第十二話 若草・12

 唐櫃を開けようとするが、興奮しすぎて指が震えてしまう。落ち着くために何度か深呼吸をしてから、桐壺の帖を引っ張り出した。そこには、確かに、母后をなくした直後、兵部卿の宮が同母妹を説得して、入内させたと記されていた。父宮の家族構成と全く同じことになっており、入内する内親王が珍しくなってきていることも考慮すると、この兵部卿の宮が、父宮で間違いなさそうだった。

 他にもこの人は出てきたかもしれないと思い、別の帖をぺらぺらとめくっていく。光る君ばかりに注目していたため、脇役のことは正直よく覚えていなかったのだ。

 そんな中、若紫の帖の中盤あたりをめくっていたところ、急に再び、兵部卿の宮が出てきた。僧都と呼ばれている人が、光る君に自らの姉妹の家族について説明している場面だ。

 「故按察使大納言は亡くなってもう長いこと経ちますから、あなたはご存じないでしょう。彼の北の方が、それがしの姉妹でございます。この夫婦には娘が一人おりまして、入内させるつもりで大切に育てておりました。按察使大納言がなくなった後、尼北の方が姪を苦労して育てていたのですが、何があったのか、兵部卿の宮が恋人として通ってくるようになりました。しかし彼の北の方が高貴な方であったため、姪は気苦労が増えて体調を崩してしまいました。物思いで病気になることもあるものだと思い知らされましたよ。」

 ここで光る君が、その姪に子供がいなかったかと尋ねる。すると僧都は、姪が死ぬときに生まれた、まだ幼い女の子が一人いる、と答えるのだった。

 祖父と母がおらず、父宮と同居しない、尼である祖母に育てられている、兵部卿の宮の娘。これだけの共通点に加えて、光る君が十八歳の時に、この少女は十歳ほどだという。草宮と光る君の年齢差も八つだ。

 つまり、この少女ーすぐ後の末摘花の帖で確か紫の君と呼ばれていたーは、草宮自身である可能性が極めて高いということだ。

 そのことに気づいた草宮は総毛だった。どこか遠い世界の話をされていたと思っていたら、自分自身の話をされていたのだ。さらに言えばこの紫の君は、大体光る君の周りにいるため、父宮よりも印象の残っている人だった。とびとびに彼女の話が展開されることが多いのだが、なんだか胃の痛くなるような話だらけであったような気がする。より不安になった草宮は、とるものもとりあえず、紫の君に関する部分を探して読むことにした。この嫌な予感が杞憂に終わってほしいという、はかない望みを胸に抱くながら。

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る