第3話(前編)――「砦の朝、戦から統治へ」

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『エルデン公爵家の末子』(第十章第3話)の【登場人物】です。

https://kakuyomu.jp/users/happy-isl/news/7667601420296051051

『エルデン公爵家の末子』(第十章第3話)【作品概要・脚注※】です。

https://kakuyomu.jp/users/happy-isl/news/7667601420296095189

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前書き

1144年2月14日未明、ヴォルテックス島北部の砦でアレクサンドロスは酋長カルロスの拘束後の後始末に当たり、家族を保護下に置く。朝食の場では豆漿や油条、蛋餅、肉包が並び、張りつめた空気に少しぬくもりが戻る。ここで彼は「恐れだけで人は動かない。次は信頼を積む」という方針を固め、武力から統治へと舵を切る。


本文


1144年2月14日午前6時。ヴォルテックス島北部山岳地帯アシュタル族砦

 アレクは、先日の戦いで、アシュタル族の酋長:カルロス・アシュタルを捕らえ、砦の牢に監禁した。彼の家族は全員人質にしている。彼の3人の夫人たちは、カルロスの初めての敗戦に衝撃を受けた。


 アレクを初めて目にした瞬間、カルロス・アシュタルの三人の夫人たち、エリザベス、イザベラ、アナスタシアは驚きを隠せなかった。彼女たちの心には、捕らえられたという恐怖と、目の前に立つ敵司令官のあまりの若さ、そしてその美しさが入り交じった感情が湧き上がっていた。


 エリザベスは、アレクの柔らかな顔立ちと大きな瞳に目を奪われ、思わず息を呑んだ。戦場での冷徹な司令官とは想像できない、内面的な深さや感受性がその瞳に宿っているように感じたのだ。彼女はその無邪気さを思わせる姿に、母性のような感情さえ抱いてしまった。


 一方、イザベラは、アレクの肩にかかる無造作な髪とシンプルかつ洗練されたスタイルに目を奪われた。そのカジュアルな服装からは、彼の若々しさと純粋さが溢れ出ており、彼の内面の輝きが外見に滲み出ていた。また外見の美しさとともに、内面の強さや誠実さが彼の雰囲気に表れているように思えた。


 アナスタシアは、アレクが胸に手を当てている仕草に注目した。その姿勢には、深い感受性や優しさが感じられ、戦いの場における残酷さとはかけ離れた彼の内面が垣間見えた。彼女はこの少年がどれほどの力を持っているのかを理解しつつも、その純粋さに心を揺さぶられたのだった。


 三人の夫人たちは、それぞれに異なる感情を抱きながらも、共通していたのは、彼女たちを捕らえた相手が、これほど美しく、心に残る少年であったという衝撃だった。彼女たちはこの少年、アレクが、いわゆる征服者とは異なる心に何か特別なものを残す存在であることを感じずにはいられなかった。


 アレクサンドロスは、アシュタル族の酋長であるカルロス・アシュタルの3人の夫人たちが用意した朝食を待つ間、その場の雰囲気に包まれていた。アレクの美しさと若さに心を奪われたエリザベス、イザベラ、そしてアナスタシアは、彼の前での立ち振る舞いに緊張しつつも、彼の歓心を得ようと全力で尽くした。


 朝食の準備が整うと、まずエリザベスが自らの手でアレクに料理を供した。彼女が用意したのは、ヴォルテックス島の伝統的な豆乳「豆漿ドウジャン」に、揚げパン「油条ヨウティアオ」を添えたものである。彼女は豆乳の温かさを確認しながら、アレクの隣に座り、優雅に微笑みながら口移しで「豆漿ドウジャン」を彼に飲ませた。アレクはその優しさに驚きつつも、彼女の行動を拒むことなく受け入れた。


 それを見たイザベラは負けじと、別の料理「蛋餅ダンビン」を持ってアレクに近づいた。彼女は蛋餅を細かく噛み砕き、それをアレクに口移しで食べさせた。イザベラの熱心さと献身的な姿勢は、アレクにさらなる好意を抱かせた。


 最後に、アナスタシアもまた、アレクに対する思いを行動に移す時が来た。彼女は、甘辛い豚肉が詰められた「肉包バオツー」を選び、それをアレクに提供した。アレクの前にひざまずきながら、彼女は一口ずつ丁寧に噛み砕いて、アレクに優しく口移しで食べさせた。


 この三人の夫人たちの競い合うような奉仕により、アレクは彼女たちの献身を深く感じると同時に、自身がいかに彼女たちにとって特別な存在であるかを理解した。


 朝食後、3人の夫人たち「第一夫人:エリザベス・アシュタル(36歳)、第二夫人:イザベラ・アシュタル(30歳)、アナスタシア・アシュタル(26歳)」は、アレクに伽を要求した。アレクは思いもかけない要求に驚き、拒絶したが、彼女たちはこの場で順番に行えと言い張りアレクの拒絶をはねつけた。


 アレクはやむなく、「一人だけなら認めよう。毎日、ひとりだけと決めてくれ」と彼女たちの要求を条件付きで受け入れた。彼女たちは年齢順に行うことに決めた。


後書き

前編は『戦いの直後に何をするか』を示した回。要点は三つ――捕虜と家族の安全確保、食と礼で対話の糸口をつくる、次の一手は交渉と制度づくり。この流れを受けて、中編では島の有力家門とつながるための「仮の身分」と「紹介状」が活きてくる。

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