2日目

「主にお披露目する前に、水洗いをして…服を着せましょう。」


経験者だから知ってるけど、『指鉄砲』といった奥の手や、吸血鬼として使える『召集』はこの世界にいる限り、制限されるが、一応使う事は可能だ……ほぼ使い物にならないけどね。


【ノエルのアイデンティティである『不滅』も使えないのでは?】


…それなら何で私が今、生きてここにいるんだよって話になるけど…さては、わざと言ってるな?


【はい。】


はっはっは…正直者め。今から会うのが楽しみだよ…ガチでフルボッコにしてやる。


【敗北宣言をするのは、まだ早いですよ。】


(無視しよ)……ここから、ゲームセンターの入口との距離は少女の歩幅も考慮すると…20歩もなさそう。


どうする…どうすれば……くっ。いっその事、勇者に、連れ去られた方が逃げれるチャンスがあったかも。


そうこうしている内に、自動ドア(地獄への門)が開き、外へ…熱っ、アチチチチチチチ!!!!!


【文字通り…丸焼きですね。】


焼ける痛みと共に不死力がガンガン削られていく。だが全力で感情を押し殺し、表情は決して変えない(涙は流れる毎に、蒸発している)。


私は景品…景品なんだ。


「あの着物の子…何、引きずってるんだろ?」


「ん…よく見ると、女の子が燃えてないか?試しに、声かけてみれば?」


はっ。よく言ってくれた!!!道端を歩いてたモブB!!!!…人間にしては良い判断だ。だから早く…


「何か上機嫌なんだもん…話しかけ辛いわ。」


「確かにな。よし…見なかった事にするか!」


余計な気遣いしやがってぇ!!!!本当に助けを欲してる奴は、声すら上げられない奴らが大半なんだぞ!?人間ならコミュニケーションしろよ、コミュニケーションを!!!!


【今日は一段と元気ですね。】


ルーレットの女神。それ…アスファルトの上で焼けるミミズに対して、【元気ですね。】って言ってるのと同じだからな。


【つまり、ノエルはミミズである…と。メモしておきましょう。】


例えだよ、このバカっ!!!


「……ふんふんふん♪」


鼻歌下手くそだなぁ…そろそろヤバいかも。


き、気づいて…早く、早く!!!!主さんとやらに見せる景品、燃えてる、燃えてるからぁ———!?!?


【距離はまだ離れてますが、入口近くで潜伏していた勇者がこちらを尾行し始めましたよ。】


「それ、今言う!?」


景品であろうとしていたのに、普通にびっくりして口に出てしまった。


【大事でしょう?】


そりゃあ…うん。大事だけどさ!?


私が声を出した事で、(やっと)少女が私が燃えてる事に気がついて、足を止めた。これはチャンスだ!!!


「ごめん!!」


「…あっ。」


少女が呆然としている間に、右足で少女を力一杯に蹴飛ばし(あの場から助けてくれた恩もあるから多少、加減はした)、左足を掴んでいた手を無理やり振り解いて、生存本能のままに全速力で逃げ出した。目指すは日陰、日陰を目指せ!!!!


……



明日の新聞は『怪奇!!!疾走するキャンドルファイヤーちゃん』になるだろうなと思いながら、日の当たらない路地裏で息をついた。


「はぁ…はぁ……勇者は…追って来てる?」


【残念ながら、途中で見失ったようです。逃げ足だけは『亜光速騎士』ザクト並みですね。】


うっさい…傷口抉るなよな。てか残念じゃないよね、私にとっては朗報だよねそれ…ふぅ。なら、当面の脅威は去った…かな。


「あの子には…申し訳ない事したなぁ。」


【ノエル程度の蹴りでは、ダメージすら入らないと思いますよ?何せ、彼女は…】



——見つけましたよ。



着物の少女が、無表情のまま…こちらへ歩いて来る。その声には怒りが孕んでいた。


【…この箱庭世界では輝夜かぐやと名乗っていますが、彼女の真の名は『怒竜』ルビー…王冠の宝石と泉様が切り離した『憤怒』が合わさった事で誕生し、『第二次竜征伐』において4種族相手に、猛威を振るった『六大竜』の一角です。】


ん、んん?はー待て待て。情報が全く追いついてないよ?『六大竜』…『三大竜』じゃなくて?


【長々と語りましたが、能力が制限されていようがなかろうが、億が一にもノエルに勝機がないと、理解してくれれば充分です。】


そ、そう…ふーん。その相手がもう…目の前にいるんだけど。


「「………」」


ぶっちゃけ…やりたくはなかったけど、ここが正念場…数多の世界を旅してきた成果を見せる時…!!!


私は輝夜ちゃんが口を開く前に、正座をした。


いくよ、日本流奥義…『土下座完全なる降伏宣言』!!!!


「……」


クソぅ…やはりこの程度では、竜に対しては効果が薄いか…ならばっ!!!


「トランスフォーム!!!」


土下座パーフェクト降伏宣言』から流れる動きで、全身を地面に投げ出した。


「…ぇ。」


これこそ、チベット流最終奥義…『五大投地約束された最高の贖罪』!!!!!


「…ぶべらっ!?」


右足で背中を強く踏まれた。踏まれているが…あれ?この歳の少女に踏まれるのは、とある業界ではご褒美じゃなかったっけ??


私は、(知らなかったとはいえ)先の蛮行の許しを得て生存する為に、輝夜ちゃんに誠心誠意、謝罪をしなければいけない。


……ならば、焚き付けるまでだ。


「輝夜ちゃんの全部を、私…受け入れるから!!!!だから、もっと強く踏んでぇ!!!!」


「…っ!?」


あれ…怯えてる?兄さんなら、私を殺す気で踏み潰しに来るのに…あ。私の発言をキモく受け取ってしまって遠慮しちゃったかな。アプローチを変えてみるか。


「私は悪だから…こういうのには慣れてる…気にしなくていいよ。怒りは溜め込んじゃいけないんだ。発散しないと、体にも悪いよ?」


「……」


おかしい…心なしかドン引いてないか?ヘイ、ルーレットの女神…どう思う?


【きっっ、しょ…あ。言葉が崩れてしまいました。謝罪だとしても流石にキモ…っ、また…暫く私に話しかけないで下さい。不快な気持ちが氾濫して気持ち悪…あ、コーヒーが】


………………………これは、離席したな。


「……っ。」


「あ、あれ…待ってよ?」


輝夜ちゃんが何かを感じたのか(私の所為?)突然、血相を変えて私を踏むのをやめると、路地裏から逃げるように走り去って行った。


「…これは許してくれた判定でいいのかな?」


五大投地約束された最高の贖罪』で、汚れてしまった体を軽くはたいていると、後ろから、ちょんちょんと右肩を指で突かれた。


驚いてちょっと呼吸が止まりそうになったが、冷静に振り返ると、見覚えのある高校の制服を着たピンク髪のスタイル抜群の少女がいて……私の顔を見ると、にっこり微笑んだ。


「可哀想に…追い剥ぎに遭ったのですか…でしたら、これをどうぞ。」


カバンから新しい制服を取り出した。


「自己紹介が遅れましたね…私、爛々らんらん いんと申します。」


「…ノエルです。」


「んっ…どうぞ。袖は少し長いですが…きっと、貴女の体に合うでしょう。」


どうして、予備の制服を持っているのだろう…そんな疑問が一瞬だけ脳裏をよぎったが…悪意はなさそうだったから特に気にせず、受け取る事にした。


「あ、ありがとうございます。」


「体も汚れていますし…近くにホテルがありますから…そこで、体を洗い流しましょう。」


「…えっ?でも…」


「代金はこちらで払いますので、心配しないで下さい。」


人間は果たして、ついさっき会った、見ず知らずの人間(吸血鬼だけど)に対して、無償でそこまでしてくれるのだろうか?


怪しい。絶対…何か企んでる。


「フフフ…とても似合ってますよ。ノエルさん。」


「ど…どうも。」


「では、行きましょうか。」


制服(不気味なくらいにサイズがピッタリだった。)に、着替えた私は、路地裏に放置されていた傘を手に取った。


「…早く2人を、味わいたいですね///」


「え?」


【……?】


「いいえ。何でもありません。」


まあもしヤバかったら、また逃げればいい。驕り上がった人類の敵である『原初の魔物』的には…うん。失格だけど。


「日射病対策ですか…いいですね。私も入れてくれませんか?」


「え…いや。身長差的にちょっと。」


「フフフ…冗談です♪では、せめて手を繋ぎましょう?」


「は、はぁ。」


爛々らんらんさんと手を繋いで、路地裏の外に出る。


ここに来てから色んな事が起こりすぎて、脳の処理が追いついてなかったからか、爛々さんと出会ってから、ずっと心の何処かで鳴り響く(輝夜ちゃんや、勇者ですら鳴らなかった)警鐘を不覚にも無視してしまった。



























































































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る