第二十五話 若草・25
少納言乳母は顔が真っ白になっていた。それはそうだろう。ついこの間までよちよち歩きをしていた養い君が、自分を窮地に追い込んでいるのだ。
乳母子の君、が決め手だったな、と草宮は感慨にふける。草宮には乳母が二人いるが、子がこの邸に仕えているのは少納言乳母だけだ。
「人払いをしてあるから、私が物の怪に取りつかれているとか叫んでも無駄よ。」
先に向こうの攻め筋を封じておく。普通に考えれば、数え三歳がすらすらとしゃべっているなど、奇怪以外の何物でもない。物の怪が罠にはめようとしたという主張をしても通ってしまいそうだ。だからここを一歩間違えると、尼上に通報されてしまう。そして寿命が残り少ない尼上の前で、未来のことをつらつらしゃべる?寿命を察することによるショックを受けられて、それで病気がぶり返したら本末転倒だ。
「・・・物の怪でないというのなら、いったいなぜ、そのようなことがわかるのですか?」
きた。
「・・・この間、北山に加持祈祷に行ったのは覚えてる?」
「当たり前でございましょう。なぜそのようなことを聞くのですか?」
「その時にね・・・」
そこから息もつかせず、御仏と会ったこと、その後の流れなどを説明する。最初のうちはものすごく怪訝な顔をしていたが、今までの動きと整合性がとれていることが分かったのか、どんどん真面目腐った顔になっていく。そうして一連の出来事を話し終わった後、仏の特徴を説明した時、急に表情が変わった。
「それは、千手観音!・・・千手観音菩薩といえば、あの寺のご本尊ではありませんか!」
「そうだったの?」
反射的に聞き返すと、ご存じなかったのですか、と問い返される。もちろん答えは是である。
「・・・ご存じなかったのに、このような話ができるのですか。」
「だって、嘘ではないもの。少納言は信じてくれる?」
ダメ押しのようにそう言うと、少納言乳母はしばし考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「・・・若君の、ご健勝な様子と、筋道の立っている話を総合すれば、信じざるを得ないようですね。」
話が、通じた。
安堵のあまり、体中から力が抜けそうになったので、無理やり背筋に力を入れる。
「さっきも言ったように、このままだと戦が起きる可能性があるの。だけど、今の私は、情報がなさ過ぎて困ってるの。」
「もっとはっきりおっしゃってください。若君は、どのような情報を欲していらっしゃるのですか。」
「欲しいのは・・・少納言みたいな、一般的な貴族から見た、今の政治家達について、かな。」
それくらいなら、と思ったのか、彼女はわかりました、と素直に答えた。事実上、脅されているのは不満であろうが。
「じゃあ、今の政治状況について、知っていることを教えて。」
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