44日目〜46日目

「とはいえ、私も1人で全ての生徒達を平等に管理し、個別に教育している身…午前中は、私の出す課題を達成する時間にして、午後になったら、ウイに結界術を学んで下さい。」


たった1人で…うわぁ。教員って大変だなぁ……


「はい!具体的には…?」


「太陽が真上になるまでに、走って精霊国の外縁を一周して、ここへ戻って来て下さい。」


……パードゥン?


「基礎体力と魔法は切っても切り離せない重要な要素です。万が一にも不正をすれば、その300倍の距離を昼夜問わず、走ってもらいます。それでは、始めて下さい。」


は、始めるって…え、嘘…嘘だよね?ねぇ、嘘だって言ってよ!?


「ギルウィさん…」


「返答は「はい」か「喜んで」です…それとも、罰を受けたいですか?」


ほほう。私は『原初の魔物』にして、『吸血鬼王』ノエル。母様ならともかく、こんな教員風情に従う事なんて、絶対にしないっ!!!


そう決意して、反論しようとした瞬間…下から誰かの絶叫が聞こえた。


「……えっ?」


「あぁ…デイジとアイリですね。」


まるで何かの風物詩みたいな反応をしてから、指を鳴らすと…命令に背き、罰を受けた者の末路が流れている映像が、私の目の前に流れた。


「2人とも前に私の出した宿題を忘れたので現在、罰として300倍の課題をやらせつつ、若い頃、憂さ晴らし目的で…こほんっ。捕獲した竜と戦わせています。確か、今日を含めると57日目になりま…」


バタンッ!!!


「フフ。やる気が出たようで何よりです。」


はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…っ!?


ギルウィさん、や、ヤベェ…ヤベェよ!?やり口が、一昔前の軍によくいる、スパルタ教官のそれだし!?!?


「あ…ノエル!」


「ちょっと、そんなに血相変えて、どうしたのよ?」


「傘、借りるよっ!!!」


私は葉っぱ傘を手に取り学校を出た後、精霊国の門を出て、外縁部分をがむしゃらになって走る。


吸血鬼なのに朝から運動してるとか…なんか、一周回って、面白く感じて来たぞ。


「ぜぇ…ぜぇ…へい…ルーレットのぉ…女神。精霊国の、外縁部分って、何キロ…あるの?」


【大体15000km…くらいですね。】


あの手の輩は、今までの旅で何人もいた…その人物達に関わり全員に共通していた点は、言われた事をやり抜かないと…死ぬよりも辛い目に遭うって事だ。


——ザッザッザッ


「……?」


遠くから、精霊とは違う気配を感じた気がした私は足を止めて、森を見つめた。


【いいんです?足を止めてても。】


「はっ…!?ヤバっ…!?」


今はそんな事よりも、私の命…いくら『不滅』でも、辛いものは辛いんだよぉぉぉ———!!!!!


……


「よく走り切りましたね。では、また明日…次も期待していますよ?」


「…へ、へへっ。」


「ウイ…後は任せます。」


「はい、ギルウィ先生!」


鬼畜精霊(ギルウィさん)はすぐに荷物を持って、教室から出て行った。


「で…何、挙動不審になってるの?」


「いない…いない。いないよね!?」


廊下を何度も念入りに鬼畜精霊(ギルウィさん)が確認してから、崩れ落ちるように、床に横たわった。


「…つ、つ、疲れたぁ〜〜〜〜」


「アンタが、ギルウィ先生の課題を初見で、こなせたなんて…少し、見直したわ。」


「まあ…経験値があったのでね。」


ありがとう、スパルタ教官達…!!今回だけは助かったよ…なんてね。いつか必ず…ぶっ飛ばす!!!!


「じゃあね、ウイ!私は一足先に…スロゥの家に戻ろ…」


「じゃあ、席に座りなさい。」


「え…」


私…これでも吸血鬼の真祖なのに、再生が間に合わず両足どころか、全身筋肉痛なんだぞ?吸血鬼が筋肉痛って、おかしくないか??


……そんな不満が伝わったのか、ウイは教卓を強く叩いた。


「…結界術、やるんでしょ!?」


「で、でもぉ…今日は疲れたしぃ…」


チラッチラッ


「言っとくけど、アンタ…ギルウィ先生に相当、気に入られてるみたいだったから、明日の課題は今日の比じゃないわよ?」


……ぐぅ。


「ねっ、寝るなぁぁ——!!!」


そんな感じで、ウイ先生の講義が終わった後、スロゥの家に帰り、何も言葉を発する気力もなく、ベットの上に倒れた。



後…4日。今日はもう…無理。



「昨日、魔力操作がまだ上手くいっていないとウイから聞きました。よって、今日は空き教室で、水で一杯になった大樽を背中に乗せ…日が真上に登るまで、腕立て伏せをして下さい。その間、絶対に落としてはいけませんよ。」


2、2580回…2581回…し、死ぬぅ…


【ふぁ〜…もう飽きたので、私は離席しますね。】


こ、この野郎…!!


……



「イメージして。自分の心を外界へと広げるの…」


私は目を閉じて、意識を集中させる。



『驚いた…アンタには、千年に1人しか持ち得ない、結界術の最奥…『心象侵蝕』の素質がある…私でも、この域には達してないのに。何処かで見たりとかしたの?』


「…見たよ。実は、私の母様も使えるんだ。凄いでしょ?」


『えっ!?凄っ…そんな人間がいるのね。』



昨日の事を思い出して、心の中で小さく笑う。


やっぱり、母様は凄い……や。


「っ…ダメ、集中!!!」


「あえっ…!?今、私…気絶してた!?!?」


「ああもう、後少しだったのに…」



残り…3日。まだ平気…



昨日の一件が悔しくって、自主練をしようと曇空だから、葉っぱ傘を使わずに学校前まで来ると、鬼畜精霊(ギルウィさん)が、校庭で汗ひとつもかかずに、木刀の素振りをしていた。


「…。今日は休校ですよ?」


「うっ…」


木の影に隠れてたのに、気づかれた。


「…ウイから話を聞きました。どうやら集中が途切れて、途中で失敗してしまったとか。それで、鍛錬しに来たのですね。」


「……はい。」


私は大人しく、鬼畜精霊(ギルウィさん)の元に行く。


「ギルウィさんこそ、何をしているのでしょうか?」


「ただの気分転換ですよ。こうしていると…何も考えずに、無鉄砲で…彼といつも一緒にいた若い頃の日々を思い出せて…」


くっ。駄目だ…つい、丁寧な言葉遣いに……


「…彼?」


誰の事だろう…ルーレットの女神は知ってる?


【ノーコメントと言いたい所ですが…追求されるのも億劫ですので、1つだけ教えておくと、彼の種族は人間です。様々な世界を旅しているノエルなら後は察せるでしょう?詳細は、いずれ会えたら教えます。】


今の私は、種族を人間と偽っている…あぁ。彼と私を、重ね合わせているのか。道理で、気に入られる筈だ。


鬼畜精霊(ギルウィさん)はハッとして、私から視線を逸らした。


「いっ…今の話は、聞かなかった事に…」


「ふふっ。」


そう考えると、中々ロマンチックじゃないか…短命な人間と長命な精霊の恋物語なんて。


「もう鬼畜精霊って、呼べないなぁ。」


「……」


ん?私…何か言った…あれ?私の体が宙に舞って……


「今日の課題を出します。日が沈むまで…怒り狂う私から全力で逃げて、生き延びて下さい。これは、集中力を磨く特訓です。」


空中にいる状態で、どう逃げろと………はっ!?


グチャ、バキッ、ボキィ!!!!


「ギャァァァァァァァァ——!?!?!?」


私の絶叫が、精霊国に木霊する。



残り…2日。旅の終わりが近い。そろそろ…やらないと。



……



大勝利?ノンノンノン…大敗北こそ、結末に相応しい。


わたぁしの後ろには僅かで、弱小な悪魔達。


バラバラバラバラ、歩いてる。


敗退パレードは何処でやりましょ?天界?煉獄…そ、れ、と、もぉ……


「ルルルッ!!!!…運悪く、精霊の森の結界を突破出来なかったのは、痛恨の極みですわぁ…さあさ、後退。後退!!!精霊族を堅苦しく、皆生かしですわぁ!!!!!!」



——公爵級の悪魔にして、『全てを反転させる悪魔』…ワプギス率いる悪魔の軍勢の魔の手が刻一刻と、王のシナリオ通り…精霊国へ迫って来ていた。


































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