第3話 ボス戦 黒オーク×3

 こうして、俺はダンジョンを紹介するガイドのように振る舞って配信を続けた。


 フィクションで登場するダンジョンとは違い、モンスターが連続して出現するわけじゃない。


 そこは雑談配信で鍛えたトークスキルで場を繋いで、モンスターが出現すると蹴散らしていく。


「もうすぐ目的地に到着するぜ」


 俺は奥にある部屋を指した。 鉄のような扉が待っている。


『ボス部屋だ』


『ここのボスってなに?』


『ここはまだ浅層。10層くらいだから・・・・・・オークか?』


 おっ! 前から気づいてはいたけど、コメントにダンジョンに詳しい人がチラホラといるなぁ。


 やはり、ダンジョン配信は人気なんだろう。 よく見たら、同時接続者の数がすごい事になってる。 どれどれ・・・・・・え!?


「同接1万人。 チャンネル登録者数の3倍以上に伸びてる!」


『時間帯の視聴者数1位になってるぞ』


『ダンジョン配信界隈にも宣伝してきた』


『ちょwww センバツ隊の本物か、偽者かで議論になっるwww』


『草』


 まじかぁ。これが万バズ(?)ってやつなのか?


「よし、この勢いでボスを討伐するぞ!」


 俺は勢いよくボス部屋を開けた。 もう少し、警戒をしておくべきだったのかもしれない。


 運が向いてきた。 俺がそう感じた場合、大抵は不運の前兆だったりするのだ。


 部屋の中、ボスであるはずのオークは3匹いた。 


 普通はボスが1匹しか出現しない。だがダンジョンにはイレギュラーが付き物だ。


 従来、1匹だけのボスが複数出現する可能性は(レアケースではあるが)ないわけではない。 


 しかも、オークは黒く染まっている。 


 『黒化』 


 ダンジョンからモンスターに供給される魔力・・・・・・その魔力が過剰供給されたモンスターは全身が黒く染まる場合がある


 そういう場合のモンスターは───異常な強さを有している。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・


 ボスである『黒オーク』×3匹  


 黒オークたちは武器を持っている。 バトルアックス・・・・・・戦斧だ。


 どこからモンスターが武器を調達しているのか? 


 一説には、探索者たちが落とした武器。金属をダンジョンが取り込んで、モンスターに配給しているなんて考えもある。



「・・・・・・ボスが3匹。しかも、『黒化』した武器持ちかぁ」


 コメントは阿鼻叫喚だ。 声をそろえて


『逃げろ!』


『逃げろ!』


『逃げろ!』


 みんなが大合唱をしているようだ。 それが奇妙なほどに心地よい。


 こうなってみると不思議だ。 まるでダンジョンが俺の復帰を祝福してくれたかのように────


「すでに戦いの準備はできあがっているらしい。もう逃げられないな。……まぁ、最初から逃がす気はないけどな」


 俺は冷静に猛っていた。 どこまでも冷静に猛り狂っていた。


 俺の感情に呼応するかのように、オークたちは武器を構える。


 いい構えだ。 重量級のモンスターに相応しい構え。


 どっしりと、根が絡んでいる大岩のようだ。


 それでいて動きが軽い。 ・・・・・・軽い?


 あぁ、そうか。オークはすでに攻撃を開始しているのか、俺に向かって。


 半歩だけ後ろに下がった。 わずか、俺の鼻先に何かが触れた。


 オークのバトルアックス。 それが僅かに触れたのだ。


 空振りした戦斧は地面を割った。 地形すら変えかねない一撃。


 俺の立っている地面も砕けた。足場は、ぐらぐらに・・・・・・だが、俺のバランスは崩れない。


 そのまま、大きく踏み込んで蹴りを放った。


 前蹴り。シンプルに真っ直ぐ蹴った。


 黒オークは後退する。 一歩、二歩と下がって膝を地面についた。


 苦しそうな顔。 もしも、格闘技の試合ならば、ダウンが判定されるほどのダメージだろう。


 しかし、これは実戦。殺し合いだ。


 別の敵───他の黒オークが攻めてくる。 だが、そうはさせない。


 俺はローキックを放つ。 対人戦闘なら足を蹴る技。


 さらに狙いを定めて、黒オークの膝裏を蹴った。


 巨体が大きく沈む。 そのタイミングで諸手突き───両手で掌底を放った。


 両膝が大きく曲がった状態で腰より上を強く押されると、後ろに進んでいく。 


 そのまま、黒オークは冗談みたいに速いバック走を始めた。膝に力を入れて止まる事ができなくなるからだ。


 やがて、バランスを崩して倒れた2匹目の黒オーク。


 巨体(どんなに軽くても200キロ以上はあるだろう)は、素早く立ち上がれない。


 その隙に決定打を入れたかったが、3匹目が庇うよう立ちはだかった。


 さらに戦線を離脱していた最初の1匹目がダメージから回復して立ち上がっている。


「やれやれ・・・・・・素手で来たのは失敗だったかな? やっぱり武器を1つくらいは持ってくるべきだったかな?」


『うおぉ! やべぇ!』


『コメントを忘れて、見入った!』


『ダンジョン配信初見なんだが、これ普通なのか???』


『普通じゃねぇよ! 上位ダンジョン配信者でも、こんな動きはできねぇって!』


『コメントでの会話はマナー違反だから、やめな!』


 ついうっかり戦闘に夢中になっていた。 コメントの速度も上がっている。


 俺も戦いながら、コメントが把握できるように訓練しなければ・・・・・・ 


 そんな時に、あるコメントが目に止まった。 


『SNSのトレンド1位おめでとう!』


「トレンド1位マジ?」と思わず呟く。


「ちょっと待って確認するわ。スマホ、スマホ!」


『いや、戦いに集中して! 危ない!』


『イレギュラーボスよりも、トレンド1位に集中してて笑うわw』


『本当だから! お願いだから、戦いに集中して!!!』


 いい感じにコメントも温まってきた。 ここら辺で派手に決めるぜ!


 黒オークたちも拙いなりに連携を取ってくる。 逆に言えば、攻撃が読みやすくなっている。


 1匹目の攻撃を避ける。 すると2匹目の体当たり───これで、俺が避ける方向を予測して3匹目が狙いを定めている。


「ほら、やっぱり攻撃が読みやすい」


 ギリギリで3匹目の攻撃を避ける。すると地面に突き刺さったバトルアックスが、この場に残った。


「その上を一気に走り抜ける!」


 一気に黒オークの体に飛び乗ると、その顎先を蹴り挙げた。


 さらに肘鉄を頂頭部に叩き込んだ。


 頭部への二連撃。 黒オークは武器を手放して、倒れた。


 俺は、持ち手を失ったバトルアックスを拾い上げる。


 2、3振り、感触を確かめる。


「よし、これで十分だ。わかったぞ!」


 残りの黒オークに手加減なしにバトルアックスを叩きつける。


 黒オークは慌てて、武器を縦にして防御を固めるが、俺には関係ない。 

 

「行け、吹っ飛べ!」


 カッキィ───ンっ!!! と金属がぶつかったように爽やかな音が響いた。


 もしも、ここがダンジョンではなく甲子園なら、明日の朝刊を飾るほどの快音が鳴り響き、黒オークは天井に衝突して落ちてこない。


「うん、甲子園じゃなく東京ドームだったら認定ホームランだったな」


 俺は気分が良くなっていた。 それが隙になってしまったようだ。


 ……いや、もしかしたら仲間を囮にする作戦だったのかも知れない。


 ドン! 首に強い衝撃を受けた。 どうやら、最後の1匹の攻撃のようだ。


 背後から、戦斧で首を斬りつけられた。


『え!?』


『あぁぁぁぁ!?!?』


『やべぇ! 死んだ!』


 コメントは大混乱だ。 やばい、炎上しそうだ 


「痛たたた……」と俺は首を押える。 どうやら、出血はしてないみたいだ。


『はぁ!?』


『無傷!? ボスモンスターに斬られて???』


『ライガ、どんだけ強いだよ?』


 俺は振り向いて最後の敵を確認した。残りは、黒オークが1匹だけだ。


「どうする? まだやるかい?」


 まだ俺の挑発の乗るくらいの元気はあったみたいだ。


 黒オークはバトルアックスを投げ捨てる。 俺も答えるようにバトルアックスを捨てた。


 互いに呼吸を合わせて─── 黒オークが突進してきた。


 体当たりだ。


 「見事……俺の負けだ。これが相撲ルールだったらな!」


 突進を受け止めた俺の体は数メートル後方で止まった。 


 相撲なら土俵の外。 ただし、これは相撲ではない。


「それじゃ、これで終わりだ!」


 そう宣言すると固めた拳で、黒オークの顎を打ち上げた。


 アッパーカット


 オークの巨体が宙を舞った。


「うん、これでボス撃退だな」


 ボス部屋は、ボスを倒すまで外に出れない仕掛けがある。


 それが解除された音がした。 さて、ボス部屋の外に出る前にやるべき事がある。


 それは───


「さて、ここからはお楽しみのボスドロップを確認するぜ!」

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