第38話「東京やと!?文明の暴力やん」
高知駅、朝――。
改札をくぐったいろはは、大きなリュックを背負って小走りでホームへ向かっていた。
「うわ、もう乗り込む時間やん!源蔵、早う!」
「うろたえるな、いろは。ここからが“全国舞台”やき」
後ろから悠然と歩くのは、いつもの作務衣に身を包んだ土佐ノ源蔵。
けんど、その肩には――でっかい旅行用キャリー。
「……え、なにそのキャリーバッグ」
「着替えと、四国土産と、あと非常用の乾パンじゃ」
「どこ行く気やの!!!」
⸻
新幹線・車内。
いろはは窓側の席で、景色を見ては目を輝かせちょった。
「わっ、山が消えた!」
「いや、トンネルやろ」
「うわっ、ビルや!ビルのビル!……ビルが三段あるやん!!」
「三段目はたぶん、広告パネルじゃ」
源蔵は笑いながらも、隣の座席で新聞を開く。
いろはが窓の外に夢中になっている隣で、ふと眉をひそめた。
「ん……なんじゃこれは」
「なんか変なん載っちゅう?」
源蔵は記事を読み上げるように、ぽつりと呟く。
「“元県代表が相次いで行方不明 各地で謎の襲撃者の目撃情報”……」
「え、こわ……」
「『元・長野代表、“氷壁の策士”が敗北』……『元・島根代表、“刀霊の舞手”が意識不明』……じゃと?」
新聞には、かつての大会で名を馳せたレジェンドたちの名が並んでいた。
いろはは少し身を乗り出す。
「え、それ……まさか、アルマ暴走とか……?」
源蔵はふっと鼻で笑う。
「さすがに、そんなファンタジーな話ちゃうやろ。腐っても元代表やき、誰かの脚色やろう」
そう言いながらも、視線はページの下段に移る。
――《黒い男》が現れた。
――“県の誇り”を試すように、拳ひとつで倒していく。
「……強さを求め、元代表たちを巡る放浪者……か」
源蔵の目が一瞬だけ細くなる。
「まあ、物騒やな。けんど、どこかの創作やろ……今のとこはな」
新聞を折りたたみ、窓の外へ目をやる源蔵。
いろははグッと窓に手を押し当てた。
「……東京って、ほんまにあったがやね」
「……そりゃあるやろ。地図に乗っちゅうわ」
けんど、その言葉の奥に――
四国代表としての自覚が滲んじょった。
「せつな、やちよ、ミナト――」
「三人と拳交わして、やっとここまで来たがやもん。負けられんき」
「おまんの拳で、道開け」
源蔵は、真顔でそう言うた。
いろはは、拳を握る。
「やったるき……!うちの拳、“土佐のうるささ”ぶつけちゃる!」
⸻
東京駅・構内。
改札を抜けた瞬間、いろははピタッと止まった。
「……ひ、人、多すぎ!!」
右も左も人、人、人。
スーツにヒール、外国人観光客に学生カップル。
「何この文明の暴力!!目が忙しすぎるき!!」
「前見て歩け。肩ぶつけたらケンカになるき、ここは」
「そう言うあんたがカバン前後ろ逆やろ!!」
⸻
アルマ教会・全国大会特設会場(都内某所)
ビル群の一角、厳重なセキュリティを抜けると――
そこには巨大なステージとアリーナ。
そして、大型モニターに映し出されるタイトル。
『第14回 郷土代表選抜 全国大会・会場』
「ここが、うちらの……舞台」
いろはの目が、少しだけ鋭くなる。
源蔵は手を後ろで組みながら言う。
「今度の相手は、四国よりずっと強い。けんど、おまんにはその資格がある」
「源蔵……うん、もう迷わんき」
会場スピーカーから、静かなアナウンスが流れる。
『選手および関係者の皆様へ。
今大会中、一部の元代表関係者による接触トラブルが報告されております。
不審者には決して近づかず、速やかに運営へご連絡ください――』
(……元代表?)
いろはは、さっき源蔵が読んでいた新聞の見出しを思い出した。
⸻
ロビーに足を踏み入れた瞬間――空気が変わった。
視線の奥で、誰かが動いた気配。
いろはは、ゆっくりと顔を上げた。
そこには――
真っ赤な髪の男が、無言で自販機の前に立っていた。
「……火間塚、紅蓮ひまづか・ぐれん」
源蔵が小さく呟いた。
紅蓮は缶コーヒーを取り出し、一瞥だけいろはに送る。
その瞳は、まるで“火山のマグマ”のように揺れていた。
(なにこの……体温。いや、“熱”……?)
いろはの背筋に、一瞬、汗が滲んだ。
火間塚・紅蓮。
その男の存在は、まるで噴火前の火山――
爆ぜる寸前の、灼熱そのものやった。
「……え、ちょ、もう始まってる雰囲気やん……!」
緊張と、期待と――高鳴る拳。
いろはの“全国大会”が、いま動き始めた。
⸻
【To Be Continued】
__________________________________________
うわ~~~、ついに始まってもうたで!!
東京の駅、ほんまに“文明の暴力”やったわ。
人多すぎ、ビル高すぎ、広告でかすぎ!! なんで自販機の中にまでカメラあるが!?
けんど、うちはもうビビっちょられんき。
ここが、日本一を決める“舞台”。
ここで戦うってことは、土佐代表として、四国代表として――“みんな”の想い背負うってことや。
せつな、やちよ、ミナト……
おまんらのおかげで、うちはここまで来れたきね。
でもなぁ……源蔵が読んどった新聞、ちょっと気になる。
“元代表が次々倒れちゅう”って……そんな、まさかね?
まさかね……?
とにかく!いろは、いま最強のうるさい拳、準備万端!!
次も、ぜーったい読んでね!
まちゆうき!
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