第34話『潮声、拳に応えて』

――拳と潮の激突から数秒後。


観客席の熱狂は、突如として“静寂”へ変わった。


場内の空気が変わったのだ。まるで、海に沈んだような圧力。


 


「な、なんや……!? 空気が……ぬるい?」


「……あれ、フィールドが……!」


観客がざわめく。実況席の声も、マイク越しに揺れ始めた。


「ば、ばばばば場内に異変発生~~~ッ!! 空間が……揺れちゅう!?」


 


――ミナトの《アルマ空間》が、完全に展開された。


 


海だ。濃い潮の匂い、視界に映る沈船と、泡立つ水面。

そして、そこに立つ二人。


いろはは歯を食いしばりながら拳を構えた。


「……すごい、“海”や……けど、ここで沈むわけにいかんき!」


 


彼女の拳が波打つ大気を割った。


 


「《牙拳・壱式》――“土佐烈拳”ッ!!」


 


――が、


拳が“潮の膜”に触れた瞬間、その勢いは吸われて霧散した。


 


「えっ……!?」


衝撃が、拳から失われていく。


《壱式》だけじゃない。《弐式》も、《参式》も……。


「なんなん、ここ……“重たい”どころやない」


 


波のような“記憶”の中で、いろはの拳は、踏み込むたび沈んでいく。


「……ここで、負けたら終わりやき……!」


 


 



その時。


海の奥から、ミナトの声が響いた。


 


「……おれの海はなぁ、“誇り”でできちゅう」


 


彼の姿は、巨大な沈没船の前に立っていた。


「伊予水軍の末裔として育ったけん、ずっと背負うもんに縛られちょった」


 


「けんど、あんたは違う」


「拳で、全部ぶつけてきた。叫んできた」


 


「……おれはそれが、ちょっと羨ましかったんよ」


 


 


いろはは、拳を握った。


「ミナト……!」


 


――なら、届かせる。


ここで、“語る”がやき。


 


「うちの拳、“押すだけ”やない。想いも、受け止めてきたき!」


「なら――今度は、潮ごと受け止める!」


 


《牙拳・参式・改》――


「“鳴撃・返潮”ッ!!」


 


鞭を巻き戻すように、拳を後方から一気に巻き込む!


潮の流れを逆らわず、合わせて打つ“同調の一撃”!


 


その瞬間――


海が、“響いた”。


 


《アルマ空間》の海面にヒビが入った。


 


「な……!?」


ミナトが目を見開く。


 


「拳が……この海に届いたがや!」


 


場内の現実に、音が戻る。


「か、観客席から“声”が……!? 観客席が揺れてる!?」


「いろはぁぁ!拳、貫けぇぇ!!」


「叫べぇぇ!ミソメンタルォォ!!」


 


いろはの祖母が、手を合わせたまま目を閉じる。


源蔵が拳を握りしめ、呟いた。


「よう届いたな。あいつの拳は、ほんまに……響く拳じゃ」


 


 



空間のヒビが、次第に広がっていく。


 


「おまんの潮、強かった……けど、うちはまだ終わってないき!」


拳を構え直すいろは。


 


「なら……おれも、もっと深く沈めるけん」


ミナトの手が、再び鎖を手繰る。


 


潮の残響と拳の咆哮が交錯する。


――決着は、すぐそこにあった。


 


 



【To Be Continued】


________________________________________


やっばいねこれ。

なんやろ……拳、震え止まらんかった。


あの空間、ミナトの“記憶”でできちゅうって、わかった瞬間――

ただのバトルやない、“人生”そのものをぶつけ合いよった気がした。


けどな。


うち、怖うても、足がガクガクでも、

あの時は思うたがよ。「ここで叫ばな、いつ叫ぶが?」って。


《参式・鳴撃》も、《返潮》も、

全部、拳で“返事”するために生まれてきた気がした。


ミナトの海は深くて、きれいで、ちょっと寂しかった。

でもうちは――“波に吠える”拳で、そこをかき乱してやったき!


次は、ほんまに、最後の一撃。

勝つために、名前を叫ぶために――

うちは、拳を振るうき!


また来てよー。

まちゆうき!

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