関税以外の方法はなかったのか

 アメリカがトランプ政権下で関税を主要な手段としたのは、貿易赤字の削減、国内製造業の保護、国家安全保障の強化を急いで実現するためでした。

 二〇二五年四月七日現在、中国への関税は五十四パーセントに達し、カナダやメキシコにも一部で二十五パーセントが課せられています。

 しかし、関税以外にも選択肢は確かにありました。

 ならばなぜ、アメリカは関税を選んだのか。

 他の方法を「選べなかった」のか。

 それとも「選ばなかった」のか。


 まず、貿易協定の再交渉は代替策として可能です。トランプ政権は第一期にUSMCAを結び直し、関税なしで貿易ルールを改善しました。これを中国やEUにも広げれば、関税に頼らずに貿易バランスを調整できたかもしれません。例えば、EUが二〇二五年二月七日に提案した自動車関税引き下げ(二・五パーセント)と引き換えに、アメリカの天然ガスや軍事装備の購入を増やす取引が考えられます。この方法なら、相手国との関係を壊さずに済みます。


 次に、国内産業への直接支援も有効です。関税で輸入品の価格を上げて国内産業を守る代わりに、補助金や減税で製造業を強くする方法があります。半導体や製薬企業に研究開発費を支援したり、税優遇を与えたりすれば、海外依存を減らしつつ競争力を上げられます。実際に鉄鋼産業では関税が使われましたが、補助金でも同様の効果が期待できたでしょう。


 さらに、輸出促進策も選択肢の一つです。アメリカはサービス輸出で強いものの、モノの貿易赤字が問題です。輸出企業への支援や新市場開拓を進めれば、赤字を減らせたかもしれません。例えば、アジアやアフリカでのインフラ事業にアメリカ企業を参加させれば、輸出が増え、関税の必要性が下がります。シンガポールが代替輸入元として浮上したように、他の国との貿易拡大も可能でした。


 また、外交的圧力や制裁も関税の代わりになります。フェンタニル問題や不法移民対策でカナダやメキシコに圧力をかけたように、金融制裁や輸出規制を使えば、関税ほどの経済負担をかけずに目標を達成できたかもしれません。中国に対しては、デジタルサービス税(DST)の調査を強化し、技術流出や通貨操作にピンポイントで対抗する手段も考えられます。


 では、なぜこれらの代替策が選ばれなかったのか?

 アメリカが「選べなかった」というより、「選ばなかった」理由が大きいです。

 貿易協定は交渉に時間がかかり、相手国の合意が不可欠です。補助金は財政を圧迫し、輸出促進には市場開拓のコストがかかります。制裁は報復を招くリスクがあり、効果がすぐに出ない場合もあります。

 一方、関税はスイッチを入れるようにすぐ効果を発揮し、相手国にプレッシャーをかけながらアメリカの強さをアピールできます。トランプ氏は二〇二五年四月二日の「解放の日」演説で、関税を「経済的独立の宣言」と呼び、短期間で貿易赤字を減らし支持者に成果を見せつけました。

 コロナ後の金利上昇で、アメリカの莫大な政府債務に多額の利払い負担が生じ、新規国債の発行でその利払いを賄う状況が続いています。アメリカ合衆国の投資家・ヘッジファンドマネージャーのレイ・ダリオ氏は『財政赤字がこのまま続けば米国債はショッキングな状況になる』と警告し、多くのヘッジファンドマネージャーも国債市場の供給過多で米国債が下落することを懸念していました。

 トランプが関税を選んだのは、経済を過熱させて金利をさらに上げ、財政赤字を悪化させるリスクを避けたかったからです。彼は関税による増収で赤字を抑えつつ、すぐ結果を出せる道を優先したのです。


 ただし、関税には欠点もあります。

 消費者物価が上がり(二〇二五年三月のCPIは四・五パーセント上昇)、貿易戦争がエスカレートして経済全体が不安定になっています。例えば、関税で貿易が縮小すると米国債への信頼が揺らぎ、株価が下がる動きが広がっています。さらに、FRBが利上げを続ける(五・五パーセント程度)ことで、関税の負担が重くなり、景気が冷え込むリスクが高まっています。

 ベッセント財務長官は、財政赤字をGDPの七パーセントから三パーセントに下げる目標を掲げ、関税収入とイーロン・マスク氏の『政府効率化省(DOGE)』による支出削減でこれを実現しようとしています。

 そうしないと、米国債が下落し、FRBが買い支えを強いられ、インフレが再加速するしかないと見ているのです。もし貿易協定や補助金といった別の道を組み合わせていれば、こうしたダメージを減らしつつ目標に近づけたかもしれません。

 結論として、アメリカには関税以外の方法を選ぶ余地は十分ありました。でも、トランプが求めたのはスピードとインパクトです。関税は彼にとって、財政赤字を抑えつつ、複雑な交渉や長期計画より早く支持者に『俺がやった』と胸を張れる手段だったのです。ベッセント氏も、景気後退を起こさずに米国債の問題を解決するため、関税と効率化を支持したのでしょう。

 このまま関税に頼り続けると、株安や景気後退が現実になる恐れがあり、そうなれば別の道——例えば、FRBが利上げを緩めたり、貿易協定を見直したり——を考えざるを得なくなるでしょう。でも、それはトランプが自分で進んで選ぶか、次の政権が決めるかにかかっています。



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