第10話「静寂に吠える」


拳を巻き、踏み込んだ。


「――っ!」


速い。せつなの突きが、喉元を狙う。


紙一重でかわして横に転がると、その隙に後ろから蹴りが飛んできた。


無音。息すら聞こえん。


「ぐぅっ……!」


体が宙を舞う。床に転がる寸前、私は地面を叩いて受け身を取った。



実況の声が響く。


「開始十秒で3ヒット!これは……“静寂の連舞”か!?」


観客がざわめく。


“静寂の連舞”。せつなの得意技。

彼女が動くとき、そこに音は存在しない。


まるで空気ごと、彼女に支配されるような感覚。


――これが、“無音の怪物”。


 


「……っ、けんど!」


私は拳を巻き直した。


「音がないってことは、逆に言えば“予兆がない”ってことやろ!」


心の中で叫ぶ。

“目”で捉えるしかない。空気の揺らぎ、足の軌道、筋肉の動き――


喧嘩のとき、何度も直感で掴んできた。


「“経験の目”で見切るがやき!」


 


せつなが再び踏み込む。


一撃、二撃、三撃――速い。


けんど、私はかすり傷だけで受け流す。


「よっしゃ……ちょっとずつ、見えちゅう!」


跳び退いた私は、拳に力を込めた。


「今度は、うちの番やき!」


 


歯を食いしばり、渾身の拳を突き出す。


巻いた牙が“しなり”を加速し、拳の先に“圧”が乗る。


「――どりゃああああ!!」


一撃が、せつなのガードに食い込む。


観客がどよめいた。


 


「高知代表、初ヒット!いや、それだけじゃない……!」


実況が言う。


「この拳――“空気が鳴った”!!」


 



ガードの奥、せつなの目が微かに揺れる。


「……空気を、裂いた……?」


彼女の脳裏に、過去の記憶がよぎる。


“音のない者”として育てられた彼女にとって、音は敵だった。


けんど――


「今の一撃、うるさいけど……綺麗やった」


小さく、ほんの小さく、彼女が呟いた。


 


「はあ……はあ……やっぱ……拳は黙っちょれんがやき」


いろはが、拳を握りなおす。


 


そして――


せつなが、再び構えた。


先ほどまでのような無音ではない。


“足音”が、一歩だけ鳴った。


 


「ほう……今の拳、ちゃんと届いたんやね」


支部長・若宮が、客席の上段で小さく頷いた。


「土佐の拳、ごうどの音、ここに響いたぞ」


 



【To Be Continued】


_________________________________________




なあなあ、ちょっと聞いて?


拳で空気割ったっぽいんやけど!?

え、なに? うち、なんかやった? できた? すごない!?


いやでも、せつなやばすぎ!

動くたびに“無音”とか反則やん!?目しか頼れんがやけど!?


けんど、拳が響いた。たしかにあの子の目が動いた。


土佐のごうどって、ちゃんと“音”になって届くがやね。


次でこの勝負、決着やき!


うちの拳、最後まで聴いてってよ!


また来てよー。まちゆうき!


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