのは、
誰も知らず、誰も覚えていない、俺の物語だ。
あの日、俺は“それ”を拾った。
すべての始まりは、あまりにも――静かだった。
♦
俺の名前は、
バイトの時間ギリギリまで寝るか
悩んでいたが起きることにした。
支度を整えると、手持ち無沙汰になった。
このままダラダラ時間を潰すか、早めに出るか──
そんなことを考えていたとき、ふとカレンダーが目に入る。
水曜日。
そうだ、ゴミの日だった。
この地域では、水曜の朝が可燃ゴミの回収日。
先週ゴミを出しそびれたのを思い出し、慌てて袋をまとめる。
以前、回収後にゴミを出してしまい、大屋にこっぴどく叱られたことがある。
あの怒鳴り声は、いまだに耳に残っている。
出かけるには少し早いが、ゴミ出しのついでにバイトへ向かうことにした。
ゴミ捨て場に向かうと、地面に何かが落ちているのに気づいた。
黒くて平べったい。スマホか?
https://kakuyomu.jp/users/363_6678/news/16818622176497971887
手に取った瞬間、掌に微かな熱を感じた。
重さでも形でもない、もっと感覚的な“ざらつき”のようなものが、皮膚の奥に染み込んでくる。
なぜだか心のどこかに引っかかる“違和感”だった。
「……なんだ、これ」
只の気のせいだろうか?不思議な感覚だった。
捨てられたスマホ? それとも誰かの忘れ物?
とにかく、他人のゴミをいちいち分別してやる義理もない。
元の位置に戻そうとした──そのとき。
「ちょっと吉野さん!」
後ろから鋭い声が飛んできた。
思わず肩がビクッと跳ねる。振り返ると、大屋が仁王立ちしていた。
七十を越えても声の張りは健在。顔に刻まれた深い皺が、長年の厳しさを物語っている。
「それ、どうするつもり?」
詰め寄ってくる大屋。俺は口を開きかけるが、彼女の言葉が先だった。
「今日は燃えるゴミの日、燃・え・る・ゴ・ミ!!」
完全に誤解されていた。
彼女は、俺がこのゴミを“捨てた”と思っているらしい。
「いや、これ……」
説明しようとするが、言葉が詰まった。
「言い訳はいいから、とっとと持って帰りなさい!」
怒鳴り声を残し、大屋はくるりと背を向けて去っていく。
──うおぉい!
地面に叩きつけてやろうかとも思ったが、
大屋が、遠くからまだこちらを睨んでいた。
仕方なく、苛立ちを飲み込み、それを尻のポケットにねじ込む。
ゴミなんか出さずに、ギリギリまで寝ていればよかった。
そんな気分で、俺はバイト先へと向かった。
バイト先のコンビニは、歩いて10分ほど。
住宅街の脇道を抜け、大通りに出たとき――
横を通り過ぎた子どもが、リュックにぶら下げたぬいぐるみを揺らしている。
骨っこボディに丸い目が愛嬌を放つ、パステルカラーの“スケルン”。
最近、世界中で人気になっている複数いるキャラクターの一つだ。
(あれが……“スケルトン”をモデルにしたキャラ? 嘘みたいだな)
可愛らしくデフォルメされたそれは、子どもたちの間でマスコット的存在らしい。
人気の魔物の森のキャラだ。
◆
店に着くと、レジには行列ができていた。
「あ! 吉野君! 助かった〜! 悪いけどすぐ入って!」
向井店長が手を振って呼ぶ。
四十代にしては動きが軽やかで、声も若々しい。
急いで制服に着替え、レジに入る。
「何かキャンペーンやってましたっけ?」
「ないない。あったらシフト調整してたもん」
“もん”って。四十超えて、その語尾はどうなんだ。
心の中でツッコミを入れながらも、顔には出さない。
「そういえば吉野君」
「なんです?」
俺は唐揚げを揚げながら、振り向くことなく返事をする。
「最近流行りの噂、知ってる?」
振り返ると、店長の目が爛々と輝いていた。
──ああ、思い出した。
この人、オカルトとか都市伝説とか、そういうのが大好物なんだった。
「狼男の話でしょ? 昭和じゃあるまいし」
最近ネットで妙に話題になっている、狼男の目撃談だ。
「違うよ……情報が古いよ……」
ニヤニヤと笑いながら、妙に落ち着いた声で続ける。
「カマキリだよ。人くらいあるって噂」
「……は?」
思わず間抜けな声が出た。
「……人間くらいあるんだって」
俺は思わずフリーズした。
「本気にしてるんですか?」
そう答えると、向井さんの長い噂話が始まった。
◆
「吉野君、先にお昼どうぞ」
店長の声に頷き、「お先いただきます」と言って更衣室へ向かう。
バックヤードは狭く、更衣室と休憩室が兼用になっている。
カップ麺にお湯を注ぎ、近くの椅子に腰を下ろす。
座った瞬間、尻のあたりに違和感を感じた。
──ああ、そういえば。
ポケットには拾った“スマホらしきもの”が入ったままだった。
取り出してみる。
「なんだこれ?」
思わず呟いた。一見、スマホに見えなくもないが、
どちらかというと小型のゲーム機に見える
表面にはいくつかのボタンが並んでおり、直感的に“電源っぽい”ものを押してみた。
すると、意外にも起動する。
「お、動いた」
ゴミ拾いから始まった朝のむしゃくしゃが、わずかに晴れる。
意外な反応に胸の奥がくすぐられるようなワクワクを覚えた。
だが、次の瞬間。画面に浮かんだ文字に、眉をひそめる。
『このゲームは寿命を消費します』
寿命? なんだそりゃ。
思わず笑いそうになる。
表示は続く。
『ゲームを開始しますか? YES / NO』
(ちょうど暇つぶしにはいいかもな……)
手にした時の不思議な感覚を思い出すが、
気になりつつも俺はYESを選んだ。
するとまるでRPGのステータス画面のようなものが表示された。
レベル:1
名前:吉野英斗
攻撃力:7
守備力:5
年齢:29
体力:28/28
ちから:7
まもり:5
すばやさ:8
俺の名前……?
”入力なんかした覚えがないのに”
さらに気になるのは
ステータス画面の下部に、【寿命】という項目があり【10年】と表示されていた。
後は「持ち物画面」「装備画面」が表示されるのみだ。
──そして、何も起こらない。
(……は?)
拍子抜けした。 壊れているのだろうか?まあ、ゴミ捨て場にあったんだ、当然か。
内心がっかりしつつ、ポケットに突っ込む。帰ったら捨てればいい。
多少、気味悪く感じたが気にしないことにした。
──バイトが終わった後。
家に帰る前に、駅前の牛丼屋に立ち寄ることにした。
バイト先から5分ほどで着く、家からは遠くなるが、少しなので遠回りでも気にならない。
もうすぐ到着するというところで、後ろから声が飛んできた。
「おい……おい!! テメェに言ってんだよ!」
無視すればよかったのに、反射的に振り向いてしまう。
そこには、痩せた体格の若い男が立っていた。20代前半。刺すような目つきが覗く。
「わりぃ、おっさんよぉ……ちょっと金貸してくんね?」
口調は静かだが、妙に圧がある。
(……これ、拒否権ないやつだな)
喧嘩は苦手だ。かといって金を渡すわけにもいかない。
あと10日、財布の中身だけで生活しなきゃならないのに。
逃げるか?
そう考えた瞬間、男の手が俺の腕をがっちりと掴んできた。
見た目によらず、力がある。
「おっとぉ? どこ行くの? まだお金もらってなーい」
“さっきは“貸して”だったのに、もう“もらう”ことになっている。
さらに肩に手を回され、人気のない路地へ引きずり込まれそうになる。
「渡す金はない」
きっぱり言い切った。本気で、マジで、一円も出せない。
「おとなしく渡しときゃ、怪我しなくて済んだのによ!」
漫画みたいなセリフと共に、拳が飛んできた。
頬をかすめるものの、幸いにも避けることができた。。
(こんな恥ずかしいセリフ、実際に言うやついるんだ……)
そんなことを考えている間に、今度は蹴りが飛んでくる。
腹にモロに入った。
「ぐっ……!」
痛みと衝撃で後ろに倒れる。
だが、すぐに起き上がり、思い切って相手の下半身にタックルを仕掛けた。
予想外だったのか、相手はバランスを崩して倒れ込むと、勢いのままマウントを取った。
──こっちの番だ。
拳を振りかぶった、その瞬間。
「悪かった! 冗談……冗談だって、な?」
両手を合わせ、ごめんなさいのポーズ。情けない顔で見上げてくる。
“な?”ってなんだよ。
俺は関わりたくなくて、解放することにした。
そそくさと立ち去るその背に
(そこは『覚えてろよ!』とか言って去るんじゃねーのかよ……)
心の中で突っ込みを入れると、
何処からか電子音が聞こえる。どこかで聞いたことがあるメロディだ
「レベルが上がりました」
無機質な機械音。だが、その声は確かに、すぐ傍で囁かれたようなリアルさだった。
反射的に周囲を見渡すが、誰もいない。
まさかと思いながら、あの機械を取り出す。
レベル:2
名前:吉野英斗
攻撃力:7
守備力:5
年齢:29
体力:28/28
ちから:7
まもり:5
すばやさ:8
残りポイント:7
「……え?」
壊れてなかったのか?
そして――
画面を見ると「残りポイント:7」という表記がある。
ためしに”ちから”に触れてみると、数値が7→8に増え、残りポイントが6に減る。
「……振り分けできるってことか?」
試しに全部「ちから」に振ってみる。すると、14に増えた。
他に何かないか弄っていると
「あ! いた!! あいつですよ!!」
聞き覚えのある声に、心の底からため息が漏れた。
ウンザリしながら振り返ると、案の定――
がっくりと肩を落とし、俺は静かに呟いた。
「またおまえか……」
さっきのチンピラが、こちらへ向かってくる。
しかも今度は、一人じゃない。後ろにはどう見ても“その筋”の男がいた。
さっきは運よく撃退できた。だが、二人相手は無理だ。
詰んだな――と、心のどこかで観念する。
「兄ぃ、こいつですよ」
チンピラの声に応じて現れたのは、30代後半か40代くらいの男。
角刈りにサングラス、そして左頬に一筋の傷。
見るからに“ヤバい”雰囲気をまとっている。
体格もしっかりしていて、拳一発で沈められそうな迫力だ。
(殴られたら痛いだろうな……)
俺はその場を離れようとした——その瞬間。
がしっ、と肩を掴まれ、全身がビクリと強ばった。
がっちりとした指が、まるで鉤爪のように皮膚に食い込み、じわりと痛みが走る。
「自分でやらかしたケジメは、つけねぇとな」
低く、押し殺したような声。
その響きの奥に、容赦のない殺気がはっきりと滲んでいた。
「兄ぃ、頼んます」
後ろでチンピラがニヤけながら調子に乗っているのが見える。
(あいつ……マジで💢)
このままボコられるのを待つくらいなら、少しでもやり返してやる。
せめて一発だけでも——!
決意と共に、掴まれた肩を勢いよく振り払い、そのまま拳を振り抜いた。
ドスッ——。
偶然にも拳が男の顎にヒットした。
骨を殴った鈍い衝撃が、指先から腕全体へと響く。
巨体がぐらりと揺れ、まるでスローモーションのようにゆっくりと後ろへ倒れていく。
「兄ぃ、油断しすぎっ……!」
チンピラが慌てて駆け寄った。
「兄ぃ!? 兄ぃ、立ってくださ……って、冗談、兄ぃ……?」
その声には、明らかな焦りが混じっていた。
(打ち所が悪かったのか……?)
思わず、倒れた男の様子を覗き込んだ——その瞬間。
「よくも兄ぃを!」
怒声と共に、チンピラが拳を振りかざして飛びかかってきた。
攻撃に備えて身構えた、その時——
チンピラの足元がぐらつく。
倒れた“兄ぃ”の足に引っかかり、前のめりに体勢を崩した。
(今だ!)
反射的に身体が動く。
迷わず足を繰り出し、腹を蹴り上げる。
「ぐふっ!」
チンピラの身体がくの字に折れ、背後の壁に叩きつけられ崩れ落ちた。
(……俺、こんなに力あったか?)
脳裏をかすめる“ゲーム機”の存在。
まさか、とは思う。
けれど心のどこかが、その可能性を否定しきれない。
小さく首を振り、思考を振り払おうとしたとき。
呻き声。
サングラスの男が、ふらふらと身を起こす。
慌ててチンピラを担ぎ上げると、肩に担いでふらつきながら言った。
「覚えてやがれ!」
雑魚キャラのテンプレのような捨て台詞を残して、ヨロヨロと逃げていった。
(……チンピラAとBってことでいいか)
それにしても疲れた。
全身から気力が抜け落ちていくような感覚。
家に着くなり、玄関をくぐってベッドへ倒れ込んだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
最後まで読んでいただきありがとうございます。
第1話では、ごく普通の男・英斗の日常に、“異物”がひとつ混ざる瞬間を描いています。
ゲーム機、寿命、そしてレベルアップ。
ほんの些細な選択が、後戻りできない現実の扉を開く鍵だったのだと、彼はまだ知らない。
今はまだ、世界の異変の影も見えない。
それでも、静かに、確実に“死”が近づいてくる。
日常が不穏に歪みはじめる第2話へ、どうぞ。
よろしければ、英斗のこれからを見守ってください。
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今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
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