第十六話 若草・16

 寿命による死を変えることはできないのだ。祖母に物の怪がついているという記述は見当たらなかったから、心労が原因でなければ、祖母の死期を変えることはできない。そんな中、祖母だけに頼っていては、まさにあの若紫の帖のように、光る君に付け入るスキを与えてしまうのだ。そんな草宮の気持ちとは関係なく、祖母の怒りはまだまだ止まりそうになかった。

 お説教を聞くこと十五分、ようやく解放された父宮は這う這うの体で牛車に乗って帰っていった。せっかくの草宮の袴着の話も、尻切れトンボに終わってしまった。

 草宮も逃げるように自分の部屋へと戻った。ずっとお説教を聞いているのは胃に悪すぎる。

 先ほどの祖母の反応を見る限り、父宮の北の方と交流するのはかなり大変そうだった。とはいえ、祖母と大叔父だけとばかり暮らしていると、光る君につけ入れられてしまう。だからこそ、物語中では一切頼っていなかった親族に頼りに行けるようにしておきたいのだ。

 もっとも、不安要素はたくさんある。源氏の物語の中では、少納言乳母も光る君を父宮よりも信頼していた。このことを見る限り、実母の故姫君と継母北の方の仲の悪さは相当なものであったらしい。継母の北の方と親睦を深めたければ、この家の人たちと、父宮の本邸の人たちとを信頼関係へもっていかなくてはいけなそうだ。その上、あの継母自体、故姫君と草宮のことを憎たらしく思っているという描写があった。要するに、彼女の相当好感度を上げないといけないのだ。本当にやれやれだ。

 これで、やらなければいけないことが大体わかったな、と指折り数えながら考えてみる。

 一つ目、継母北の方に気に入られ、父宮周辺のコネを手に入れる

 二つ目、光る君の官位を上げつつ、絶対的な権力を握らせない

 三つ目、女性の動きづらさを改善する

 四つ目、私自身が偉くなる

 五つ目、何としてでも宇治八の宮の失脚阻止

 とりあえずはこんなところだろうか。おそらくもっとやらなければいけないことはあるのだろうが、今の情報量的にはこれが限界である。

 「若君、夕の膳の用意ができましたよー。今日は若君が好きな鮎ですから。尼上も鮎がお好きですから、きっと機嫌もよくなられますって。」

 お調子者な大輔の言葉に苦笑いしつつ、返事をしてから立ち上がる。私もこのくらい明るくいられるように心がけよう、むやみに落ち込むのは止めないとな、と感じた。廊を歩いていると、白い星や青い星が瞬いているのが見え、藤の花の香ばしい香りと相まって、心が澄み渡っていくような感じがした。

 


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