第二十七話 若草・27

 「どういうことなの?」

 三条左大臣の話をしていたのに、急に出てくる弘徽殿女御の名前にびっくりする。思わず外を見ると、だんだんと暗くなってきており、時が思ったよりも早く流れていることに気付く。

 「若君、帝や東宮の御妻達の上下関係はどのように決められるかというと、彼女たちの後見人の身分の高さなのです。」

 それは知っている。というか、光る君の待遇から始まり、後見人についての話題には、源氏の物語はなかなか事欠かない。

 「でも、それじゃあおかしいわよ。だって、三条左大臣殿は、今一番偉い人なんでしょう?だったら、彼の娘が東宮の妻達の中でも一番偉いということになっても変ではないじゃない。」

 浮かんできた疑問をそのまま言うと、少納言乳母は、どういえばいいのか迷っているそぶりを見せた後、こんなことを聞いてきた。

 「・・・ではもし、後見人の身分が同じだとしたら?」

 草宮は虚を突かれた。それは考えたことがなかった。必死で頭を使ってとりあえず返答する。

 「・・・年齢が高い方が立場が上、とか?」

 「惜しいですが、違います。」

 にべもなく否定され、草宮はちょっとへこんだ。

 「答えを申しますと、基本的には入内した順番です。特に、最初に入内した方は『副臥<そいぶし>』と呼ばれ、優越的な地位を持ちます。これをひっくり返すには、先ほど申し上げた後見人の地位の高さか、副臥が皇子を産まないのを前提として、皇子を産むことです。」

 なるほどなるほど。

 「じゃあ、その話で行くと、東宮にはもう女御がおられるということ?」

 「鋭いですね。その通りです。今は宣耀殿女御と呼ばれていらっしゃるのが、東宮の副臥です。そしてここからが問題なのですが、このお方の後見人こそが、三条左大臣殿なのです。」

 ちょっと待て、と思った。東宮の妻達については五人が物語の中で触れられていたが、宣耀殿に住んでいた人はいなかったはずだ。どういうことなのだろうか。それに・・・

 「自分の娘以外で、後見する相手っているの?」 

 ええ、と打てば響くように返事が返ってきた。

 「例えば、この宣耀殿女御は、左大臣殿の異母妹の長女です。彼女を産んでしばらくして妹君はお亡くなりになったので、左大臣殿が妹君の子供たちの面倒を見ておりましてね。養育している親族が後見人になることは別段、珍しいことでもないでしょう?」

 確かに、と納得しかけて、いや待て、となる。左大臣の一人娘は東宮の一つ上、入内させるのにためらわれるほどの年齢差ではない。なのになぜ、娘を差し置いて、姪を選んだのだろう?

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