12話 姉は妹の言うことを聞くもの

「ん……。朝ですのね……」


 窓から射し込む心地良い朝日の光。それがわたくしにとっての目覚ましですわ。いつものように伸びをして体を解す。


 そしてベッドから出ようとすると、何故だか身体が動かないのです。まるで何かにまとわりつかれているかのように。


「え、なんで身体が動かないんですの? というか……抱きしめられてます……?」


 そっと掛け布団をめくってみる。そこにはあら不思議。愛しの妹、サニアが私を抱いて眠っているではありませんか。


 な~んだ。サニアだったですのね。それなら気にしなくても……。


「サニア!? なんでわたくしの布団の中にいるんですの!?」


「ん……。あ、お姉様おはようございます」


「いやなんで私の布団の中にいるんですの。わたくし、部屋の鍵はしっかりと掛けていたはずなのですけど」


「鍵ですか? それなら日付が変わった瞬間に魔法で開けました」


 ……。


 わたくしのプライベートは?


「何故なら今日はお姉様を独占してもいい日……! 日付が変わった瞬間からそれは始まっているのです……!」


 あまりにもガチすぎません? 本当に二十四時間、一分一秒たりとも無駄にする気ないじゃありませんの。


「それにしても最高の目覚めなのです……。朝起きたらお姉様が目の前にいてお姉様の香りに包まれてお姉様の身体に」


「ストップストップ。そこまでですわ」


 朝っぱらからとんでもなく早口ですわね……。というかいつまでわたくしに抱きついているんですの。動けないのですけれど。


「ところでサニア」


「はい? 何でしょうか」


「腕はいつ離してくれますの?」


「今日はずっとこのままなのです」


 そう、今日はずっとこのままなんですのね~。まあそういう日が一日くらいあってもいいですわよね~。


「いや普通に朝食とか着替えとかあるのですけど。さすがに一旦離してくださる?」


「むぅ……。それもそうなのです。仕方ないですが一旦離しましょう……」


 非常に残念そうな表情をしながら腕を離すサニア。なんでこっちがちょっと悪いことをしたような気分になっているのでしょう……。


「では、私も部屋に戻って着替えてくるのです。その後はまた一緒に過ごしましょうね? お姉様?」


 そう言って部屋を出ていくサニア。今日一日この調子で過ごすことになりますの? 


 しかし昨日なんでも言うことを聞いてあげる、と言ってしまったのも事実。今日一日くらいは、甘えたがりな妹の全てを受け止めて差し上げましょう。


 そうして、着替えと朝食を済ませたのです。朝食の時には、ナチュラルに私の隣に座りましたわね。その執念は一体……?


 そして朝食後、自室に戻るわたくしについてきたサニア。


 ……何故? ここ! わたくしの部屋! サニアの部屋ではないのですけど!


「? お姉様、部屋の前で急に止まってどうしたのですか?」


「いや、ここ、わたくしの部屋ですわよね? なんでサニアがここまでついてきてるんですの?」


「今日一日はお姉様の部屋で過ごすって決めていたからなのです。お姉様の過ごしている空間に私が……! なんか興奮してきたのです」


 表情! とても他人には見せられないような表情をしてしまっていますわ! いつもの割とお淑やかなサニアは一体どこに消えてしまったんですの?


 まあ今日はサニアの日ですものね! このくらいのわがままは聞いてあげませんと。


 と、いうことで私の部屋には珍しく人が二人。サニアが一人増えるだけで、部屋の景色も少し違って見えますわね。


「夜に忍び込んだ時も感じていましたが、ここはお姉様天国なのです……ここで死ねるのなら後悔はないのです……」


「死ぬのなら、せめてわたくしよりも後に死んでいただけます? 姉より先に妹に死なれては困りますわ」


「お姉様の死ぬ時が、私の死ぬ時なのです。死ぬ時までずっと一緒なのです、お姉様」


 なんか重くありません? すごく空気が湿ってきたような気がするのですけど。


「さて、お姉様」


「なんでしょう?」


「まずはそこに立って、腕を広げて欲しいのです」


「? これでいいのかしら?」


 言われた通り、腕を広げてみる。すると、そこにサニアが飛び込んできた。そして腕を背中に回された。


 なるほど。ハグをご所望というわけですわね。甘えたさんの要求には応えてあげましょう。私もサニアの背中に腕を回す。


「察しのいいお姉様……好き……」


 しかしまあ、サニアはわたくしと違って身体が柔らかいですわね。わたくしの身体なんて、硬くて抱き心地悪そうですわ。


 そう思ってサニアの表情を見ると、完全に安心しきったような、わたくしに全てを委ねるような穏やかな表情をしていたのです。


 ……まあサニアがいいのならいいでしょう。


 それから何分、抱き合っていたのでしょう。サニアが飽きるまで続けておこうと思っていたら、とんでもない時間が過ぎていたような気がしますわ。


「はぁ。堪能したのです……。お姉様成分を摂取しすぎて気絶するかと思ったのです」


わたくし、そんなに劇物のようなもの出していますの?」


「いえ摂取するだけで幸せになる成分なのです」


 どっちにしろアブナイ感じがするのですけれど。


「さて、お姉様。次はベッドに座ってください。枕の辺りでお願いするのです」


「なるほど、このあたりでよろしい?」


「完璧なのです。では……」


 今度はわたくしの膝に頭を乗っけてベッドに横になりだした。なるほど。膝枕ですのね。


「ああ……お姉様の顔が真上に……。最高の夢が見られそうなのです」


「こうして膝枕をするのなんて何年ぶりかしら。随分と久しぶりな気がしますわね」


「うん……おねえさま……」


 あら、もう眠ってしまったのかしら。すぅすぅと寝息を立てているサニア。


 きっと疲れていたのでしょう。普段は夜更かしなんてしないサニアが、夜中にわたくしの部屋に来ていたそうですし。普段勉強や魔法の練習も頑張っていますしね。


 穏やかなサニアの寝顔が可愛くて、思わず頭を撫でてしまう。


「今日くらいは、ゆっくり休みなさいな」


 サニアが良い夢を見られるように、頭を撫で続けた。

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