第2話 管理者の頼みごと

「私が引き継いだ時、頻繁に戦争が起こるが、気にすることはない、人口が減って、その分、資源が生き残った人間に行き渡るから、といわれたの。――まったく、なんて奴! その、奴っていうのは、この世界の前任者のことなんだけどね。まさか、その戦争で、異世界の召喚者が大量に使役されているとは、思ってもいなかった!」 


「異世界人は、その世界とはことなる世界原理を背負っている存在なの! ひとりふたりならともかく、数百人以上も、様々な異世界から召喚して奴隷にして使役してた。異世界人の持つ世界原理とこの世界の世界原理が干渉し合って、原理崩壊寸前! ――あの野郎、自分の失策を、わたしに押しつけやがった!」 


「今、召喚された異世界人を、急いで元の世界に戻してるの。でも、これ以上召喚されたら、それも無駄になる。あなたには、この世界の召喚魔法を知る人間、文書をすべて消し去ってほしいの」


 興奮している様子をみても、俺には、何の感動も湧かなかった。

 俺が異世界に転生しようが、しまいが、世界はフリーズするときはフリーズするし、フリーズしないときにはフリーズしないだろう……。

 管理者の女性の言い分では、まるで、俺が動けば、世界が救われるみたいな言い方だった。


「どっちでもいい。そっちで決めてくれ」

 管理者の女性は、顔をしかめた。

「おかしいわね。エネルギーが減ってる?」

 女性は、目の前に半透明のボードを出して、それを指で操作し、何かを見ている。

「ローキー、ここへ連れてくるとき、雑な扱いをしたわね。魂が本来もっているはずの霊体エネルギーが、半分に減ってる!」


「そりゃあ、せかされたからだ。急げというから、死んで魂が身体から出た途端に、ひっつかんで、ここに連れてきたんだ。本来なら、魂は死んだ身体を出て、浮かびあがり、ゆっくり漂って、こちらに来る。その間に、霊体エネルギーを魂は溜め込み、次の生で、生れ落ちるための原動力とする。今回は緊急事態だ。エネルギーが溜まる前に連れてきた。これでも、急げという要望に応えたんだぞ」


「それで、ぼんやりしているのね。――まいったな、正常な判断ができるかな」

「大丈夫だろう。動きが鈍いだけで、知性、判断力は残っている。かえって、感情に左右されない判断ができるだろう。転生するとき、生命力を常人の十倍ぐらいにしてやれば、転生後は膨大な霊体エネルギーを持つことになる。いくらでも、補填は効く――」


 女性は、不満げだったが、納得はしたみたいだった。

「わかったわ。手間がかかるけど、しかたない……」

 女性は、俺の方を向いた。

「転生時には、生命力を十倍……ううん、二十倍にするわ。使命を果たしやすいように、様々な特典もつけるわ。……お願い!」


 俺は、ぼんやりした頭で、さっき尋ねようと考えていたことを、思い出した。

「断ったら、どうなる?」

「どうもならないわ。元の世界の輪廻の流れに戻ってもらうだけ。――でも、次の転生までには時間がかかるし、また、同じような人生を繰り返すだけよ!」


 俺は、死ぬ前の人生のことを、かすかに思い出した。もう遠い昔のことのように思えた。とりわけ強い不満があったわけではないが、つまらない生活を送っていたような気はする。


 うまく誘導されたような気もしたが、俺は、返事をした。

「わかった。――転生する。使命のことも理解した」

 女性は、ぱっと笑顔になった。喜色満面とは、こういう顔をいうのに違いない。


「やった! じゃあ、来て!」

 女性は、俺の手をひっぱった。


 俺は、そのまま、白い霧か雲のようなものが立ちこめる空間にひっぱりこまれた。最初に俺を迎えた管理者の男――確かローキーとよばれていた――が、手を振りながら叫ぶ声が、かすかに聞こえた。

「良い人生を!」

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