2日目

私は正々堂々と悪魔達がいる広場っぽい場所へと歩く。


【…やる気ですか?】


今更…ここで引き返すなんて事はしないよ。黙って見てな。


【なら…お手並み拝見といきましょうか。】



「何だ、あの裸の女は…」


「ケケケ…知らねえけど、犯し甲斐があって、よくね!!」


(オルンのお膳立てがなければ)本来、連発なんてとても出来ない『影渡り』を連続使用し、悪魔を撹乱。


「…消えた!?」


「お前の後ろにいるぞ!!」


「んえっ…いないじゃん!!!」


「あっ…今度はお前の後ろに…」


右手を銃の形にして、左手をチョキの形にして、右手の人差しの付け根にセットする。



これは母様の見よう見まねで、編み出した私だけの、9つある奥の手の1つ…だって、深淵にいた頃まではそう信じて疑わなかった。


人間に先を越されていたのは少し癪だったけど、この名前の方が通りはいいだろう。


「『指鉄砲』…っ!!!」


「うぉぉあぁぁあ——!?」


血が吹き出ながら放たれた人差し指が、悪魔の右胸に突き刺さり私は内心、勝利を確信した。


「おい…平気か?」


「…ってノリで叫んだけど、弱っわ…思ってたよりも痛くねえぞ!!」


「マジかよ…拍子抜けだな、やっちまえ!!!!」


ウイに習った魔力操作と私の血流操作…その融合により、前よりも格段に威力が上がり、悪魔にも、通じるようになった。


1秒と経たず、指は元通りに再生、後はひたすらこちらへ襲いかかる悪魔に向けて『指鉄砲』を乱射するだけでいい。


体内にさえ入れば……もうじき。


「ぺけっ!?」


私に1番近づいていた、さっき右胸に当たった悪魔が、内側から爆ぜた。


「……っ、うぉあ!?」


「なんだ…これ。」


吸血鬼の肉片を食べるなりして体内に侵入するとAB型の人間なら、吸血鬼になり……


——違った場合…私達がAB型以外の人間を食べた時と同じく、アナフィラキシーショックによって、問答無用で即死する。


精霊は魔力の塊だから、血は通ってなかったけど……悪魔には血が通っているようだね?


「ぶぉあぁ!?」


「うぇあ!?」


連鎖的に爆ぜていき、汚い血液を撒き散らしていく。


ウイ…ギルウィさん………スロゥ。


私…勝つよ。だから見てて。


「ほら、後は君だけだ。さっさと降りて来なよ…上から目線とか何様のつもりかな?」


「ルルルッ!!!」


この惨劇をただ、雲の上で逆さまに立って傍観していた悪魔は面倒そうに、ため息をついた。


「っ…」


『指鉄砲』の射程で、ギリギリ…いけるか?


【あ。避けた方がいいですよ。】


えっ……?


……


ぐちゃ…ぐちゃぐちゃ……


視界まっ暗い。痛みもない。私は何をして……


「…『反転』せよ。」


近くから、声が聞こえる…あの悪魔の声だ。


ぐちゃぐちゃ…ぐちゃぐちゃ


「『反転』せよ。『反転』せよ…ルルル!!!いい加減に、跡形もなく消えないで下さいな。」


私という存在が、権能が…溶けて消えていく……私が…わたしじゃ、なくな…


それは…嫌…嫌だよ。


「まさか、これはぁ…権能ではありませんね!!それに、この『祝神』の呪いに遠い…っ、一体、何なのですか!?」


っ!?触らない…で、それは…母様から貰った…大切な。大切…な。


今まで痛みもなかったのに、胸の奥の奥…大事なモノを握られたようなそんな不快な感触に、私は……私は。


「少年に救済なし。救済なし!!!予想通りとはいえ、『反転』出来ぬとは…最高に不愉快!!!!」


ズブズブと腕を突っ込まれて…私の宝物が跡形もなく、汚され……



——蛆虫如きが…ワシが授けた権能と【禁】に気安く、触れたな……万死に値する。



その直前に…誰かの声がした。冷酷で、残忍だけど…あったかくて……優しい。


そんな——様の声が、確かに聞こえた。


……



気がつけば、元の場所にいて…思わず、二度見した。


「ぼひゅ…あひゅ…」


さっきよりも荒れ果てた精霊国に、空の上にいた筈の悪魔が…今はアスファルトで焼け死にそうになってる、ミミズみたいに地面の上で焼けて、転がっているのだから。


「…ルーレットの女神。」


【黙秘権を行使されたので、私からは何も言えませんが…既に理解しているのでは?】


そりゃあ、分かるよ…母様に、助けられたって事くらい。


——万が一、【禁】や権能が、何者かに奪われそうになった場合のみ…肉体を介して、私達の中にある母様の残滓が憑依し、敵を殲滅する。


『不滅』である、私しか(多分)知らない…母様の残した、最終安全装置だ。


「…ごほっ。」


でも…驚いたよ。母様の元に帰ってたんだね。


『灼熱王』シャドウ。ネチネチと私を虐めて来るような嫌な奴だったけど…いざ、誰かに滅ぼされたんだって思うと…悲しいな。


ポタポタ…


さて、これからどうしようか。本当だったら、ウイのお陰で遂に形になった『心象侵蝕』で止めを刺したかったんだけど……


「そんな時間……ないよね。」


出血量が尋常じゃない…憑依した反動で、肉体が耐えられず、足先から順々に砂と化し、ボロボロと崩れていく。


死ぬのも、旅が終わるのはいつもの事…どうせ、私は『不滅』だ。次の世界に期待しよう。


「ぁ…忘れる所だった。」


私は崩れそうな右腕を、瀕死の悪魔へ向けて…最後の力を振り絞って『指鉄砲』を放つ。


「…ル、ルルル!?!?ァァァァ——!!!!」


臓器をぶち撒けて、爆散する汚い音と共に、私は笑って…砂となって散った。


……



【詰んでいたとはいえ…ほんの2日で、死んでしまうとは……残念でしたね?】


んーーーいや絶対、心の底から思ってねえな。


「教えてよ。あの後…どうなるのか。」


【そうですね…ノエルの大嫌いな『大賢者』により、殺された全ての精霊は復活……前にも言った通り、すぐに新天地へと旅立ちます。】


ふと、私の中で疑問が湧いた。


『大賢者』…(忌々しい白い精霊)であるスロゥは母様と接触しているから、新天地とやらには行ってない。なら『たった1人の犠牲者』って……


【どうしました?難しそうな表情をして。】


いや…いい。彼は彼の役割を…私との約束を、ちゃんと果たしたのだろう。『大戦において唯一の勝者とも言える人物』…か。


また会う機会があれば…騙し合いとかじゃなくて、もっと他の色んな話がしたいな。


ギルウィさんや、ウイとも…好感度ゼロからのスタートかぁ。白い精霊…いやスロゥとは、ぶっちゃけ、心の整理がつくまで、会いたくはないけど。


「っと、感傷は、これでお終いにしてっと…さぁて。次の世界はどこじゃらほいっ?」


【…多重人格者みたいにコロコロと、表情がよく変わりますね。】


「っ…こうでもしないと、毎回毎回、心が押し潰されて…旅なんて続けられないんだよ!?」


言わばこれは、前回の旅であった嫌な事を、次回の旅に持って行かせない儀式の様なものなんだ。やめる事なんて出来ないよ。


【ノエルの謎で、ゴミみたいな拘りを炸裂させた所で…ルーレットの針が止まりました。次に行く世界は……おや?】


平和な日本で、優雅な学園生活とかが出来る世界かな?はたまた別の異世界…それとも……


【『第一次竜征伐』ですか。まさかまた、大陸だった頃の世界とは…偏りましたね。『精霊の森』みたく致命的な詰み要素はないですが…】



『第一次竜征伐』…あれれー?どっかで聞いた記憶があるような……?



———精霊の森…完。

『第一次竜征伐』へ続く。



































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