息子を思うと死んでも死に切れん!

雨蛙/あまかわず

旅の行方

第1話 最強の騎士!アルの帰還!

「アルが遠征から帰ってきたぞ!」


一人の男の声が街中にこだまする。


その声を聞いた街のみんなが街の正門に続々と集まり、馬に乗った俺をいつものように出迎える。


「無事だったか!今回の遠征はどうだった?」


「大したことはない。魔族を数人倒してきただけだ」


「だけって…。普通ベテランの兵士でも一人倒せるかどうかだ。それを一人で何人も相手にするなんて、さすがは最強の騎士様だ」


「そんな大げさだ。それより早くいかないといけないところがあるから通してくれるか?」


「それはすまない。国王様に報告しないといけないもんな」


「ああ、それに早く家族に会いに行かなければ」


「それもそうだな。足止めして悪かった。早くいってくれ」


俺は周りを取り囲む群衆の間を潜り抜け、足早に王のいる城に向かった。


「帰ったか、アルよ。ご苦労だったな」


「無事に任務を完了してきました。予想通り魔王の軍がこちらに進軍し、いたるところに手を広げようとしています」


「そうか。やはりこちらから先に仕掛けるべきか…」


王はうなりながら眉をひそめる。


近年、魔王が復活してからというもの、魔族の動きが活発になっている。


会議で何度もこちら側が攻め込む話が上がっていたが、国王が戦力差による多大な犠牲を恐れ、決めあぐねていた。


「今回も見事だった。申し訳ないが次の任務もすぐに依頼するだろう。短い時間と思うがそれまでしっかり体を休めてくれ」


「わかりました」


無事報告を終え、城を後にした。


次から次へと依頼が来る。


仕事があるのはありがたいが、その分人々が困っているという事実。


なんというジレンマだ。


いや、考えるのはよそう。


やっと家に帰れるんだ。


一か月ぶりに家族に会えるぞ。


どんな顔をするだろうか。


ワクワクするなぁ。


疲れているはずなのに体が軽い。


そんなことを考えているうちにあっという間に我が家についてしまった。


我が家のドアをがしりとつかみ、思いっきり引く。


「帰ってきたぞ!」


玄関を開けると目を丸くした妻、ネヴィと目が合う。


その顔はみるみるうちに柔らかくなっていった。


「あなた、やっと帰ってきたのね!死んじゃったんじゃないかって心配したんだから!」


今度はネヴィの顔はふくれっ面になってしまった。


相変わらず愛くるしいやつだ。


「心配させて悪かったよ…でも、これでも早く仕事を終わらせたんだぞ。魔族一人につき五秒、ズバッと一撃だ!」


俺はネヴィの前で剣を大きく振る真似をして見せた。


「ふふっ、そんなことわかってるわ。ちょっといじわるしたかっただけ。あなたがそんな簡単に死ぬなんてないものね。お仕事お疲れ様」


そういって俺にやさしく抱き着いてきた。


笑ったかと思えば怒り、怒ったかと思えば笑う。


女心はこの年になってもわからないものだ。


だが、それがいい。


男くさい人生を鮮やかにしてくれる。


「そういえば、モールドはどこに行ったんだ?」


「ちょうど買い物に行ってもらってるところよ。もうそろそろ帰ってくるはずだけど…」


「アルさん大変だ!」


突然玄関が乱暴に開けられ、一人の男が入ってきた。


ひどく汗をかいていてただ事ではない様子だ。


「どうした、なにがあった?」


「魔族が暴れて…西の商店街のほうだ…」


パリンッ!と甲高い音が響いた。


見ると、客人に出す用のカップが割れ、水でびちゃびちゃになっていた。


そこには青ざめたネヴィがいた。


「西の商店街はモールドにお使いに行かせた場所よ…もしかして帰りが遅いのって…」


一気に不穏な空気で満たされた。


この町には手練れの衛兵がいるとはいえ、魔族相手じゃただじゃすまないだろう。


ネヴィの震える肩を力強くつかむ。


「まかせろ。俺がいるだろ。魔族の好きにはさせない。必ず連れて戻ってくる」


ネヴィの顔色は少し和らぎ、静かにうなずいた。


ネヴィが落ち着いたことを確認すると、床を大きく踏み鳴らし町の中に飛び込んだ。

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