コラとバグ ~動物達の憩いの場 カフェ『弧狼亭』にようこそ!~
玉響和(たまゆら かず)改名しました
第1話 ハシビロコウのハシさん
私の名前はバグ。
大きな赤い瞳に、ふさふさの耳と尻尾。
いわゆるウサギだ。
今日は、ここ『孤狼亭』に来ている。
内装はオシャレで、天井から四角形のライトが垂れていて、カウンター席もある。
いつものようにカウンター席に向かう。
皮の鞄をしっかりと手でおさえて、勢いをつけ、カウンターの椅子に飛び移る。
「バグさん。今日もカウンターなんだね」
渋い声でそう言うのは、孤狼亭の店主のコラさん。
立派に立った耳に、チラリと見える白い牙。
コラさんは、いわゆる狼だ。
「コラさん、今日の朝飯はウサギ?」
「それなんて言う種類の冗談?」
「ホワイトジョークだよ、うさぎだけにね」
「多分上手いんだろうけど、全然ホワイトで止まれてないし、余裕でブラックジョークだよ」
「コーヒーください」
「あいよ」
コラさんは、先ほどから拭いてた皿を棚に戻し、コーヒー豆を挽く準備をする。
「本当の所何を食べたの?」
「え? 枝豆かな」
「朝に?」
「変かな?」
「変ではないけど、あまり聞かないなと思って」
コラさんは、コーヒーをゆっくりと挽き始める。
コーヒー豆のいい香りが鼻に入り、気分がいい。
「コラさんはウサギ食べたことある?」
「そんなセンシティブな話題、挽き始める前に言ってよ」と、コラさんは一度挽くのを止める。
「いや、ラフに答えて」
「いやいやラフに答えられないから。ヘビィーすぎるって」
「え〜、じゃあネズミは?」
「ネズミは—、いや答えれるか!」
「ちっ! 齧歯類食ってたらウサギも食ってる可能性見出せたのに!」
私はカウンターの机を思い切り叩く。
「なに今日どうしたの??」
「人工肉で我慢できなくて、マジで食って逮捕された奴見たからさぁ〜、コラさんも一度は食べたことあるのかなーって」
「はぁ。そんなニュース見て感化されないでよ」と言って、カウンターの机にコーヒーが出される。
いつの間に入れたんだ。私は、コーヒーに口をつける。
「うん。やっぱり、コラさんのコーヒーは美味いね」
「そりゃ、どうも」
店の扉のベルが鳴る。
大きな口にスーツを着たその生き物は、ハシビロコウのハシさん。
ゆっくりとした足取りで、カウンター席の椅子に座る。
「何にしましょう」
「……」
「あの……」
ハシさんは、時が止まったみたいに微動だにしない。
「ああ言うのを指示待ち人間っていうの?」
「多分違う」
五分が経った。
私は、コーヒーを飲み終わり、しばらくハシさんの様子を眺める。
マジで全然動かない。
さらに三分経って、突然、ハシさんの翼が動き、ビシッと私の方を指す。
「え?」と休憩していたコラさんが間の抜けた声を出す。
もう一度、翼をビシッ!
「え〜、指示待ち人間ってそんなにいやだった?」
「君はモラハラという言葉を知っているか?」とコラさんがいう。
ハシさんが、席か降りて私の方へ来る。
「え、え、何?」
目の前にあるコーヒーカップを翼で指す。
「あ〜、コーヒーのご注文ですか?」
そう聞かれてハシさんは、ゆっくりとうなづく。
「少々お待ちください」
ハシさんは、自分の席へと戻っていく。
コーヒーの手持ちを、器用に翼の先で引っ掛ける。
ハシさんは、大きな口を開けて、カップに入ったコーヒーを喉に注ぎこむ。ゴクッと重たい音が店に響く。
「あれならウサギ一匹余裕だね」
「誰目線で言ってるの?」
「ギャアアアアア!!!」とハシは翼を何度も羽ばたかせ、叫ぶ。
「うぇ! だ、大丈夫ですか!?」
瞬間、ハシさんは、全身の動きを一瞬で止める。
「え?」
「あれが俗に言う賢者タイム?」
「どう見ても違うだろ」
ハシさんは、席から降りて、店の扉を出ていく。
「え、えぇ……」
「きっとおいしかったんだよ」
「熱すぎてあんな反応したんだろ、絶対」
「いや、あれは美味しい時にやるって言ってた気がする」
「喋ったことあるのか? 相手ハシビロコウだぞ」
私は、ハシさんの席に向かって、落ちた羽を拾う。
「綺麗だね」と言って、コラさんに見せる。
「話したことないんだな」
コラさんは大きくため息を吐く。
「はぁ……どうしてこう、うちの店には変なのばっかり……」
「お金払ってくれてるんだからいいじゃない」
「金の問題じゃ……」
「どうしたの?」
「あの鳥頭、金払った?」
「いや」
コラさんは、手に持ったカップを叩き割り、牙をむき出しにして、四つん這いになり、口からよだれを垂らす。
完全に狩りの態勢だ。
「ちょっと言って来る」と言って、勢いよく店を飛び出す。
「はぁ……コラさん、ちゃんと人工肉食ってるのかなぁ……本能丸出しだよ」
私は、席から降りて、店の玄関に向かう。
「おっといけね。お金。お金」とカウンターにフラミンゴの絵が書かれた札を置く。
店の扉を開け。
「うん。また来ようっと」
『弧狼亭』そこはちょっと変わった動物たちが集まる憩いの場。
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