第28話「夜が明ける前に」

――試練の間から戻って、数日。


高知支部の空気は、どこか張りつめちょった。


決勝戦まで、残された時間はあとわずか。


 


その夜。


屋上にひとり座るいろはは、拳に巻かれた銀の鞭を見つめちょった。


「うち、ここまで来たがやね」


拳を握るたびに蘇るのは、初めて拳で語ったあの日。


空崎の石畳。味噌汁の記憶。初勝利。初敗北。

そして、せつなとやちよと踏んだ“共鳴の道”。


――全部が、今の“拳”を作りよった。


 


「けど、あいつは……」


いろはの脳裏に、黒装束の少年――橘ミナトの姿が浮かぶ。


 



一方、その頃。


高知支部・地下の“強化訓練室”。


誰も立ち入らない無音の空間で、橘ミナトはひとり、鎖を握っていた。


「潮は、満ちる時まで隠れるもんじゃ」


その視線は氷のように静かで、燃えるように深かった。


連日の訓練で手の皮は剥け、足には重り。


けんど彼は、誰にも見せんかった。


「……“次”は、潮で全てを包む」


重々しい錨の鎖が、床を走る。


その一撃ごとに、訓練用の岩が真っ二つに裂けた。


 


「拳は“叫ぶ”もんじゃろ? うちは、“沈める”がや」


ミナトはそう言って、再び黙々と振り始めた。


――誰よりも、静かに。


――誰よりも、遠くへ届くために。


 



その屋上。


「……やっぱ寝ちょらんかったな」


いろはの背中に、ひとつの声が届いた。


「せつな……」


「おまん、すぐ空見上げる。落ち着かん夜やと、そうなるがやろ」


白いパーカーのフードを被ったせつなが、横に座る。


そのまま、何も言わずに一緒に空を見た。


 


「明日、ミナトとやる」


「うん」


「なんやろ……やちよとも、せつなとも試練やってきたけど、

 あいつだけ、ずっと一人やった気がする」


「……そやな。けど、それが“あいつの強さ”やろ」


せつなが、わずかに口元を緩める。


「おまんの拳は、騒がしい。けんどな、それが……」


「……あ?」


「“羨ましい”とも思った」


一瞬の静寂。いろはは照れ笑いする。


「なにそれ……言うの遅いし!」


「無音は、言葉が後から来るんよ」


 


風が、銀の鞭を揺らす。


せつなの髪がなびき、いろはの拳が月明かりに照らされた。


 


その頃、やちよは訓練棟の片隅で布扇の紐を締め直していた。


「決勝は“うちの舞”もぶちかますけん、観客席で踊りよられんで?」


ひとりごちながら、くるりと一振り。扇に光が宿る。


「ミナトくんも、いろはちゃんも……おんなじ拳じゃ語られん舞台やけん」


三人三様の想いが、すでに交差し始めちょった。


 



そして――朝。


「全員、集合じゃ!」


若宮の声が、支部に響いた。


訓練服に身を包んだいろはは、拳にそっと《土佐ノ牙》を巻き直す。


「ミナト……今度こそ、拳で全部返すき」


――2週間前、屈した拳。


今、その拳に宿るのは“恐れ”やない。


“誓い”やった。


 



【To Be Continued】

___________________________________________


いやぁ……

いろいろあった2週間、まじで濃すぎたき。


せつなもやちよも、もう“仲間”みたいな存在になっちょるけど、

その中で、ずーっと一人で特訓しよったミナトくんのこと、

うち、よう見ちょったがやき。


あの静けさは、たぶん――

覚悟の音やと思う。


けんど、拳は音や。拳は叫びや。

なら、うちは――全部ぶつけたる!


次は、決勝。


高知 vs 愛媛。

“郷土”を賭けた、再戦!


また来てよー。まちゆうき!!

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