第6話 召喚魔法の消し方

『それくらい、聞いてくれれば、すぐ教えたのに』

 女の声が頭のなかに響いた。

 俺はびあがった。あの、管理者の女の声だった。


「こちらから、話しかけなくても、会話ができるんだな」

俺は、動揺をおさえて聞き返した。

彼女との会話は、いつでもできると聞いていたのに、すっかり忘れていた。


『そうよ! なかなか、話しかけてくれないから、声をかけたのよ!』


「汎用魔法だと、この世界の人間すべてを抹殺しなければ、異世界人召喚は、なくならないんじゃないか?」


『そこまで、する必要はないわ。使い魔の召喚なんかは、許容範囲なの。人の召喚が、一番の問題なのよ。人間は、膨大な量の霊的情報を持っていて、その人間の属する世界原理と結びついている。――世界原理を構成する重大な要素となるの』


 俺の「抹殺」という言葉に、彼女は反応しなかった。それどころか、応答の言葉のなかに、そこまでする必要はない、というのがあった。つまり、必要があったら、抹殺してもよいと、考えているのだ。


「アマンダ女史を、消す方法を考えていたんだけど。ここには、俺の親もいる。怪しまれずに消す手段はないのか?」

『――なんだ、そんなこと? なかなか、行動に移さないから、いまになって、やりたくなくなったのかと思ったわ。――よかった』


 女が眼をつむり、呪文のようなものを唱えるイメージが俺の頭に伝わった。

 その途端、俺の身体がカッと熱くなった。

 全身から、汗がドッと吹き出る。


「何をした?」

 俺は、顔や首筋から流れ落ちる汗を、手でぬぐいながら尋ねた。

『あなたのなかに、あらかじめ組み込んでいた能力を解放したの。今日、声をかけたのは、それが、本当の目的だったのよ』


 ――能力? 何の能力だ?


『魔法を消す能力よ!』

「――魔法を消すだって?」


『そうよ。この世界の人間が体内に持っている魔法の仕組みをこわす能力よ!』

「召喚魔法の力のみ、消えるのか?」


『いいえ。すべての魔法が使えなくなる。召喚魔法のみ選び出して消すこともできないわけじゃないわ。――でも、人それぞれの魔力の解析が必要になる。難しいし、時間がかかる。効率が悪い。いまのこの世界の状態で、そんなに時間をかけてはいられないわ』


「――この世界で魔法が使えなくなると、その人間はどうなる?」

『どうもならないわ。魔法を仕事で使ってた人は、職を失うでしょう。でも、世の中には、魔法を使わないですむ仕事なんて、いくらだってある。死ぬわけじゃなし。――あなたが気にすることではないわ』


 管理者には、この世界で魔法が使えないということが、どういうことかわかっていない! 魔法を使えない人間は、軽蔑され、低評価され、差別され、終生、低賃金で働き続けなければならない。働き続けて、最後には身体をこわし、死んでゆく。


 異動があったせいなのか、元から、そんなことを気にしない性質たちなのか、わからないが、世界原理崩壊をふせぐためには少々の犠牲などかまわないということだろう。


「わかった。この能力、使わせてもらう……」


 世界原理崩壊させるわけにはいかない。

 原理崩壊すると、魔物も人間も、すべてが『意味』を失い、狂ってしまうそうだ。最終的には、麻痺状態におちいり、あらゆるものが停止してしまう。

 世界が『意味』を失い、狂気と無が、すべてを覆ってしまう。そんな世界に生きていたくはない。


 俺は前世の世界では死んでしまっている。遺骨が墓に納められている頃だろう。

 戻ることはできないのだ。

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